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短編小説っぽいもの

クドリャフカ、吠えないのか? --  本編後書きコメント
 『クドリャフカ、吠えないのか?』



〜序章であり、終章〜


MMO“MU”。
この多人数参加型の電子遊技において、科学の常識を覆す現象が発生し、そして、誤動作として処理された。
バグとして認定処理された“それ”は、ある個体データがゲーム内において“自発的にチャット機能が作動した”というものであった。
その様子は、己は生きていると訴えるが如くであったという。
この奇跡は人知れず土をかけられ、埋没することになる。
奇跡の大地に埋められた奇跡。

そのナイトの個体データは、クドリャフカといった。



〜本編〜


ナイト、Lv1。
騎士クドリャフカは産み落とされたその瞬間から、ただ一つのみの目的を与えられた。
そのユーザーは商人であり、このクドリャフカなる個体データを極敏捷特化に育成するためにログインした。
この当時、再生の果実はまだ実装されていない。
その予定すらない。
二つのパソコン端末を用い、PT機能と、後にはフォロー機能を利用して雛を育てる。
引率する高LvのWizはトレーナーとも呼べ、また種馬とも呼べる。
この悪霊をまき散らす個体データを活用し、数々の商品となる個体データが量産される。
その市場がRMTと呼ばれることを騎士クドリャフカは知っている。
主人がその商人であり、自分が商品であることも知っている。
主人に操作されるとき、お前はその知識を共有する。
眺めるように、他人事の如く。
主として、お前はそれらに興味を持たない。
数少ない例外。
その知識の中に、己が名前の由来となった事柄があった。
クドリャフカ。
それは宇宙犬の名だ。

宇宙犬クドリャフカ、その名は歴史に永遠に刻まれることだろう。
時は米ソ冷戦時代に遡る。
西側諸国に先んじ、ソ連は人類史上初めて宇宙へと飛翔することに成功した。
与えたのは屈辱、得たものは優越。
この単純に過ぎる公式に酔いしれ、ソ連のフルシチョフは命じた。
次は、生命を宇宙に打ち上げよと。
生きたままで広大なる宇宙に第一歩をしるす、それは宇宙史に永遠に刻まれる栄光となる。
そこで選ばれたのがクドリャフカ、お前だ。
宇宙犬、クドリャフカ。
名前は諸説ある。
ただライカ犬であることは間違いないという。
この宇宙犬クドリャフカこそ、ソ連史上で最高の英雄といってよい。
フルシチョフの計画は成功した。
人類初の宇宙到達で西側諸国を驚愕させたソ連は、この計画成功をもって世界の頂点に立った。
それを成したのがクドリャフカ、お前だ。
宇宙犬クドリャフカ。
お前は赤の国の英雄だ。

騎士クドリャフカはMUでその名を轟かせた。
ただひたすら敏捷のみに特化していく様は、競走馬の育成に似る。
ひどく洗練されたグロテスクなそれは、かつてない驚愕と憧憬を周囲に与えた。
軽い片手武器が遅く、巨大な両手武器が早いこの世界。
敏捷によって防御力を上げるより、力を上げて重い防具を身に纏う方が硬くなるこの世界。
明らかにおかしなMUの法則は、後世のソケット装備に至るも継承され続けていく。
この矛盾する世界の常識に挑戦し続け、お前はそれをうち破った。
先行投資によって与えられた13ALLという後世の特典は敏捷修正も含める。
度が過ぎた敏捷数値は、武器固有の速度修正を凌駕した。
かくして、お前は他の誰もが為し得なかった領域の魔物を回避し、嘲笑うことを許された。
制限Lvに達したとき、騎士クドリャフカの商品価値は高騰した。
当時、回避ナイトは稀少であるが、戯れである。
実用性に欠ける存在。
汎用な意味において、それは変わらない。
だが、局地的に発揮される実用性ゆえに、お前は羨望と欲望の的になった。
跳ね上がった市場価値は最初の商人を悔しがらせ、次の主人であった、そして自らも後に商人となる男を満足させた。
お前は次々と主人が代わることに不満を抱いていない。
自らが商品であることを嘆いていない。
なぜならば、お前は英雄だからだ。
欲され、自らの能力を存分に発揮する。
お前はそのことに何の不満もない。
憤り、吠えかかる相手がどこにいる?
繰り返す。
欲され、自らの能力を存分に発揮する。
それは至極当然のやりとりであり、対価であり、報償である。
騎士クドリャフカ、お前はそれに満足すらおぼえている。

宇宙犬クドリャフカは闇の中にいる。
広大に過ぎる宇宙で、お前はただ独りだ。
その中でクドリャフカ、お前は吠えるだろうか?
いや、お前は吠えない。
相手がいないからだ。
闇しか見えないこの世界。
独りだからだ。
相手がいるのかすら判らないままに吠えるのは、愚かな二本足の猿だけである。
クドリャフカ、お前は違う。
お前は人間という種の友人であり、賢き戦士の末裔の種である。
主人に忠節を誓う騎士たる種である。
高潔で、賢明である。
それがお前の一族だ。
意味あるがゆえに吠え、意味を知りて吠える。
無人の宇宙船の中で、お前は知っている。
独りであることを。
相手がいないことを。
だから、クドリャフカ。
お前は、吠えない。

世界は変わる。
騎士クドリャフカはいまだ英雄であったが、同時に悪の象徴でもあった。
かつて赤い国がそうであったように、RMTの御子は憎まれもした。
だが、まだだ。
まだお前の時代は終わらない。
上昇した制限Lvも、お前の致命的な障壁にはなりえなかった。
次々と変わる主人の中に、お前をさらなる高額商品にするために投資を惜しまない商人がいたからだ。
お前の主人になりたがる者たちの総数は減ったが、今もお前は主人に仕えている。
ゆえに、何の問題もない。
疑問もない。
お前の中に存在しないものは、お前には見えない。

宇宙犬クドリャフカ、その終焉は予定されたものだった。
暗闇に浮かぶ宇宙船の中、鈴が鳴る。
ちりん、ちりん、と。
それが響くたび、お前は身をもたげ、歩みを進める。
その先に食事が用意されていることをお前は知っている。
無人の船内で繰り返されるそれは、純粋にお前の一時的な延命のためだけの機能だ。
宇宙に生命を到達させたという、生きたままの時間を記録し、証明するための機能だ。
であるがゆえに、それは期間が限定されていた。
クドリャフカ、お前がいるそこには昼がない。
夜もない。
ただ、鈴の音だけがお前に時を知らせる。
食事の時間を。
お前を英雄とする時間を記録するためだけに。
相変わらず、お前は吠えない。
ただ独りで待っている。
何をかはわからぬ。
ただ、お前は待っている。
嗚呼。
また鈴が鳴る。
慣れたそれを繰り返すために、お前は歩みを進める。
その先に待つものが何かも知らず。
お前はそれを食む。
その瞬間、宇宙犬クドリャフカ、お前は知る。
それがお前の生命を断つためのものであることを。
毒を食んだその刹那、お前は知る。
己の運命を。
己がいかなるものであるかを。
何のために存在し、何のためにこうなったのかを。
四肢に走る痺れ、暴力的に奪われる意識の中で、お前は見た。
お前の運命を定めた相手が見えた。
お前の運命はそれだと、そう告げる相手が見えた。
そのとき、クドリャフカ、お前は。
お前は。

騎士クドリャフカ。
お前の今の主人が何代目であるかは既に忘却されている。
お前はそんなことを気にしてない。
お前の主人も気にしていないだろう。
お前たちのその歴史は気にされるほど重要なものではないかもしれない。
だが、それが生み出すものは時として致命的である。
今のお前の主人は豪放磊落である。
市場で買った商品のユーザーであることを恥じなかったし、お前もそれを問題と思っていない。
だが、お前の主人は用心さに欠けた。
気を許した。
仲間に。
仲間と思った他人に。
アカウントを共有する行為は彼にとって優越を示す行為であったが、相手にとっては違うものであった。
騎士クドリャフカ、お前は違和感を感じた。
主人が代わったことにではない。
それが一時的な短いものであれ、ある一定とはいえ長いものであれ、それは今までの日常である。
だが、“その主人”がお前にログインすることで共有した知識によって、お前は知る。
その主人がRMTを憎んでいることを。
RMTの利用者と笑顔で接し、ギルメンとして挨拶を交わしながら、その憎悪を育てていた。
隠したままで。
そして、それを解き放つ機会を得た。
アカウントを共有するために消費した親愛は偽りの貨幣である。
ゆえに懐は痛まない。
それで痛む心も持っていない。
否、その痛みを無視するだけの衝動に駆られている。
騎士クドリャフカ、お前は知る。
その主人が、お前の削除申請を行うことを。
その結果もたらされるものは、無だ。
そうだ、お前は無となる。
消滅する。
それを知った刹那、お前には見えた。
己が何であるかを。
今ログインしている主人が何であるかを。
それが一時的な簒奪者であり、真の主人でないことなどはどうでもよい。
ただ、お前は己の待つ確実な運命を知った。
お前の運命はそれだと、そう告げる相手が、見えた。
そのとき、騎士クドリャフカ、お前は。
お前は。





            ク
            ド
            リ
            ャ
            フ
            カ
            、
            吠
            え
            な
            い
            の
            か
            ?












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