短編小説っぽいもの
やさしい脅迫のしかた、教えます。 --
本編
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外伝
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キャラクター紹介コメント
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後書きコメント
『やさしい脅迫のしかた、教えます。』
〜外伝〜 (おい、兄弟) (なんだ、ブラザー) 相棒の呼びかけに聞き返しながら、そのじつTDにも答えは分かっていた。 そうだ、一つしかない。 あそこにいる・・・ ((ママの隣りにいる優男は誰なんだ?)) ハモる。 T・ダムとTDの二人が隠れている茂みからさほど離れていない所で、彼らのギルマスが一人の優男と立ち話をしていた。 あのパルテナエルフがギルド“Alice”から抜け、新しくギルド“約束の地”を結成してから1年近くの時が流れている。 最初は二人だけしかいなかったギルメンも増え、そして減った。 多くは引退という名の休眠である。 今では常時INしているのはギルマスである彼女と、もちろんT・ダムTDの二人、そして片手ほどの人数となっていた。 が、 (あの優男の顔に見覚えはあるか? 兄弟) (ない。・・・が、あの顔。ハッ、メルヘンだぜ!! ブラザー) メルヘン・・・要は美形と言いたいらしい。 敵愾心を隠そうともしていなかった。 が、それは相棒のT・ダムとて同じこと。 お互いに目配せをし合う。 デビューから一緒に歩んできた二人だ。 お互いの間の意思疎通に言葉は要らない。 今、二人の心は一つだった。 すなわち・・・ママに近づく男には死を。 (Σ) 見逃すことの出来ない光景が目に移り、息を呑む。 (ぶ、ぶぶぶブラザー! あいつ、ママの肩に手をやったぞっ) 心なしか、その手首に動きが見える。 よもや、彼女の後ろ髪を弄んでいるのではあるまいか。 (ゆ、許すまじだぞ。兄弟) TDは即答した。 (必然だ) 勿論、無論を通り越して、必然。 もはや、二人の中であの男は有罪が確定している。 しかも、 (なんでママは嫌がらないんだっ、兄弟!) (分かるもんか、ちくしょうっ) 刻一刻と罪の重さは加速度的に増していっていた。 (耳を澄ますんだ、ブラザー) (わ、分かった) 聞き耳を立てる。 TD言うところのメルヘンな優男の発言が届いた。 「綺麗になったね」 ((!!)) 無意識に握り締めているのは愛用のEXクレセントだ。 幸運OK、スキルOK、EXDもOK。 オーライ、オールグリーン。 その横ではやはり愛用のEX太陽剣を取り出そうとしている相棒がいる。 今やT・ダムの心には悪魔の囁きしか存在していない。 (こ、殺せっ、TD!! 今すぐ奴を殺すんだっ) だが、TDは冷静だった。 彼の心の中にいる冷静な天使は言った。 (落ちつけ。落ちついて殺るんだっ) 結論は同じだった。 天使と悪魔が堅い握手を交わす。 もはや、黙示録の獣は解き放たれるのを今や遅しと待ち構えているのだ。 が、既に壊れかけた鎖が千切れる寸前、彼女の声が聞こえた。 「うん♪ ついこのあいだ揃ったばかりなの、この12ALL^^」 (・・・そ、装備か) (あ、あぁ・・・そうだったみたいだな、ブラザー) 前科がつく一歩手前で踏み止まった二人は、再び聞き耳を立てる。 だが、その手には凶器が握られたままだ。 静かで柔らかい男の声が聞こえてくる。 「これからペア狩りでもどうかな?」 (聞いたかっ、ブラザー!?) (おぉ、聞いたとも! タマ川に蓋はねぇぞっ、スマキで放りこんでやるか!?) タマ川はロレンシア街の横を流れる川で、通称タマちゃんが生息しているためにこの名が付いたといわれている。 ちなみに、T・ダムは激昂すると少し江戸っ子口調が混じり出すらしい。 (まぁ待て、ブラザー。ママがあんな破廉恥な誘いに乗るはずがないっ!!) (そ、そそそ、そうだなっ、兄弟!!) だが、弾んだ声が聞こえる。 「わぁ♪ 嬉しい^^」 ((なにぃぃいぃぃぃっっ!!!??)) 血の涙を迸らせるがごとく心の中で絶叫する獣が二匹。 二匹・・・いや、二人はもはや視線を交わす必要すらなかった。 裁定は降ったのだ。 もはやいかなる酌量の余地もありえない。 血を。 あの男の血を。 燃えあがった炎と狼煙は、もはやそれでしか消すことは出来ない。 悪魔よ、我に力を! さすれば魂をくれてやろう。 もはや漆黒の契約書にサインは終えた、光の早さで。 神よ、もしおわすならば。 しばしの間、その目を閉じ給え。 ガンホー、ガンホー!! もはや理性は感情に完封で敗れ去っている。 二匹の獣は待った。 好機を。 「準備してくるねー^^」 (ママがあいつから離れたぞ!) チャーンス。 見たところ、あの優男はチェンジアップこそ済ませているようだが、羽すらつけていない。 というか、装備をつけていない。 二匹は結論した。 (殺れる) 嗚呼、賽は投げられた。 もはや舞台の幕は上がったのだ。 上演は止められない。 題目は感動巨編、『いま、殺りにいきます。』。 主演の二匹が一歩を踏み出そうとした時、彼女が振り返った。 「あなたは準備しないでいいの?」 慌てて身を隠す。 「あぁ、大丈夫。ガブメールで遊びに来たって言ったら、ギルメンが貸してくれたからね」 そう言う優男の背に現れる二次羽、足元に出現するハイオンのワッカ、そして立ち上るオーラ。 ((なにぃぃぃぃっ!?)) 馬鹿な。 詐欺だ。 (ど、どどどど、どういうことだっ、兄弟! あれはハイオン+11か!?) (いや、他人から見えるから・・・) うめくように言う。 (・・・+12だ) もう一度、二匹の獣は声無き絶叫を発した。 ((馬鹿なぁぁぁぁぁっっ!!)) と、力み過ぎたのか、身を乗り出し過ぎていたらしい。 「あ」 ((あ)) 二人と二匹の目が合う。 「うん? きみの知り合いかい?」 「ええ、うちの期待のギルメンなのよ♪ あなたがいなくなってから、インディのギルドに来たた子たち^^」 「インディか・・・」 優男の表情が濁る。 あまり良い思い出はないらしい。 と、我に返ったように二匹の方を見、にこやかに挨拶をしてくる。 「やぁ。お二人さん、初めまして。ファリアス・シャロンです」 名前までメルヘンだ。 だが、友好的な彼に反して、二匹は距離は取り・・・威嚇するかのように見据えている。 がるるる。 犬のような唸り声が聞こえてきそうだった。 優男が少し困ったように、 「えぇっと・・・彼らに嫌われるようなことを言ってしまったかな?」 言葉が原因では無い。 強いて言えば貴様の存在そのものが原因だと。 詫びる気があるなら死んで詫びろと。 そう言わんばかりの二匹。 「あは、そんなことないわよ。きっと人見知りしてるんじゃないかしら?」 くぅーん。 しょんぼりした犬っころのような二匹。 なぜ、通じないのだ。 この心の叫びが。 ママ。 ねぇ、ママったら! だが、そんな二匹の心も知らず、彼女はうきうきとした口調で言った。 「そんなことより、早く行きましょうよ♪ ね、シャロン^^」 「う、うん。そうだね」 二匹の方が気になりながらも優男が返事をする。 一方、二匹は涙を滝のように滂沱していた。 そんなこと・・・!? ママ、どういうことなのさっ。 だが、二匹の心の叫びは届かない。 吐き気がするほど良い雰囲気の二人が去った後、T・ダムが呟いた。 「兄弟・・・狩りに行くぞ」 「今、そんな気分じゃ・・・」 「てやんでぃ、馬鹿野郎!! 強くなるんだよっ、あいつより強く!!」 力だ。 そうだ、力があれば・・・力さえ。 ちなみに。 暗黒面に落ちた二匹の発言が彼女を悲しませ、慌てて改心することを誓ったのは二日後のことである。
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