短編小説っぽいもの
がいがいあ。 --
本編
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応募内容
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後書きコメント
『がいがいあ。』
〜0〜 その事件は七夕に起こった。 09-07-07 私立ダイアロス学園殺人事件〜蛇神と巌の人形(ゴーレム) ■ストーリー(という名の設定) 平和な私立ダイアロス学園の地下水路で凄惨な事件が発生した。 被害者は私立ダイアロス学園で学務員をしていたガイア。 現場には「たすてけ」というダイイングメッセージと何かの爬虫類の白い鱗が残されていた。 容疑者は4人。一体誰がこんなことをしたのだろうか。 謎が謎を呼ぶ事件。このまま迷宮入りしてしまうのだろうか……。 〜1〜 「そろそろやな」 あぐらをかき、近くにいたボスウーズの頭を無意味にわしゃわしゃしながら濱口が言う。 “ジャングルマスター”ゆえか、それとも天性の素質か、彼はウーズに囲まれている姿がよく似合う。 「あ? 何がや」 相方の“鉄人”アリーノが、いかにもお義理といった熱意で返事をした。 濱口はやや情緒不安定気味なので、ここでいきなり「何がじゃないやろがぁっ!!」とブチ切れることもあるのだが、今日はまともだった。 「あれや、あれ」 「情報増えてへんやんけw」 逃げ出したボスウーズの背中を少し寂しそうにみやった後、濱口が言った。 「締め切りや」 アリーノが怪訝そうに「締め切り?」と首を傾げる。 と、横から 「あー! それあれじゃない、あれ!」 健康的に日に焼けた“海戦士”ジュリマリが会話に入ってくる。 その眩しい肢体に目を奪われることもなく、「やっぱり情報増えてへんw」と苦笑するアリーノさん。 「そう、あれやねんっ、あれ!」 こちらはしっかりとたわわな胸に目を奪われながら答える濱口。 “ジャングルマスター”は良くも悪くも素直な子である。 「うんうん、あれあれ」 無意味に「アレアレ〜♪」と歌いだした濱口はおいておくとして、このままだと話が進まないのであたしも加わることにする。 「あれって、あれでしょ」 あ。 ブルータス、お前もか。 と言いたげな顔で「モニ、お前もかw」とアリーノさんに言われてしまった。 いや、今から言うつもりだったんだけど! ほんとほんと。 「ダイアロス学園殺人事件」 とあたしが言うや、 「「それだっ」」 濱口とジュリマリがハモって叫んだ。 「そう、そやねん。ガイア殺人事件!」 殺人・・・ガイアって人だっけ? まぁ、どうでもいいんだけど。 「あー、あれもう締め切りやったっけ」 「うむ。今日やったはずや」 腕組みして重々しく相方に答える濱口には悪いのだけど・・・ 「・・・締め切りはもうとっくに過ぎてると思うけど」 言いづらそうに、あたし。 「なんやとっ!?」 「今日は応募締め切りじゃなくて、真相発表の日じゃないかな」 チワワはじつはタヌキの仲間でした! とでも告げられたような、愕然とした表情で濱口が固まる。 「お前、まだ応募してへんかったんかいw」 アリーノは応募を済ませてるらしい。 かくいうあたしは応募してなかったりするんだけど。 正確には、応募できなかった。 ギリギリまで考えようと思っていたら、締め切り二日前にパソコンが壊れたからだ。 「おー、みんな集まってるな!」 崖下からいつもの大声で喋りながら、“ジャスティスタンク”ファランクス兄弟もやってきた。 いつもながらのごつい身体が絶壁を駆け上がってくる姿には違和感を禁じえない。 なんかスルーって滑るように登ってくるんだもん。 あれ、違和感あるよね? ね? 「ここ遠くないか?w」 どっかりと腰をおろしながら、兄のほうが愚痴る。 ちなみにここはミーリム海岸にある、とある崖の上だ。 ウーズ2匹と、ボスウーズ1匹がPOPする場所と言えば分かるだろうか。 正直、ここを溜まり場にしてしまうのはマナー違反だと思うのだが、我がFS【燦々散華】は不定期にちょくちょく集合場所を変えるので、来週にはまた違う場所に集まることになるだろう。 だから許して、見逃して。 「次はもっとアルターに近い場所にしようや、アルターに」 弟もバナミルを飲みながら同調する。 あたしもそう思っていたので、ここは大きく頷いておいた。 「ねぇ、あんたたちは応募した? ダイアロス学園殺人事件」 彼らにも聞いてみると、二人とも応募は済ませたらしい。 他のFSメンにも聞いたが、結局ほとんどの人が応募していたことが分かった。 ちょっと意外。 思いのほか注目されてた企画だったみたいだ。 復習がてら紹介しておくと、公開された情報は以下のような感じ。 ・被害者:ガイア 筆頭学務員。地下水路の主。体には噛まれたかのような跡が残されていた。 生前は厳しくも優しいその性格から、学園の多くの生徒に慕われていた。 ・参考人:用心棒 グレイブン 地下水路の掃除屋兼大豆栽培委員。 「白い蛇が通っていったのを見たぞ。 途中でつっかえていたのだぞ。 それより大豆をどうぞだぞ?」 ・参考人:ネイチャー ゴーレム 自然を愛する環境委員。花を踏み荒らすものには鉄拳制裁。 「ああ、ガイアさんが殺されたらしいね。 残念な事件だったね……玉鋼がまだ見つかっていないんだろ?」 ・容疑者A:ストーン ゴーレム 地下水路の清掃員の一人。 事件のあった前日、ガイアに「もっとしっかりやれ」と怒られている所が大勢に目撃されている。 「事件があった日、俺は非番だったぜ。サンドゴーレムと一緒にいたから証言してくれるんじゃないか」 ・容疑者B:ファイアー ゴーレム 焼却炉の番人。熱血漢。 ガイアとは長い付き合いだが、音楽性の違いから喧嘩することもしばしばあったようだ。 「うぉおおおおおおおおおおおおおお、ガイアあああああああああああああああ! なんで死んでしまったんだあああああああああああああああああああああ!」 事件当日は焼却炉で色々と燃やしていたと言っている。 ・容疑者C:グリードル 地下水路に住み着いている凶暴な魚。死体に噛まれたような跡があったので容疑者入り。 「私、水から出られないんですけど……それでも疑うんですか?」 水から出してみたらとても苦しんでいた。かわいそうなので水に戻してあげた。 ・容疑者D:ミシャグジー 私立ダイアロス学園のn年生(nは1以上の整数)。 ガイアとは親友である。 「ばばば、馬鹿なな事を言うでない! わわわわわわ、ワシが、こ、ころすわけ、な、なかろう!?」 該当の時間にアリバイはなく、事件後に虎徹を作っているところを目撃された。 ※この事件は「 ノックスの十戒 」も「 ヴァン・ダインの二十則 」も考慮にいれていません。 ビスクのガードも真相究明を諦めたこの事件。犯人は一体誰なのか!? 「みんなは誰が犯人やと思ったんや?」 みんな話しているうちにノってきて、そんな流れになった。 「そりゃミシャでしょw」 「え〜、グレイブンとか凶暴そうやん」 「あれ参考人やろ。容疑者じゃなくって」 「いや、容疑者以外の犯人の可能性もあるって追記されてた気がするな」 「まじか」 「いやでもミシャ様あやしいしw」 「下克上ということでストーンゴーレムとか思ったんだけどなー」 「何その戦国設定w」 「戦国といえば信長の野望か、ショーグン・トータル・ウォーやな」 「何やねん、それ?」 「暗殺ユニットの芸者が白い悪魔なんや」 「意味が分からんw」 「http://www.youtube.com/watch?v=ibAdi-q_EHA見とけ」 会話は脱線していったが、集計してみると【燦々散華】では以下のような感じの予想になった。 グレイブン:2票 グリードル:1票 ストーンゴーレム:1票 ファイアーゴーレム:1票 ミシャグジー:7票 「ミシャ予想、ダントツやんけw」 あからさまに偏った結果になってしまった。 あ、そうだ。 まったく蛇足だけど、募集告知の最後に ■プレゼントのコーナー 「 私立ダイアロス学園殺人事件〜蛇神と巌の人形(ゴーレム) 」をご覧の方に、制服装備をプレゼント! 制服を着て私立ダイアロス学園に潜入し、事件の調査をしよう! ・・・終了後のプレゼントに制服なわけで、“制服を着て〜学園に潜入し、事件の調査をしよう”は無理があると思う。 うん、ちょっと気になったから言ってみた。 だってガチャ回したけど当たらなかったんだもんっ!! 愚痴愚痴愚痴のやつあたり。 「ふぅむ、参考までに皆の予想した根拠を聞いてもいいかね?」 FS【燦々散華】の自称・軍師、“サムライ”亜さんが言った。 自称・知性派の亜さんだけに、推理の根拠や動機が気になるらしい。 「ん〜・・・カッとなって自分で殺しといてさ、“なんで死んだんだぁ”って勝手な言い草が犯人くさくね?w」 これはファイアーゴーレム説のファランクス弟。 「さっき言ったように根拠は“下克上”ね」 ストーンゴーレム説のジュリマリ談。 「グレイブン予想って意外に二人いたんだっけか?」 「俺だな。あと・・・」 「わしじゃ」 ファンクス兄弟の兄αと、“紺碧の賢者”孤高の人がグレイブン説。 「なんでグレイブンだと思ったのかね?」 という亜さんの問いに 「いや、あの面構えは殺してるだろw」 思ったよりアバウトな理由で選んだらしいファランクスα。 と思ったら、 「うむ、まったく同感じゃ」 賢者らしからぬ理由だったらしい孤高の人。 まぁ、ほとんどの人は適当に予想してると思うよ。うん。 ちょっと眉をしかめた亜さんだったが、気を取り直して続ける。 「では、ミシャグジー説の皆はどうだろう?」 「めっさ動揺してるし?」 「証言もぴったり合うしな〜」 「目撃された玉鋼と虎徹の関係とかかなぁ」 「あのウソ泣きは=犯人と言わざるを得ない」 おおよそ予想通りといったところだったらしく、大きく頷く亜さん。 「無理もない推理といえるだろう」 「ま、ここは鉄板でミシャやな!」 また捕まえたらしいボスウーズをわしゃわしゃしながら濱口が言う。 「いや、お前応募間に合わんかったやんけw」 ツッコミを入れる相方に「予想くらい参加させてくれー」と濱口が駄々をこね、そのスキにボスウーズが逃げ出してる。 「ムニくんはどうだね?」 あたしまで指名されてしまった。 応募できなかった濱口が参加した以上、あたしも参加する資格があるってことだろう。 せっかくなので、あたしは自説を披露することにした。 右手を元気良くシュパッと上げ、立ち上がって発表した。 「妖怪たすてけ、が犯人です」 「よ、ようかい・・・?」 まったく虚をつかれたらしい亜さんに、あたしはきっぱり「はい、妖怪たすてけ」と繰り返した。 「あ〜・・・えぇっと?」 言葉が続かないらしい亜さんに自説を披露していく。 「根拠はダイイングメッセージです」 認知できる単語に反応して、亜さんが頷く。 「うむ、それは重要な要素だね」 「はい。被害者が死の間際に残すダイイングメッセージは犯人を指していると考えるのが妥当です」 「うむ」 大きく頷く亜さん。 公式の文中に曰く、『現場には「たすてけ」というダイイングメッセージ』が残されていたという。 「なので、妖怪たすてけ」 「・・・」 ひどく心細そうな表情で、亜さんがこちらを見ている。 「容疑者はもちろん、この大陸に“たすてけ”という名前の人は多分いないと思います」 「・・・まぁ、そうだろうね」 事件発生後は分からないけれど。 「だから、妖怪たすてけ」 「・・・そ、そうか・・・」 「はい!」 あたしは自信満々に胸を張った。 途方にくれた様子の亜さんを見ているのが楽しくなってきたのは内緒内緒。 が、やがて少し立ち直ったのか、亜さんは咳払いをし、 「と、きみたちの予想を聞かせてもらったわけだが」 Σ流したっ 無かったことにしやがった!! ・・・まぁ、無理もないか。 「ここで、僭越ながら私の推理を披露したいと思うのだが、どうだろう?」 ほぅ。 あたしの推理の後でとは、なかなか自信満々ですな? ふっふっふ・・・ここはお手並み拝見。 他のみんなも異存なかったらしく、暇つぶしがてらに亜さんを中心にした円陣を組む。 亜さんは語り始めた。 〜2〜 「まず、容疑者A:ストーン ゴーレムと容疑者B:ファイアー ゴーレムであるが、この二人は分かっている犯人の根拠があまりに薄い」 いきなりファランクス弟とジュリマリの二人の予想をつぶす亜さん。 彼は良い人なんだけど、自称・知性派だけにこういう場面でしばしば暴走気味になる。 とはいえ、ジュリマリのほうは普段から亜さんに好意を抱いてるのが見え見えだし、 「動機の可能性、“ケンカしたかもしれないからアイツ怪しい”レベルである。ゆえに除外したい」 という説明に、ファランクス弟のほうもあっさりと肩をすくめてみせた。 元々、こだわるほどに推したい推理でもなかったみたい。 あたしはこだわるけどね! 妖怪たすてけ、これ間違いなし。うんうん。 亜さんは続ける。 「容疑が濃いといえばダントツの容疑者D:ミシャグジーだが」 周りのみんなを見回して言う。 「怪しい要素てんこもりだが、よく考えればどれも状況証拠レベルである」 ふむ。 アリバイが無いことについては、 「アリバイが証明できない日常だっただけかもしれず」 玉鋼と虎徹の関係については、 「他から入手した玉鋼で虎徹を作ったかもしれない」 まぁ、それはそうだ。 「目撃証言だって、近くを通りがかっただけかもしれない」 それも否定はできない。 「親友なら頻繁に訪ねることもあろうし、そのときに鱗が落ちても不思議は無い」 そういえば、ミシャグジーの説明に“ガイアと親友”ってあったっけ。 「遊びに行った友達の家に抜け毛を落としたというだけだ」 なるほど。 蛇の生態は分からないけど、それなら何となく分かる気が? さらに亜さんは主張する。 「被害者と親友であるにも関わらずのこの怪しさは、おそらく紹介写真のウソ泣きが最大原因だ」 ・・・ま、まぁ何となく納得しちゃうけど・・・。 「うん、そんな気がします」 Σ口調が変わった ちなみに、亜さんの口調が尊敬語になったりするときは、たいていにおいて後ろめたいときや自信のないときだ。 でもまぁ、そこらへんはみんな分かってるので、そっとしておいてあげる優しいFSメンバー一同です。 亜さんは立ち直り、 「現時点で最も容疑が濃いのは容疑者D:ミシャグジーであるが、それ以上に容疑が濃い要素を持つのはいないだろうか?」 芝居がかった仕草でみんなに問う。 この人はこういうのが似合う。 ここからが亜さんの真骨頂だ? ジュリマリが身を乗り出しているのが見えた。 演出効果充分に間をもたせ、亜さんは「いる」と告げる。 はっきりと口にした。 「容疑者C:グリードルである」 なんと。 グリードルって、魚だよね? ね? あたしは亜さんに注目する。 「被害者に噛まれた痕があり、それで容疑者入りしたくらいであるから、歯型がかなり一致したことは間違いあるまい」 それは・・・確かに、そうかもしれない。 「“噛み跡が理由で無理な容疑者を出してみました”ように見えるグリードルだが、よく考えれば最大容疑者だ」 う〜ん・・・ 「死因と思われる傷と一致する凶器を持ったやつがいれば、犯人に決まっているではないか。ましてや、この場合は凶器が本人と不可分であり、明らかに本人以外使えない凶器である」 た、確かに根拠としてはかなり大きいけど・・・でも・・・ 「にも関わらず、なにゆえに“無理な容疑者”に思われるのか?」 うん、そう。 無理だと思うのよね、魚だもん! 亜さんはあたしの思いを口にした。 「理由はただ一つ、『水から出られないんですけど』」 だが、亜さんはあっさりと首を振ってみせた。 「違うのだ」 違う? 「思考の順番が逆だ」 え、どういうこと? 「水から出られないグリードルだから犯人ではないというのは、ただ一つの勝手な前提条件に起因する」 勝手な、前提条件・・・ 「すなわち、“犯行が行われたのは地上である”という思い込み」 亜さんは重々しく言った。 「公式のどこにもそんな記述は無い」 あ・・・本当だ。 「では、犯行時、被害者のガイアが水中にいたというシチュエーションはいかに構成されたのだろうか?」 亜さんは思考の流れを解説していった。 紐解くように。 その先にはあるのは真実なのだろうか・・・ 「地下水路で水中に落ちる(入る)といえば、中央に走る大水路であろう」 あぁ、ウインドがいる横の! 「そこの上にかかった、左右をつなぐ石橋」 あるある。 あそこ、吹っ飛ばされると落ちちゃうんだよね・・・落とされて魚に噛まれながら、ビスクまで何度泳いで帰ったことか。 うぅ。 嫌な記憶を思い出しているあたしに関係なく、亜さんは語り続ける。 「その石橋に壊れたものがあるのはご周知の通りかと思う」 「あー、あそこ間違って時々出ちゃうのよね。知ってる」 「自動前進で落ちそうになったことあるわw」 「あるあるw」 みんな心当たりがあったらしい。 そのことに気分を良くし、亜さんは続けた。 「石橋のメンテは、POP地点からストーンゴーレムの担当と見てよい」 ほぅ。 「だが、容疑者A:ストーン ゴーレムは言っている。『事件があった日、俺は非番だったぜ』」 うんうん、書いてた書いてた。 しかも、『サンドゴーレムと一緒にいたから証言してくれるんじゃないか』という証人つきだ。 さも重要そうに亜さんが確認する。 「担当の彼は休みだった」 うん、そうだよね。 「だが、壊れた橋というのは危ない。『優しい性格』の『筆頭学務員』であるガイアは心配した」 そうか、設定上、ガイアはストーンゴーレムの上司で、いってみれば現場責任者だ。 『学園の多くの生徒に慕われていた』ほどの『優しい性格』と書いてある。 「直そうとしたか、見回りか、壊れた橋を巡回した。が、彼はきっと・・・大きすぎた」 亜さんが沈痛な表情で「重すぎた」と言う。 重い口調で、 「不注意からか、崩れたか、彼は壊れた石橋から水路の水中に落下してしまったのである」 「さて、水中にいたのは容疑者C:グリードルだ」 亜さんは加速していく。 己の思索が見つけた、真実かもしれないモノに向かって。 「上から落ちてきた『多くの生徒に慕われていた』ガイア。なんということだ」 それは驚いたことだろう。 あんな巨大なガイアが落ちてきたら、あたしだってびっくりする。 「グリードルは、彼のコメントからも善良そうな人柄が窺える」 確かに気弱そうな口調だったよね、うん。 「そんな彼は当然の行動を取ろうとした。すなわち、水中に誤って落ちてしまった犠牲者を救助しようとしたのである」 なるほど。 善意の第三者として当然の思いだ。 亜さんは自分の両手を前に出し、「溺れる人を助けようとするとき、我々は手を使う」と説明する。 うん、それは当然そうだ。 「だが、グリードルには手が無い」 あ・・・ 「彼にあるのは牙だけである。引っ張り上げるため、彼はガイアを噛んだ」 亜さんは悲痛な表情で語る。 「救助しようとするとき、力加減などしない。誰でも、力いっぱい思いっきり引っ張り上げるものだ」 うん。 「ましてや小柄なグリードルが、沈みゆく巨大なガイアを引っ張り上げようとするのである」 悲しみの色に染まった言葉をつむぐ亜さん。 「彼は力いっぱい噛んだ」 ・・・。 「渾身の力で噛んだ」 それは、それは・・・ 「・・・助けたくて」 亜さんは「これは蛇足だが」と前置きをして、「公式にガイアが事切れていた場所の記載はない」と言う。 誰も口を挟まず、亜さんの言葉に聞き入っていた。 「が、私は水路からガイア部屋への途中であったのではないかと思う」 力を込めずに淡々と言う。 「ガイアはグリードルによって地上へと帰ることが出来た」 けれど・・・ 「『優しい性格』の彼は、自分の命を助けようとしてくれたグリードルに“お前、俺を噛み殺す気か!”とは言えなかった」 むしろ、善意の救助者に感謝の言葉を口にしたことだろう。 「自分を助けようとしただけなのだから」 だから・・・グリードルは自分が殺人者であることを知らない。 「そして、被害者は自分の部屋へと向かう。保険の先生であるゴーレム ハイプリーストのところへ、ヒールオールの治療を受けるために」 ガイア部屋、そこには治癒魔法を使えるゴーレムもPOPする。 「だが、彼の傷は深すぎた」 亜さんの声には表情がなかった。 「ひとに優しくなれなければ生きるに値しないという」 あぁ、その言葉は知ってる。 「だが、タフでなければ生きていけないのだ・・・ガイアは生きるに値する人物だったが、生き残るにはタフさが足りなかった」 世界的に有名な、ハードボイルドの金字塔にある名文句だ。 「ダイイングメッセージは『たすてけ』である」 そう、だから妖怪たすてけ・・・なんて茶々を入れる気にはもうなれなくなっていた。 「考えてみて欲しい」 亜さんは言う。 「誰かに殺されたならば、ダイイングメッセージに残すのは犯人の名前であろう」 うん。 「死に瀕しているとき、自分が死んだ後に残すメッセージとして助命嘆願の言葉という選択肢はおかしい」 そうだ。 そして、亜さんは「少なくとも、犯人がいる殺人事件では」と続けた。 「だが、今回の場合はどうだろうか?」 今回の場合・・・ 自分の傷が致命傷であることを悟ったガイア。 だが、『優しい性格』の彼は救助者を“自分を殺した犯人だ”とは言えなかった。 書けなかった。 溺れる自分を水中から助けてくれたのだ。 けれど・・・死にたくはなかった。 「彼の最期の思いは加害者への恨みではなく、助かりたいという一念のみであったに違いない」 亜さんは言う。 「『たすてけ』という日本語としておかしな言葉からも、自分を“助けた者”と“殺した者”が同じであるというジレンマに葛藤し、混乱している様が窺えよう」 一人の探偵がつむぐ物語は終わりを迎えようとしていた。 「この事件のどこにも悪意は無い。殺意も無い」 ひどく哀しみに満ちた声で、彼は言う。 「あるのはただ、善意だけである」 被害者ガイアは“危ない場所の見回りという善意から”死地に向かい。 殺人者グリードルは“溺れるものを救助しようという善意から”噛んだ。 けれど。 ガイアは壊れた橋には重すぎ、グリードルに助ける腕は無かった。 石橋付近の本来の担当であるストーンゴーレムが非番であったことにも悪意はない。 殺意も無い。 「私はこの事件を“優しい殺人事件”と名づけ、ファイルしておこうと思う」 探偵は締めくくった。 「そして、近いうちに容疑者B:ファイアー ゴーレムを尋ねたい。彼はきっと、この顛末から名曲を作り出すだろう」 音楽性を語り合うほどだったという友人に捧げる、それがなによりの供養になることを願って。 〜3〜 凄い。 あたしは感動した。 凄いと思った。 だから・・・言わなければならない。 あたしは告げなければならない。 言いたくは無いけれど、残酷なことを口にしなければいけないのだ。 「亜さん」 「うむ、なんだね」 振り返る亜さんはどこか疲れた、それでいて清々しい空気をまとっているように見えた。 「言いにくいんだけど・・・」 「うん?」 怪訝そうに、くいっと片眉を上げる仕草をする亜さん。 周りのみんなも、あたしが何を言い出すんだという感じで注目するのを感じた。 ごめんね。 でも、言わなきゃ。 「解決編、もう公式にUPされてるの」 「・・・」 「・・・」 「・・・・・・え」 09-07-14 私立ダイアロス学園殺人事件解決編(17時更新) ■真相、あるいはもっともそれに近い回答 それは暴かれてみれば単純な話だった。 真相が明らかになった今、冒険者達は犯人を追い詰めていた。 「そう、か。ついに気付かれてしもうたか」 犯人――ミシャグジーはそういって振り返った。 「そうじゃ。ワシがあやつを……がいあを殺したのじゃ。 それにしてもなぜ、ワシが犯人だとわかった?」 足りない玉鋼、あやふやな証言、残された鱗、出演者の順番(3番目は犯人になりやすい)……。 「ふっ。ワシのせっかくの工作も無駄だったようじゃな。 水路を行く姿をぐれいぶんに目撃させ、現場には白い鱗を残し、見せ付けるかのように虎徹を作る。 尋問されれば慌ててみせる。 それらは全て“わざと”だったのじゃ。 こうやって怪しいように見せかければ、逆に犯人には見られまい? そう、これは……とりっくを使うことを逆手にとったとりっくだったのじゃよ」 目を瞑り、全ての発端を話し始める。 それは……とても悲しい物語だった。 「それはワシとあやつが出逢ったあの日まで遡る…… (時間がかかったので中略) ワシは虎徹が欲しかった。ただ、それだけじゃ」 全てを騙り終えたミシャグジーは、不意に空へと身を投げた。 冒険者の誰かが手を伸ばし、しかしその手は彼女の手を掴むことはなかった。 そして ミシャグジーはそのまま 深い深い地下水路へと落ちていった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― スタッフロール ・用心棒 グレイブン 「悲しい事件だったのたぞ。 それより大豆をどうぞだぞ?」 ・ネイチャー ゴーレム 「彼女は彼女なりに格好良くなりたかったのだろうね。 ところで君が今踏んでいるのは何かわかるかい? そう……花だ。後はわかるね?」 ・ストーン ゴーレム 「だから俺は最初からやってないっていってたろ!」 ・グリードル 「ぷかぷか」 ※このイベントはフィクションです。 実際のゴーレムの設定、ミシャグジーの設定とはあまり関係ありません。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「・・・あ〜」 「えぇっと・・・」 公式の解答を読んだみんなが、それぞれに決まり悪そうな感じで言葉を濁す。 その中で、ジュリマリが恨みがましそうな目でこちらを見ているのに気づいて、あたしは内心で土下座する。 「いやまぁ、その・・・なんだ。なぁ?」 「あ、あぁ。あっはっは」 無意味な会話と無意味な笑い。 その痛々しさに耐え切れなくなる直前、亜さんが立ち上がって告げた。 「そろそろ、行くよ」 え? 亜さんはどこか遠くを見ながら、「・・・ファイアーゴーレムのところへ」と呟くように言った。 逃げたっ。 現実から逃げた!! けれど、この逃避はFS【燦々散華】皆の総意でもあった。 公式の解答UPはなかった。 そういうことに。 「お、おぉ! 気をつけてな」 「それはお前の役目だよ、うん!」 「そ、そうよね!? 真実を掴んでしまった探偵の宿命・・・」 「よろしく伝えてくれよな!」 みんな何かから目を背けながら、熱烈な送迎をもって・・・そうして、亜さんは旅立っていった。 独り、地下水路の奥へと。 〜4〜 けれど、あたしはふと気づいたことがある。 公式にUPされた解答編・・・文中には、“全てを騙り終えたミシャグジーは”と書かれてある。 “語り終えた”でなく、“騙り終えた”なのだ。 誤変換かもしれないけれど、そうじゃないかもしれない。 だとしたら・・・飛び降りる前の、彼女の自白はウソだったことになる。 ウソだとしたら、何故そんなウソを? だとしたら何のために。 だとしたら誰のために。 だとしたら、だとしたら。 その“だとしたら”の果てにあるのが、“善意の殺人者をかばった騙り”であってもいいと、あたしは思った。 真実を天国の闇に隠して。 ネイチャーゴーレムは言っている。 “彼女は彼女なりに格好良くなりたかったのだろうね”。 そのほうが格好良いと、あたしは思ったんだ。
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