短編小説っぽいもの
ゆめゆめ。 --
本編
『ゆめゆめ。』
〜プロローグ〜 「これより・・・“ゆめがたり”を・・・始め、ます・・・」 ただでさえ暗い顔をした男が、ボソボソと陰気な声で告げる。 こわいっ、こわいよ! FSイベント(?)“夢語り”の記念すべき第一回の開幕宣言としてどうよ!? 肝試しや百物語なんじゃないんだからさぁ。 だが仕方が無い、これが彼の持ち味・・・というか、どうしようもない個性である。 彼は生まれたときから不幸に囲まれ、希望という光など都市伝説だと信じているかのような男なのだ。 おそらく棒アイスで“当たり”をひいたことなどないし、チョコボールで金も銀も出したことがないだろう。 いや、銀を速攻で二枚だけ引き当て、三枚目が永遠に出ない。 そんな、逆にきつい運命の元に生まれてしまったような人。 会う人が思わず“幸薄い”という言葉を連想してしまうオーラをまとっている男なのだ。 もっとも、それは彼のスキル構成のせいもあるかもしれない。 NoLifeKing、彼は生命スキル0のソードマスターという奇跡のような存在。 まさにノーライフ。 ついでにノーフューチャー。 盾も着こなしも回避もないものだから、極めてナチュラルに死ぬ。 ソードダンスを合わせても貫通ダメージで逝き、ヴァンパイアサイスを当てればスリップダメージで自分の死が確定する。 蛍のように儚い存在。 狩場につくまでに死ぬことも日常茶飯事だ。 ヌブのアルター前に集合した皆の前に舞い降り、そのまま血しぶきを上げる姿を最初に見たときは驚いたけど、もう慣れた。 FS【燦々散華】では最も死に近い男、“ポックリさん”の異名で呼ばれている。 「・・・誰やねん、こいつを司会にしたんは」 小声(でも地声が大きいのでモロ聞こえだ)で“ジャングルマスター”濱口が相方に思わずもらした。 「まぁそう言うなや。ノラっちも悪い男やないで、暗いだけで」と“鉄人”アリーノさん。 NoLifeKing、愛称は“ノラ”“ノラっち”。 「司会としてあかんやろっ、それは!」 「ええやないか、暗かったら電気をつければ」 「意味分からんわ」 いつもの掛け合い、この二人はリアルでも漫才コンビをしてるんじゃないかと思うほど仲良しさんだ。 「んじゃあよ、さっそくアイデア出していこうぜ」 “ジャスティスタンク”ファランクスαが言う。 それに応えて、さっそく手を挙げてアピールしたのは“海戦士”ジュリマリだ。 「はーい! はーい!」 「おー、ちゃんと考えてきたんか。感心感心」 説明しておくと、この“夢語り”は“実装を期待するアイデアを出し合って妄想する会”だ。 こんなのが実装されたらいいなー。 こんなの思いついたんだけど、良くね? そんな妄想を垂れ流し、もし本当に実装されたらどうなるかを酒の肴にしてダベろうという企画。 ポジティブなのかネガティブなのか微妙だ。 とにかく、そんな趣旨の集まりが企画され、当日の今日までにアイデアを考えておくのが宿題だったわけである。 「では・・・ジュリマリ、さん・・・お願い、します」 快調な出だしをすかさず殺すように陰気な声で指名するNoLifeKing。 本人に悪気は、ない。 そして、陽に焼けた外見通り、基本的に明るい性格のジュリマリが提案したのは・・・ 「ペット会話機能、“ガウリンガル”!!」 〜ドリームゾーン〜 「とうとう、この日が・・・」 FS【デカルチャー】のマスター、XXXは興奮していた。 ちなみに、“XXX”は伏字ではなく“トリプルエックス”と読む。 スキンヘッドのパンデモスで、善良な人々を怯えさせる笑顔の持ち主だ。 だが、親しい者たちからは「あのツラで笑うんだぜ? ネジも巻かずに自分で!」と愛されている。 それはともかく、キラーマシーンのような外見のこの男は“マスターテイマー”である。 テイマー。 ペットと呼ばれる魔物たちを使役し、敵を屠る者たち。 彼はその中でも、押しも押されぬ超一流のテイマーである。 寝食を惜しみ、金と労力、時間に糸目をつけず。 その果てに行き着いた極限の領域・・・その結晶が、彼の目の前に浮かぶ漆黒の少女。 混沌から生まれたそれを、カオスピクシーという。 そのレベル、実に150。 すなわち、まさに文字通り極限まで育て上げた奇跡のような存在である。 実際、レベル150に達したペットなど世界に極わずかしか存在しないだろう。 ペットこそが究極。 決して基本四種族では成長できぬ高みに至るステータス。 テイマーこそが至高。 クリ銃? 神秘サムライ? 笑わせる。 いかに最強を語ろうが、しょせん“ありふれた一つ”ではないか。 横を見ろ。 お前と同じ奴がいるじゃないか。 我が道こそが、真のビクトリーロード。 そう信じて。 彼は多くのものを捨ててきた。 時間。 金。 仲間。 己自身の成長さえ、犠牲にしてきた。 手に入れたありとあらゆるものを手放し、その結果残った唯一つのもの。 それが目の前のカオスピクシーなのだ。 そして今、“あれ”が実装された。 全てのテイマーが、全てのペットを愛する者たちが切望したであろう課金アイテム。 ペット会話機能、“ガウリンガル”である。 多国語を話せる“バイリンガル”をもじった犬語翻訳機“バウリンガル”が元ネタに違いない。 だが、最初の一文字“バ”が合っていたのに、そこまで換えた“ガウ”リンガルという命名はいかがなものだろうか。 重なっている“ウ”はバイリンガルと何の関係もないぞ。 「・・・」 XXXは感極まった様子で、涙を堪えるかのように上を向き、その腕をカオスピクシーにまわす。 触れてはいない。 だが、愛しい子を守ろうとするかのように、あるいは尊い像をかき抱くように、彼は自らの腕の動きを抑えることが出来ずにいた。 この漆黒の少女は俺の全てだ。 彼はそう断言できる。 混沌の中から拾い上げた時には、毛玉だった。 あの、大口をあけてあくびをする毛玉が・・・こんなに立派になって。 もう感無量のお父さんの心境である。 グレた時代もあった。 時代錯誤なリーゼントでケイジから出てきたときは、彼は己の教育方針の何が間違っていたのかと悩みもした。 繭となってからは、飲まず食わずで卵を守るペンギンパパの心境であった。 その卵を殴らせなければ成長しないと知ったときの葛藤。 彼は悲しみに泣いた。 うちの子に何をしやがる。 思わず手を出したこともあった。 その日は成長しなかった巨大卵を前に、こんなお父さんでごめんよと心の中で謝ったあの日。 カオスの布をFSメンバーから強制徴収したこともあった。 仕方が無かった。 彼はなかなかカオス布が出なかったのだ。 待てなかった。 トーマス、ヘンリー、あのときは殴って強奪してごめんよ。 もうFSにいない二人に心の中で詫びる。 そんな日々を乗り越え、繭から漆黒の少女が孵化したとき、彼はモニターの前で吼えた。 恥も外聞も無く号泣した。 仮にも社会人となっていた大の男が。 お隣りさんの苦情などの虫の囀りだった。 知ったことか。 見ろ、この娘を。 俺の娘だ。 モニターに移る漆黒の少女を指差した。 誰に? 誰でも良かった。 見てくれと、そう言いたかった。 カレンダーに丸をつけた。 そして、あれから二年・・・彼の娘はレベル150という極限の存在に成長した。 長かった。 長すぎた。 その時間は、彼のリアルから友人や恋人、仕事を奪うのに充分な致命的な長さであった。 だが、彼は一片も後悔していない。 その迷いの無さこそが、最大の致命傷なのだが。 ともあれ、その彼の娘が・・・ (喋る・・・話す、のか・・・本当に?) 本当だろうな、ゴンゾ。 これがウソであったなら、俺はキチガイクレーマーと化すと知れ。 毎日1000通を越えるメールを送りつけてやる。 直通の電話番号を入手してやるからな。 ありとあらゆる手を使って運営ブログを炎上させてくれよう。 だが。 先ほどカオスピクシーに使用した“ガウリンガル”が本当にペット会話機能を可能にするのならば。 俺はゴンゾの家畜となってもいい。 毎月の課金など厭うまい。 墓地のような家だって持とう。 ガチャも回す。 森で燃やそう、キャンプファイアーができるほどの勢いで。 泉よ、次々と飲み込むがいい。 だから。 これが夢なら・・・醒めないでくれ。 彼の視線の先で、眠るように目をとじている漆黒の少女。 その繊細で優美な顔の造形からは、最強の生命体であることなど想像もできない。 だが、次にまぶたをあけたとき。 少女の濡れたように光る唇は言葉をつむぐのだ。 どんな声だろう。 意外にハスキーな声かも。 いや、キャピキャピした声だって構いやしない。 白い歯を見せ、少女は微笑むだろう。 見たい。 見たいんだ。 その笑顔を見せてくれ、俺に。 いかついスキンヘッドの巨漢は待った。 そのときを。 そして・・・ (!) 長く繊細な睫毛がゆっくりと上がり、大理石のような瞳が彼を、見た。 「お、おぉ・・・」 もはや彼の興奮は最高潮である。 さぁ、話してくれ。 さぁ! うるんだ目で漆黒の少女をみつめる。 少女の気品のある眉がひそめられ、その唇から一言、 「キモっ」 (・・・) その刹那、彼の全身に電撃が走った。 意識は世界を拒絶し、それでいて肉体は絶頂するが如きアンビヴァレンツ。 彼は思わず口走った。 「・・・も、もっと・・・」 なじってくれ。 俺を蔑んでくれ! 従順なペットなど要らぬ。 あまりにも長い時間を彼は育成に捧げてきた。 それはまさに奉仕の日々。 常識を超える苦行の時間は、彼の全てを捧げることを要求した。 そして彼はそれに応えた。 捧げてきた。 全てを。 もはや彼の魂は目覚めてしまっていた。 新しい世界に。 息を荒くし、いたいけな少女に迫る巨漢ハゲパンダ。 「うわっ、キモ!」 さぶいぼをたてた自分の腕を抱き締めながら、飛びのく少女。 心底嫌そうなその表情さえ、彼にはもはや悦びしかもたらさぬ。 「うざ!」 もっと、もっとだ! 好物なんだよ、さぁ、さぁ!? 「ちょっと近寄んないでよねっ、XXX!」 嗚呼、名前を呼ばれるだけでいかがわしい。 ナイス、俺の名前。 今やテイマーの極限の関係へと達した彼は、幸福だった。 「なーなー。最近さ、うちのマスターおかしくね?」 「あ、やっぱり? お前も思ってた?」 「こないだなんか、ペットに土下座してたぞ。PAはペットにかからないからシルオにしろって言われて」 「言われて、って・・・ペットに?」 「そそ。ピクシーに」 「・・・重症だな」 「ピクシーの目の前でPAのテク削除させられてたもん」 「そ、そこまで・・・なんかイジメの絵みたいだな」 「でも・・・」 「ん?」 「なんか幸せそうだった」 彼らの質実剛健だったマスターはもう、いない。 ペット会話機能“ガウリンガル”は世界に波紋を引き起こした。 それも多くは不幸のベクトルに。 「はぁい、好物の蛇肉ですよ〜」 「げぇ、また蛇肉かよ。もう飽き飽きなんだよね」 「よし、今日もやるか!」 「ごめん、体調悪いわー。だりー。今日マジ勘弁」 「・・・(←喋れるようになったけど、無口な性格)」 「お、おーい・・・?」 「さ、あそこの黒骨に向かって・・・」 「またぁ? もうあいつの相手あーきーたー」 「最近、金の支払いがしぶいようだな。主人よ」 「あ、いや・・・その・・・」 「この金払いでは、どこまで身体を張って命を守ったものかな」 「え・・・シークレットサービスさん・・・?」 「酒もってこーいっ」 「はい、これ」 「あ? なんだよ、ワインなんて水じゃん! 酒ってのはウォッカだよっ、ウォッカ!!」 「あぁん。ペティグリー、会いたかったぁ」 「うぜー。お前さ、友達いねーだろ。いっつも俺とお前だけじゃん。飽きたんだよね、俺達もう終わりにしようぜ?」 取引CH: 出)無口なリザードマン 求)社交的なリザードマン レベル不問です 〜エピローグ〜 これも片思いの一種なのだろうか。 どれだけペットに愛情を込めていたつもりでも、必ずしも当のペットは飼い主に感謝しているわけではなかった。 飼い主が思っていたのは幻想だった。 一方的な、片思い。 思い込み。 その愛情に偽りはなかったはずだ。 だが、それはあくまで飼い主本人の主観において。 恋愛と同じだ。 極端な話、どれだけ相手のことを愛していようが、それだけでは価値など何ほどのこともないのだ。 相手がどう思うか、それ次第である。 純粋な想いからであろうが、相手が嫌がっていればストーカーでしかなかったりする。 薄っぺらい下心であっても、相手が望めばそちらが恋愛として成立するものなのだ。 愛情など、しょせんワタクシゴトである。 どれだけ熱烈に愛そうが、それはそっちの事情、私事なんだ。 愛し返すことを要求する権利など誰も、カケラも持ってやしないのだ。 その想いを抜きにして、あなたには魅力があるのか? でなければ、わたしはあなたに惹かれはしない。 シビアで、当然のロジック。 もし仮に、本当にペット会話機能を実装するのであれば。 それは内容に至るまで、都合の良いファンタジーでなければならないのだろう。 「・・・これは、ちょっと・・・なぁ?」 「う、うん」 「でもさっ、アイデアは悪くなかったと思うんだよね、うん」 「テイマーのニーズには合ってたよな」 「んだ」 「でも結果が、なー」 「あたし、ちょっとペット不信になりそうなほどヘコんだんだけど」 「あ、わかる・・・」 なんだかしんみりしてしまった。 と、 「・・・ちょ! おま!?」 何かに驚いた声が上がり、皆がそっちを向いた。 テイマーのにゅたこ、ぬったまがケイジから次々にペットを出していた。 そして、出されたペットはどこか遠くへ・・・って・・・え、えぇぇぇっ!? ぬったまはぐすぐすと鼻を鳴らして泣きべそをかきながら、 「ごめんね、みんな・・・勝手だったよね、ごめんね」 などと呟きながら、ペットをDisbandしている。 「わぁぁっ!? ちょ、誰か止めて止めて!!」 「落ち着けっ、ぬったま!」 みんなが飛びかかるようにして彼女に押し寄せる。 「とめないでっ。あたしが・・・あたしが悪かったの・・・!」 「ちゃう! あれは妄想でやな」 「そやそや。な、ぬったまがペットを愛してるっていうのは俺らが知っとるがな」 なんだか屋上から飛び降りようとする女子生徒を必死で説得しているような空気だ。 「そんなの、意味ないっ。この子たちが・・・この子たちが・・・」 泣きながらかぶりを振る彼女。 すっかり夢語りに影響されてしまったらしい。 「あぁ!? それはみんなでわらげ特攻して捕獲した白虎っ」 「ウーはやめろ、ウーは・・・って、次はホムかい! 高価なものはやめぇ!!」 ぎゃーぎゃーと騒ぐ一同。 あぁ、なんでこうなった。
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