短編小説っぽいもの
黄泉返り --
本編
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キャラクター紹介コメント
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後書きコメント
『黄泉返り』
〜メッサ:1〜 「メッサさん・・・?」 突然かけられた声。 振り向いた先にいたのは知らないWizだった。 「ありゃ、人違いかな? だったら申し訳ない」 そう言って頭をかく彼の顔に見覚えはやっぱり無い・・・ 「あ、そのギルド・・・」 口に出してしまい、その瞬間に後悔する。 けれど、もう遅い。 「お。やっぱりザックが追っかけてたメッサさん?」 そうだ。 “彼”のいた、そして今もいるだろうギルド。 「え、ええ。・・・あなたは?」 「あぁ、これは失礼。俺はボール、ザックのギルメンでダチってやつかな?」 やっぱり・・・。 「そうだったの。はじめまして」 「はい、初めまして」 そう言って笑うWizは、まだあどけなさが抜けない少年のように邪気が無かった。 「って言っても、実は初めましてでもないんだけどね」 「え?」 「前にザックがフラれた時に一緒にいたから」 そう言ってニヤニヤする彼はやっぱり少年のようだ。 ただし、中学生くらいの・・・少し意地悪を覚えた頃の。 「あいつ、すげーガッカリしてからさ・・・それで憶えてたんだけど、人違いだったらどうしようかと思ったよ。あはは」 それを聞いたわたしは、既に目の前のWizから意識は離れていた。 思い浮かんだのは“彼”の表情。 「彼、元気?」 「んー、あなたが引退したって聞いた時はスゲー落ちこんでたけどね。今は元気よ? うん」 ザック。 わたしと同じくらいのLvのナイトで、直情型で、単純で、優しい。 それはとても好ましかった。 いや、今でも。 だからだろう。 少し歪んだ喜びが、わたしの口を軽くした。 「あれ? そういえばさ、メッサさんて引退したんじゃなかったの?」 「あ、うん。ガブメールでINしたの・・・今日で終わりだけど」 わたしはここで消えるべきだった、何も言わずに。 けれど話してしまった。 “彼”の友達に答えてしまった。 だから、全ては始まったのだ。 ・・・愚かな空回りの歯車が。 〜ザック:1〜 “彼女”は特別だった。 ザックは今でも思う。 野良も好きで、外交的な彼にFLの友人は多かったが、彼女は他のEEとはどこか違っていた。 メッサーラ。 悪戯っぽく、焦らすように笑う彼女。 明るく笑うエルフの女性たちはたくさん知っていたが、彼女の笑みは少し違っていた。 いや、そう思うだけかもしれない。 ただ、どこか不安な胸騒ぎにも似た気分にさせられる笑み。 いや、本当に笑みだったのか? 彼女のことを考えると分からなくなる。 ひどく単純なことでさえ。 だから、ザックは彼なりに最も自然な行動をした。 出来るだけ彼女を探し、PTに誘う。 それは衝動的で、彼にとっては至って自然なことだった。 だが、彼女は仲の良いナイトがいるらしく、よく断られた。 それでも、好きだった・・・そう、彼女が好きだったのだろう。 リアルな恋愛感情ではなくとも、相手の見たこともないナイトに嫉妬している自分をたびたび自覚していたのだから。 “さっき、メッサさんに会ったぜ?” ボールのその言葉は、ザックを激しく動揺させた。 “なんかガブメールで来たんだと。・・・あ。でも今日までらしいけどな?” ギルメンのその言葉はザックを少し傷つけた。 全く知らなかった。 しかも、今日までだって? と、彼女はFL機能を使えないことを思い出した。 そうだ。 彼女のパソコンはスペックが足りず、画面を最小にした上にFL機能もオフにしていると。 そう聞いていた。 だから、彼女からメールが来るはずがないのだ。 とはいえ、彼女が復帰していると分かった以上、じっとしてはいられなかった。 逢いたい。 しかもタイムリミットは今夜の0時、あまりに短かった。 FLが使えない以上、全てのサバをササして回るのがベストか・・・ (ダメだ) 思い出す。 彼女は全ての要請機能をオフにしていた。 昔、粘着PKで付き纏われたことがあるからだと、そう言っていた。 (ちくしょう) その話を聞いたときも腹立たしかったが、今はそのストーカーが憎いとさえ思った。 FLチャットは使えない。 メールも使えない。 その上、ササまで使えないのか? こんな条件で人を一人探し出す。 無理だ。 (冗談じゃない!) 諦める気にはなれなかった。 彼はいつもそうだ。 諦めるのは倒れてからでいい。 終わってからでいい。 可能性が0になるとき、それは過ぎ去ってからにしか存在しない。 いまはまだ0ではないのだ。 だから探す。 彼は持ち前の直情行動で走り出した。 まずはボールが彼女に会ったという・・・ 「1サバのロレに行ってくる!!」 ギルメンたちの返事すら聞かず、ザックは1サバに跳んだ。 〜ザック:2〜 あれは・・・ 「メッサ!!」 信じられない幸運だった。 だが、彼はいつも現実を見つめ、それを疑わない。 だから、なんの躊躇いもなく即座に彼女の名を呼んだ。 彼女が走り出そうとした。 聞こえなかったのか? 賑やかなロレンシアの雑踏の中に、彼は迷うことなく飛び込んだ。 すぐに追いつく。 思わず彼女の肩を掴み、振り向かせた。 「あ・・・」 彼女と目が合う。 「ザック・・・?」 間違いない。 彼女だった。 戸惑うような、そんな動揺を感じたのは驚きのせいだろうと彼は思った。 「メッサ、久しぶり・・・」 いざとなると言葉が出ないのはおかしなことだ。 「う、うん。ひさしぶりだね」 困ったような彼女の様子は、やはり同じなのだろうか。 「ボールにやつに聞いてさ、メッサに会ったって。だから」 文字通り、飛んできたのだ。 ロレンシアの喧騒の中を走り回り、奇跡を見落とさなかった。 「でも間に合って良かったよ、もう逢えないかと・・・」 「・・・うん。わたしも嬉しいよ、ザック」 だが、そう言う彼女の言葉は歯切れが悪い。 と、ザックは思い出した。 思い当たることは一つしか無い。 あのナイト・・・ドリーとかいっただろうか? 会ったこともないが、その名前は何度も聞いていた。 目の前の彼女から。 そうだ。 自分が彼女を探すのが困難だったように、彼女だって誰かを探すのは困難なはずなのだ。 つまり・・・ 「そっか・・・ドリーっていったっけ。探してるんだろ?」 そう聞きながら、否定して欲しかった。 馬鹿げた思い。 嫉妬して何になる? 選ぶのは彼女だ。 そして、自分は彼女に惚れている。 なら・・・ 「あ・・・う、うん。そうなの」 ザックは考えた。 男らしくないぞと自分を叱りつけ、やるべきだと思ったことを言う。 「ドリーってのは愛称だろ? 正確な名前は?」 「・・・ドライセン」 「OK。チケが切れる0時前にここで落ち合おう」 「え・・・?」 ザックは言った。 「ほら、探すんだろ? 時間がないぜ」 言い切る彼の言葉にもはや迷いはなかった。 「絶対、会わせてやる」 走り出すザックを見て、彼女は手を伸ばしかけ・・・やめた。 引き止めたかったのか? でも、出来なかった? なぜなら・・・ ザックを見送る彼女のその顔は、まるで泣いているようだった。 〜メッサ:2〜 “絶対、会わせてやる” ザックのその言葉を聞いて、わたしは叫びたかった。 心の中で泣きわめいた。 (違うっ、そうじゃない!!) わたしが逢いたかったのは、あなたなのに。 ドリー。 ザックの誘いを断り、わたしがいつもPTしていた相手。 ・・・そんなナイトなんて、始めからいなかった。 嘘をついていた。 わたしはいつも独りだった。 でも、あなたはいつも仲間に囲まれ・・・。 だから、わたしは嘘をついた。 あなたと同じになりたかった。 (違う) 本当はそれ以上。 あなたの誘いを断るわたし。 いもしないナイトに嫉妬するあなた。 ・・・幸せを噛み締めた。 空虚な、歪んだ優越感。 笑顔であなたの誘いをかわしながら、わたしは泣いていた。 泣きじゃくっていた。 その後、独りダンジョンに潜ってソロ。 泣きたくなるような寂しい作業の中、かすかに傷ついたような別れ際のあなたを思い出し、噛み締め・・・わたしは幸せだった。 歪んだソロ、形なきありえざる非ソロ。 ばれたくなかった。 だから、わたしは引退して消えた。 (でも・・・あなたが恋しくて) 自分でも吐き気がする偽りの日々、愛おしいあの過去を無かったことに出来るなら、わたしは何だってしただろう。 馬鹿なわたし。 影に呑まれ、本当のわたしはもうどこにもいない。 眩しいあなた。 ずっと独りぼっちだったわたし。 本当は最後まで逢うつもりなんてなかった。 隠れて、あなたをもう一度見たかっただけ。 それだけで満足だったはずなのに。 わたしはあなたを探した。 けれど、あなたのギルメンに見つけられ・・・ あなたは、いもしないナイトを探すことになった。 〜ザック:3〜 (ちくしょう、見つかんねえな・・・) FL要請を出した。 メールを送った。 全てのサバを回った。 だが、どれも空振りだった。 (時間は・・・) まだだ。 彼女がいる間に、嫉妬さえ抱いた名前しか知らないナイトを見つけてやる。 (それは絶対に、絶対だ) 1サバのロレンシアに戻る前に、各サバのクエスト待ち場所を駆け回る。 7サバのデビアス教会、ノリア。 6サバのデビアス教会、ノリア。 5サバのデビアス教会、ノリア。 4サバの・・・ ドリーはINしていないかもしれない。 だが、関係ない。 (待ってろよ、メッサ。必ず連れていってやる) ドリー! このくそったれ。 彼女の顔が浮かんで、消える。 (お前じゃなきゃ、ダメなんだよ・・・!!) 〜メッサ:3〜 1サバのロレンシアは冒険者たちで溢れかえっていた。 時刻はもうすぐ0時・・・魔法が切れる時間。 偽りのシンデレラ、知っていて自ら毒林檎を噛んだ狡猾な白雪姫。 (自業自得ね・・・) 毒は確実に彼女を蝕んでいた。 そんな彼女のことなど知らず、ロレンシアに広場には0時DSの募集が響き渡っている。 小さな世界を埋め尽くすマクロ連呼。 ザックは戻ってこない。 まだドリーが見つからないのだろう。 ・・・当然だ。 見つかるはずがない。 彼女がキャラチェンジでINしない限り、ドリーはこの世界に現れないのだから。 いっそ、ドリーになって彼を探しに行こうか? そんな考えも頭をよぎった。 だが、それがいったい何になるというのだ? 彼に会い、メッサに会ってくるよと。 そう言わせれば・・・秘密は守れるだろう。 嘘を天国の闇に隠して。 (いやだ) もう嘘はつきたくなかった。 彼を騙したくなかった。 違う。 ・・・これ以上、自分がもう耐えられないからだ。 〜ザック&メッサ:4〜 ザックは悔しさを噛み締めながら、1サバのロレンシアに帰ってきた。 結局、見つけられなかった。 彼女はどこだろうか。 (どのツラ下げて・・・) 自嘲する。 だが・・・時間がもうない。 手ぶらで彼女の前に立つのはつらかったが、このまま別れることになるのはそれ以上につらい。 見回す。 人、人、人。 DSと、次のBCのために飛び交うマクロ募集。 と、人ごみの中に彼女を見つけた。 彼女も、こちらに気づいた。 何かを叫んでいる。 よく聞こえない。 (くそっ、どけよ!!) かきわけることも出来ない・・・彼女は、何を言おうとしているんだ? ザック:「メッサ、ごめん。ドリーは・・・」 ゲーマルク:「BC5、攻撃職募集。当方DL」 ジム:「弱ナイト拾って下さい;;」 メッサ:「違う、わたし嘘をついてたのっ」 ラフレシア:「DS6、あと一名。サバ確保OK」 アッザム:「おー、おめめw」 ザック:「探したんだけど、どこにも・・・」 エルメス:「EE一人、DS6拾って下さい^^」 ドップ:「ありw」 ゲーマルク:「BC5、攻撃職募集。当方DL」 メッサ:「違うのっ、ドリーなんて始めからいないの・・・!!」 ゾック:「通常狩り募集、CC行かない人!!」 サイサリス:「BC6、EE募集。ハイオンK×3、サバOK」 ザック:「え? なんだって? 聞こえ・・・」 メタス:「バラエル200才、通常クエスト不問でPT募集です^^;」 ラフレシア:「DS6、あと一名。サバ確保OK」 メッサ:「わたし、あなたが羨ましかった! 妬ましかったっ」 ドロス:「エナ魔、DS4に拾ってくださーい」 ジム:「弱ナイト拾って下さい;;」 ザック:「くそっ、おい、どけってば!!」 ゲーマルク:「BC5、攻撃職募集。当方DL」 ゾック:「メタスさん」 メッサ:「聞いて! ずっとあなたを騙してたのよっ」 キュベレイ:「BC5のPT募集。当方EEエナ1000↑」 ミーティア:「DS4にEEよろです^^」 ザック:「だま・・・なんだって? 待って、もう少し・・・」 ジン:「BC5にナイト拾ってクダサイ。非ハイオンTT」 ネモ:「エナナイト、BC5に要りませんかぁ?」 メッサ:「だめ、もう時間がないっ・・・」 メタス:「こん^^」 サイサリス:「BC6、EE募集。ハイオンK×3、サバOK」 ジム:「弱ナイト拾って下さい;;」 ザック:「うるさいっ、どかないと・・・」 ドロス:「エナ魔、DS4に拾ってくださーい」 アッザム:「あと一つやんな?」 メッサ:「本当は逢うつもりはなかった。逢うことなんて、できないと思ってた・・・」 メタス:「バラエル200才、通常クエスト不問でPT募集です^^;」 ジム:「弱ナイト拾って下さい;;」 ディジェ:「DS4、ガルーダ魔よろ」 ザック:「メッサ、俺は・・・」 ゲーマルク:「BC5、攻撃職募集。当方DL」 サイサリス:「BC6、EE募集。ハイオンK×3、サバOK」 ゾック:「通常いいですか?」 メッサ:「ザック、ごめんなさい・・・わたし・・・」 ラフレシア:「DS6、あと一名。サバ確保OK」 ジン:「BC5にナイト拾ってクダサイ。非ハイオンTT」 メタス:「あい^^」 ザック:「待って!!」 ジム:「弱ナイト拾って下さい;;」 ドップ:「え?まだ三つw」 サイサリス:「BC6、EE募集。ハイオンK×3、サバOK」 0時ジャスト。 ザックの目の前で、彼女の姿は消えた。 〜エピローグ〜 あれから丸一日経った。 ザックはあの夜の会話の断片を思い出し、繋ぎ、理解しようと思考錯誤した。 そして、自分なりにだが、全てに答えが出せたように思った。 多分、解釈は間違っていない。 では・・・自分はどうすべきなのか? 彼女の嘘を知った。 本当の彼女が見えた。 自分の彼女への気持ちを自問した。 確かめた。 そして・・・ 彼は公式サイトにアクセスした。 同窓会メール・・・ガブメールの期間はまだ残っている。 書こう。 宛て先はメッサーラ。 内容は、やっときみを本当に理解できたということ。 そして、いつものようにPTに誘うメッセージ。 ただ今までと違うのは・・・本当の彼女に対しての誘いだということ。 今までで一番、断られるのがこわいと思った。 いつものように、あのしぶしぶ仕方ないと言いながら、泣きそうな笑顔で…また、このPTを受けてくれることを切に願う。
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