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短編小説っぽいもの

走れメロス --  本編後書きコメント
 『走れメロス』


〜1〜


メロスは激怒した。
ギルド“シラクス”の同朋、無二の親友セリヌンティウスが泣きついてきたことによる。
友は涙ながらに訴えた。
二人が所属する連合の盟主アキレス、通称アッキーが彼に借金の取り立てを迫っているというのだ。
話を聞けば、まだ約束の返済日までには二日あると言う。
にも関わらず、暴虐なるアッキーは即日返済せねば友の装備をはぎ取り、羽をもぎ取り、その姿のままでクライウルフ要塞に放逐するというのだ。
なんたる理不尽!
なんたる暴虐であろうか。
これを血も涙もない行為と呼ばずして、月のうさぎを虐殺する行為を非難はできまい。
メロスは言った。
「待っているがいい、友よ。俺がアッキーにかけあってくる!」
雄々しく仁王立ちし、握りしめた拳をふるわせる友を見ながら、無表情のままで滂沱するセリヌンティウスが口を開く。
ちなみに彼は常に無表情だ。
表情のエフェクトがバグ落ちしているという噂もある。
「無理はするな・・・だが、お前の友情に俺は今、猛烈に感動している」
嘘泣きを続けたままでセリヌンティウスは土下座した。
「ありがとう!」
「水臭いことを・・・」
かくして、メロスは向かった。
カントル廃墟2で狩りをしているという盟主アッキーの元へ。
セリヌンティウスはやはり無表情のまま、友を見送った。

「とうとう見つけたぞっ、アッキー!」
長い道のりであった。
移動課金をしていないがゆえに。
だが、万里を乗り越え、メロスは暴虐なるアッキーの前に立っている。
「友から話は聞いた。返済期日がまだ二日あるというのに、セリヌンティウスから借金を取り立てようとしているそうだな!」
おや、と眉を寄せ、PTメンバーにかけるAGの手を休めるアッキー。
シルク装備のエルフが盟主アッキーである。
ワールド初のエルフ城主という快挙を成し遂げ、あと一週間の任期を残す女傑であった。
「ふむ、誰かと思えばメロスじゃないか。ひさしいね」
「挨拶などいい! 権力を利用しての横暴三昧、運営チームが許しても俺が許さんぞっ」
仁王立ちで指を突きつける。
そんなメロスを背後からボコるカントルモンス。
「・・・痛そうだね」
「ええい、うるさい! そう思うなら、さっさとヒールしたらどうだっ」
なぜ態度がでかいのか。
だが、腐っても盟主・・・大人なアッキーは彼にヒールをかけ、ついでにGもかけてやる。
「これで話ができるね。さて、と・・・わたしの借金返済に文句が?」
「そうだ!」
シルク装備で幼く見える、盟主にして城主たるアッキーはわざとらしく腕組みし、
「困ったねぇ・・・彼の返済期日を延ばしたのはもう四回目なんだけど、やっぱり無理かぁ」
「え」
話が違う。
メロスは愕然とした。
友よ。
どういうことだ。
「いやね、返済のあてもないのに借金を頼む姿勢はよくないと常々思っているのだけれど、一応あれで彼もギルメンだからねぇ」
仕方なく貸したのだよ、と嘆息してみせる。
しかも、前の借金の完済前にさらに借金を頼みにきていたらしい。
メロスは熱く込み上げるものを胸に空を見上げた。
友よ。
お前はなんて剛胆なんだ。
「だいたい、あと二日待ったところで返済なんてできはしないだろう? なら、今さら二日早めたところで同じじゃないか」
メロスは頷きかけ、慌てて首を振った。
「そんなことは分からないだろう!」
「あ、そうだ」
「なんだ」
「ねぇ、メロス。わたしの記憶が確かなら・・・きみもわたしから借金をしていたよね?」
「・・・」
「きみの返済期限はとうに過ぎてる。なのにきみは一向に姿を見せなかった・・・息災だったかい?」
「・・・・・・」
まずい。
メロスは思った。
風向きが怪しくなってきたぞ。
これはいかん。
「この場できみから借金を取り立ててもいいよねぇ? そうすれば、わたしもホリ羽生命13AH4%を即金で買えるし」
セリヌンティウスから取り立てる必要もないよ、と嬉しげにアッキーが言う。
メロスは憤激した。
借金取り立ての目的がホリ羽生命13AH4%だと!
なんという下らん理由なのだ。
自分なら、もっとマシな理由が百も思いつく。
ファルシオンを13にして二刀流でドラゴンダンスしてみるためとか、倉庫をペカったEXドラヘルだらけにしてみるためとか。
なのにホリ羽生命13AH4%とは!
「貴様、仮にも仲間たるギルメン相手に金の貸し借りとは恥を知れ!」
借りた人間の言うリフではない。
だがメロスは止まらなかった。
止まれば借金を取り立てられよう。
ならば手は一つ、走り続けるにしくはなし。
ふははは。
俺に追いつけるか、アッキーよ。
「城主として私腹を肥やし、それで金貸しとは・・・無償の友情こそが仲間の証だろう!」
借金を踏み倒そうとしている人間とは思えない物言いである。
だが、これは暴虐なるアッキーのコンプレックスに触れた。
「うるさいっ、うるさい!!」
いきなり激昂する。
「あたしだって昔は信じる心を持ってたんだ・・・でも、裏切られた!」
感情的になって“わたし”が“あたし”になっている。
そして、そのまま回想の独白に入るアッキー。
「あたしにはずっと一緒にペアでやってきたナイトがいた。彼は優しくて、最高だった」
自分の世界に入り始めたため、メロスへのヒールとGの手が止まっている。
だが、ここで彼女を現実に返せば借金を取り立てられる。
メロスはGの切れたまま、仁王立ちでカントルモンスの攻撃に耐えた。
意味は無いが、仁王立ちが好きなのだ。
「ドロップも山分けした。まぁこのサタン、あなたに似合うわ。この天使はきみにぴったりだよ、いやきみこそ天使だ。うふふ。あはは」
暴走した妄想モードに入った独白はちょっとこわい。
だが、ここでひいてしまってはアッキーも我に返るかも知れない。
出血しながらメロスは耐えた。
と、「ああ!」と突然思い出し怒りにかられるアッキー。
「なのにっ、なのに彼はあたしを捨てた! ニュージーランド産の精霊エルフに乗り換えたのよ!!」
その怒りに怯えてか、挙動不審な様子に怯えてか、カントルモンスも彼女には攻撃しない。
彼女のPTメンバーとメロスだけが、無言でカントルモンスの攻撃に耐えていた。
そんな様子にも気づかず、完全に自分の世界に入ったアッキーは呟いた。
幼いシルエットのシルク装備を見下ろしながら、
「最後に彼は言ったわ。・・・“直線美より曲線美”」
それを聞いた途端、一斉に悲痛な叫びをあげて同情するPTメンバー。
あぁ。
なんと罪深きかな、精霊装備。
その原住民な仮面にも関わらず、グラマラスな魅力はこのシルク装備の少女を人間不信の穴に叩き込んだのだ。
「あたしは悟った。人の心なんて信じられない・・・そして、絶望の中で気づいたのよ」
彼女はさらに自分のみじめさを積み上げた。
これまで尽くしてきた自分は何だったのだろう。
今までの自分はなんと搾取される側だったのか。
その逆恨みは運営チームにまで向いた。
他ゲームを引き合いにだし、激昂する。
MoEのガチャは何が出ても値段相応の物が出、もちろん当たりは上等だ。
だから誰も彼もがガチャを自然にするし、非難なんてされることもない。
だがMUはどうだ。
幻のような当たりで引き寄せ、そのままゴミ箱に捨てるような品々で金を稼ぐ。
だから怒りを買い、後悔を呼び、嫉妬を生み、自分のお金を使うだけで非難される。
どう転んでも割に合わない。
そんな運営に金を貢ぐ日々にも飽き飽きしたのだと言う。
「あたしは思ったの。もう搾取される側はイヤ・・・搾取する側になる! そのために城主になったわっ、税金でおもしろおかしく暮らすために!!」
「なんだか、たくさん間違っているぞ! 人として!」
「あなたみたいな人には分からないわよ!!」
睨み合う。
が、先に我に返ったのはアッキーだった。
「でも・・・そうね、きみにもチャンスをあげるわ。一つ提案をしてあげる」
酷薄な笑みを浮かべ、「きみの友情が本物なら、この提案を飲めるはずだよ」
「面白い。言ってみろ!」
「今夜、1サバのロレ噴水前で腰装備だけで踊りなさい。ペカーな腰装備だけで」
あぁ、それは忌ましき変態装備。
腰だけ光るその状態を、畏怖と嫌悪を込めて人はこう呼ぶ、コシヒカリと。
「な、なんという・・・アッキー、畜生道に堕ちたか! 血も涙もない女だなっ、貴様は!!」
「それだけじゃないわ」
「なんだと!」
「+9以上に光ったフレイルを二刀流、これが絶対条件よ」
「破廉恥な!!」
フレイル。
別名、ぶらり玉。
その輝きは+9以上を持って金色と化す。
二刀流にぶらさげたならば、その二つのタマタマは歩くセクハラ行為。
古くはその姿で街中を歩いたために、わいせつ物陳列罪でアカウント停止になった者もいたという。
メールのSSを座ったエモティで送ろうとすれば、文面が全て「悪いよ」になるという都市伝説まである。
わなわなを唇をふるわせ、戦慄の汗を流すメロス。
「文明人であることへの冒涜だ・・・!」
その姿を眺めながら、
「なんとでも言うがいいわ」
ご満悦の表情でアッキーが言う。
「これでセリヌンティウスの借金をチャラにしてあげる。そのためにきたんでしょう?」
微笑みを浮かべる彼女の目には、すでにありありとメロスの痴態が見えているのかもしれない。
おそろしい子!
「友のためにきみは踊れる?」
メロスは暴虐なるアッキーを睨みつけながら、「もちろん踊ってみせるとも。ただ・・・」と続け、
「ただ少し俺に情けをかけたいつもりなら、しばし自由の猶予をくれないか」
「・・・」
「じつはこれからデビアスに戻って、前にいたギルドのギルマスの結婚式に出なければならないのだ。夜までには必ず戻り、コシヒカリに金色のタマタマで踊ってみせる」
「はっ! やっぱりそうきたか」
「なに?」
「どうせ、きみは約束を守りはしないだろう。友より自分が大事なんだ。それならそうと正直に言うがいい」
そして、またタガが外れ
「あたしはもう裏切られるのはごめんなのよ!!」
泣きそうなギリギリの叫び声。
「違う!」
メロスは必死に訴えた。
「俺は約束を守る。考えてみてくれ。初めてこの世界にやってきて、最初にお世話になったギルマスだ。俺には彼女の結婚式を祝ってあげる義務がある」
さらに言い立てた。
「そんなに俺が信じられないならば、いいだろう、セリヌンティウスという俺の無二の親友がいる。彼を人質としてここに置いていく」
俺が逃げたら、あいつをコシヒカリに金色タマタマで踊らせるがいい。と。
これを聞いて、血も涙もない借金取り城主にして、暴虐なる盟主アッキーは考えこんだ。
目の前の男はどうやら真剣らしい。
この男ならば、メロスならば・・・きっと約束を守り、友情を証明してみせるに違いない。
こうも考えた。
そうなれば、友情の証明者たる勇者が所属することは連合としての利益にもなるだろう。
男に裏切られ、権力と金の亡者に堕ちた自分だけれど。
ひょっとしたら。
ひょっとしたら、自分はまだ人間で、しらみではないのかもしれない。
もう一度、ひとを信じられるようになれるかもしれない。
彼女は決めた。
今夜、約束通りに帰ってきたこの男をあたたかく迎えて、全ての借金を帳消しにしてあげよう。
そうすれば友人になれるかもしれない。
信頼できる友をもてるかもしれない・・・
そう考えると、冷え切った自分の心にふっとあたたかいものが生まれるのを感じた。
それはほんの一瞬だったけれど、もうすぐ、もうすぐそれはずっと感じられるものになるかもしれない。
「いいだろう」
その声のふるえは期待のためか。
「セリヌンティウスを連れてきたまえ」

移動課金しているPTメンバーのサモンDLが飛び、ほどなくセリヌンティウスを連れてきた。
メロスが事情を話すと、友は無表情のままでうなずいた。
無言のまま、かたい握手を交わす。
友と友との間はそれで良かった。
「いいね、二人とも。メロスが帰ってこなけば、セリヌンティウスにはコシヒカリに金色タマタマで踊ってもらうし、借金も即刻取り立てる」
アッキーが宣言する。
「それが嫌なら、友情とやらを証明してみせるがいい」
「望むところだ!」
メロスは走り出した。
カントルの大地を。

廃墟にはセリヌンティウス、アッキー、そして彼女のPTメンバーたちが残された。
彼女が錯乱気味であったため、それを心配したPTメンバーが紅茶を差し出している。
セリヌンティウスにもそれを勧め、力を抜いた様子で彼女は言った。
「まぁ、今夜までの辛抱だよ。メロスが戻ってくれば、きみは自由の身だ。友情とやらを信じることだね」
だが、セリヌンティウスの返事は彼女の予想外のものであった。
「あいつは戻らんさ」
「え」
口に運びかけた紅茶のカップを止め、アッキーが彼を見た。
「そ、そんなことはない。約束したんだ・・・昔のギルマスとやらの結婚式が終わればメロスは帰ってくる」
戻ってこないと言う人質に、なぜかメロスを弁護し信じる側に立ってしまっているアッキー。
「結婚式? 昔のギルマスはネカマだ」
「・・・ね、ネカマだって結婚する権利はあるさっ。そう、きっと・・・!」
泣きそうな声で訴えるアッキー。
だが、そんな彼女にセリヌンティウスは表情一つ変えずに告げた。
「半年も前に引退したギルマスが結婚式?」
アッキーは紅茶のカップを手にしたまま、呆然とした。
「で、ではメロスは嘘をついたっていうのかい!? 無二の親友を人質にしておきながら、平然と逃げたと?」
友情は?
愛は?
信頼は?
「さぁ・・・俺に聞かれても、な」
このとき、場にいた人々は生まれて初めて「きいいいぃ」と声を発する人間を目撃した。
「なによ、それ!! 話が違うじゃないっ!!!」
再び裏切られた女、アッキーは怒りに全身をふるわせた挙げ句、熱い紅茶を胸にこぼし、「うっきゃぁぁぁぁ!?」と普段は冷徹な彼女が決して見せない愉快な悲鳴と共にのたうちまわった。
「だ、だだ大丈夫ですか!?」
PTメンバーがかけより、拭こうとするが、
「あ、あたしの胸に触るな!!」
直線美のコンプレックスは深かった。
そんな自分にさらに怒りと屈辱感をつのらせ、しばらく沈黙した後、
「ふ・・・ふふふ・・・」
肩をふるわせ、彼女が呟く。
「・・・斬新だな」
「は?」
「刻限まで待ってみて裏切られる、そういうのはあるよ。でもさ、たった三分で裏切られたことが確定なんて・・・斬新だなぁっ!!?」
彼女はキレた。
いや、ブチキレた。
連合チャットで檄を飛ばす。
メロスを捕まえ、なんとしても時間までに約束を守らせ、破廉恥極まりない痴態で踊り狂わせてやるっ!
しかもそのコシヒカリは+13、金色のタマタマのEX+13だ!!
捜索網と釜入れ部隊を派遣し、彼女はまだ手に持ったままだった空のティーカップを地面に叩きつける。
その様子を眺めながら、セリヌンティウスはいつもの無表情のままで言った。
「俺の親友が、そう簡単に約束を守ると思うなよ」
親友ッテ、ナンデスカ?

さて、その親友の行方である。
メロスの姿はカントル遺跡の奥にあった。
ロレンシア、そしてもちろんデビアスとも方向からして逆だ。
なんのことはない、暴虐なるアッキーのところへ向かう途中にドロップした調和の原石のことを思い出したのである。
とくに差し当たっての予定もない。
ついでだから寄っていこう。
そんな調子でナイトメアの倒されているサバを探し、調和の原石を精錬する。
それは見事に調和の宝石になった。
メロスは思った。
良いぞ。
好調なときは波にのるに限る。
彼はそのまま装備に調和の宝石を投入した。
と、目的のダメ減エンチャントがつき、メロスは歓喜した。
俺の時代が来た!
運が良いときは続くものだ。
ここは上級精錬石を節約し、店売り装備を下級精錬石にしてエンチャント強化をしよう。
彼はノリアへと向かった。
メロスは走る。
その時すでにアッキーとの約束も、セリヌンティウスのことも綺麗に忘れていた。

「メロス先輩っ」
そう呼びかけられたのはタルカン入り口であった。
振り向けば、同じ連合の黒髪が美しいエルフ、ぬばたまが走ってくるのが見えた。
「おぉ、ぬったま! 久しいな。息災か?」
ぬばたま、彼女の愛称は“ぬったま”だった。
「そんな悠長な挨拶してる場合じゃないですよっ。メロス先輩、いまの状況がわかってるんですか?」
「なに?」
一連のことを完全に失念していたメロスに、いまや連合を総動員してのメロス捜索網がしかれていることを説明する。
どうやら暴虐なるアッキーは、その持てる軍事力を全て使ってでも自分に約束を守らせる気らしい、とメロスは悟った。
「なんということだ!」
自分が約束を守るつもりなど毛ほどもなかったことを棚に上げ、彼は怒りに燃えた。
「唯一無二の親友を人質に置いてきたというのに、俺が信用できないとはアッキー・・・見下げたやつだっ、まだ夜まで時間があるではないか!」
どの口が言うか。
そんなメロスの様子を見、おそるおそる聞くぬったま。
「メロス先輩・・・助けに、行きますよね? セリヌンティウス先輩を見捨てませんよね?」
「ぬったま」
「はい」
「俺は、帰らない」
「!!」
信じられない。
そんな様子でぬったまが叫ぶ。
「そんな! それじゃセリヌンティウス先輩はどうなるんですかっ、今もメロス先輩を信じて・・・」
だが、黒髪の乙女の言葉をさえぎり、
「それに、あいつも俺が戻らないことは知っている」
「・・・え」
そうだ。
セリヌンティウス、我が唯一無二の親友よ。
俺たちはいつも一緒だった。
あいつが装備を燃やして弱い仮装備と聞けば、いつもより多くのモンスを釣り。
あいつが装備を燃やして「今、手元に石が無くて良かった・・・あったらヤケになって次々釜に入れてた」と聞けば、なけなしの石を貸した。
おぉ、いくつもの数え切れない思い出たちよ。
「そ、そんなことないですよっ。セリヌンティウス先輩は信じてます!」
「そう、信じてる。俺が約束を守って帰ることはないと」
そうだ、あいつは最初から知っていた。
知った上で、人質になることを即座に承知し、無言で握手したのだ。
ちくしょう。
なんてマゾなんだ!
あいつはドMだ。
なら。
メロスは思う。
俺はSにならねばならぬ。
もし仮に。
ここで俺が約束を守れば人は何と言うだろう。
あっぱれ、メロス。
これこそ友情よ、と。
そう褒め称えるに違いない。
メロスは身をふるわせた。
ぞっとする!
セリヌンティウスは嘲笑うだろう。
それで友情の手本を示したつもりか、満足かと。
そう、約束を守った俺を蔑むに相違ない。
そうだとも、セリヌンティウスよ。
俺たちの友情はそんな底の浅い、ありふれたものではないのだ。
ストレートな友情などゴミ箱に捨ててしまえ!
あいつはねじまがった俺の性根を信じた。
だからこそ、人質になったのだ。
セリヌンティウスは無表情だったが、俺には分かる。
友がドMな期待に胸をふくらませていたことが!
「ぬったま!」
「は、はい!?」
「俺が間違っていた」
「え」
「すまなかった。俺は行く・・・約束を果たすため、ロレンシアへ!」
しばし呆然としていたが、やがて歓喜の表情を浮かべ
「メロス先輩!!」
ぬったまが目に涙を浮かべて喜んだ。
「ぬったま、すまないが先導してくれないか。この先のリザキン道は進むに困難極まりない場所なのだ」
「任せてくださいっ」
腕まくりし、囮を買って出る黒髪の乙女。
二人は砂漠から深海へと進み、稲妻の荒れ狂う海中を進んだ。
「すまん、ぬったま」
「いいんですっ、さきに・・・先に進んでください!!」
かくしてメロスは走る。
黒髪の乙女を後に残し、一人、ただひたすらに走っていく。

三十分後、メロスはイリュージョンテンプルの中にいた。
ちょうど開催時間だったのだ。
ITは一方的に勝てば美味しいが、実に差の大きい安定しない高額クエストである。
さて、今回はどんな結果になるやら。
などと思っていたところ、後ろから彼を呼ぶ声がした。
「メロス先輩!! なんでこんなところにいるんですかっ」
振り向けば、ぬったま。
「おぉ、奇遇だな」
「奇遇だな、じゃないですっ!」
「ITで一緒になるとは偶然じゃないか」
「メロス先輩が入るのが見えたから、あわてて駆け込んだんですよっ。入り口閉まりかけで、バァンってなりました! バァンって!!」
どうやら扉にぶつかったらしい。
「いかんぞ、駆け込み乗車は」
平然と言ってのける目の前の男が許せない。
「・・・メロス先輩、騙したんですね」
「む、人聞きの悪いことを言う」
「メロス先輩が約束を守るって信じて、囮になったのに!!」
「ぬったま・・・」
「なんですか」
「人を信じられない、世知辛い世の中よのぉ」
「先輩がいわないでくださいっ!!」
さすがにぬったまもキレた。
「わかりました、もういいです」
「おぉ、諦めたか」
「力ずくで連れていきます」
「なに?」
どうやら完全に怒らせてしまったらしい。
無理もないが。
「氷結たたっこんで、凍ったメロス先輩を輸送します!」
おそろしい子!
「ふっ・・・できるかな?」
「情けは捨てました」
「残念だったな」
メロスはにやりと笑った。
「俺たちは同じチームになったらしい。ITが終わるまで味方には攻撃できない」
IT終了後、ぬったまがいくら探せどもメロスの姿は無かった。

連合チャットが入った。
「@@発見! 発見!」
「@@いたかっ。どこだ!?」
「@@そ、それが・・・」
「@@どうした!」
「@@メロスのやつ、デビアスで・・・」
言いよどんだ後、そのギルメンは報告を続けた。
自分の見たものが信じられないといった口調で。
「@@BC入場の看板立ててます!!」

「ほぅ、またお前か」
振り向けば、ぬったま。
「メロス先輩っ、逃がしませんよ!」
「ぬったま、諦めろ。俺は帰らない」
「・・・今度は敵チームです。お覚悟!!」
「残念だったな、ぬったま」
メロスはにやりと笑った。
「BCじゃ敵チームでも攻撃できない」
BC終了後、ぬったまがいくら探せどもメロスの姿は無かった。

二時間後、すでに約束の刻限にさしかかっていた。
そのとき、メロスの姿はアイダにあった。
下級精錬石をつくりにきたところ、ちょうどイベントをやっていたのだ。
アイダのジャングルを、腰ミノ一つで駆け回るというものだという。
童心に・・・いや、未開拓時代の心にかえるイベントといえよう。
そして、メロスは物好きだった。
ためらうことなく装備を脱ぎ捨て、イベントの行列に飛び入り参加する。
楽しい時は流れ、理性も流れ、無我の境地に至っていたメロスを呼ぶ声がした。
「メロス先輩っ!!」
振り向けば、ぬったま。
「なんだ、お前。装備を着たままで・・・イベントの趣旨が分かっていないようだな」
「変態イベントに参加しにきたんじゃありませんっ、メロス先輩を連れにきたんです!!」
と、急に肩を落とすぬったま。
「なのに・・・もう間に合わない」
そう。
どう急いでも間に合わぬ刻限であった。
「なんで・・・なんでですか、メロス先輩」
ぬったまが哀しげに問う。
「言っただろう、俺は帰らないと」
独白するぬったま。
「信じてたのに。走るメロス先輩を追いかけながら・・・心のどこかで信じてました。親友を助けに約束を守ってくれるはずだ、って」
彼女はジャングルの真ん中で座り込んだ。
「セリヌンティウス先輩、ロレンシア噴水前に連れてかれても平気な顔でした」
「あいつはいつも無表情だ」
「そうじゃなくて!」
ぬったまはぽつりと呟く。
「メロスは絶対に来ない。そう言いながら・・・彼だって信じてたんですよ」
「だからだ」
「え」
「それだから走るのだ、この俺は。セリヌンティウスは一切合切、承知の上だ。あいつには俺というものが分かっている」
メロスは堂々と続ける。
「これは信頼しないという形を取った信頼、友情に見えない友情なのだ」
「違うっ、そんなのは友情じゃない!」
「あるのだ。そういう友情もあるのだ。型にはめられた友情ばかりではないのだ」
声高に美しき友情を賞賛して甘ったるく助け合い、相擁しているばかりが友情ではない。
そんなこっぱずかしい友情は願い下げだ!
俺たちの友情はそんなものではない。
俺たちの築き上げてきた繊細にして複雑怪奇に極まりない関係を、ありふれた型にはめられてたまるか。
「ぬったま。自分の頭の中にあるものから勝手につくりあげ、これなら分かると言うのはよせ!」
人々は言うだろう。
メロス、やつは信義にもとる畜生だと。
友情という言葉を理解できない無頼漢よと。
だが、俺は知っているのだ。
このメロスは知っているのだ。
友情というものが。
自分たちの友情を分かっているが故に、このメロスは走るのだ!
「俺たちの精神の自由を束縛するな」
それは透き通った、真摯な言葉であった。

約束を守るも守らぬも問題ではないのだ、信頼するもしないも問題ではないのだ。
迷惑をかけたって構いはしない。
裏切ったとて構いはしない。
助け合いたければそれもいいだろう。
何であってもいいのだ。
そんなことはどうでもいいのだ。
ただ同じものを目指していればそれでいい。
なぜならば、だからこそ・・・我々は唯一無二の親友なのだ!

ロレンシア。
大陸で最も栄える帝都。
中央公園の噴水は、かつて人類の友であり、優れた工匠でもあったサイクロプスたちの手による一大傑作であるという。
その噴水前で、セリヌンティウスは踊っていた。
いつもと変わらぬ無表情のまま、コシヒカリのみを身に纏い、勇気一つを友にして。
その腰にあてた両手からぶらさがりし輝きは金色のタマタマ。
無表情であるがゆえに、そのストイックな面差しはある種の匠のようだ。
いわば変態の職人、変態の匠。
群衆の見守る中、彼はただ痴態を晒して踊り続ける。
激しい動き故にガツッ、ガツッと金色のタマタマがぶつかり合い、それを見て思わず顔をしかめながら中腰になる男ども数知れず。
嗚呼、なんという光景か。
色んな意味で痛々しく、色んな意味で偉大にすぎる舞台。
そして、その会場に滑り込んできた人影があった。
「・・・メロスだ」
「メロス!」
そう、メロスであった。
その姿はジャングルイベントのまま、腰ミノ一つ・・・奇しくも、壇上でセクハラをまき散らすセリヌンティウスと同じ格好であった。
ざざぁっと群衆がわかれて道がひらかれた。
そこを新たなわいせつ物が通る。
黄色い悲鳴を別にすれば、その光景はあたかも二つに割れた海を往く変態モーゼのようであった。
我に返った群衆の中には「何をいまさら!」と言う者あり。
メロスの姿を見、「準備万端じゃん!?」と言う者あり。
暴虐なるアッキーの前まで進み、メロスは昂然と仁王立ち。
ちょっと純情なところのあるアッキーは今さら少し目のやり場に困りつつも、
「遅かったじゃないか、メロス・・・遅すぎた!」
「じつは少し前からきていたのだ」
「なに!?」
アッキーが愕然としたのも無理はあるまい。
実は、彼女はわいせつ物陳列罪の催し開催を遅らせ、できうる限りメロスの到着を待ったのだ。
だが、それでもメロスは現れなかった。
それなのに。
少し前からきていただと?
新たに出現したわいせつ物、もといメロスはアッキーの前を横切り進んだ。
痴態を晒していた友の前に立ち、メロスは言った。
「本当は間に合っていた。だが、姿を隠して時間切れになるのを待っていたのだ」
セリヌンティウスは無表情のまま頷いた。
それだけだった。
そこに隠された真の友情を感じられた者がこの場に何人いたであろうか。
いや、一人としていなかったかもしれない。
だが、それでいいのだ。
「セリヌンティウス、俺を殴れ」
メロスは友に言った。
「ちょっと手加減して殴ってくれ。俺は延期された開催を待っている間、約束を守ってもいいんじゃないかと軟弱なことを考えた」
そうすれば皆から賞賛されよう。
借金もチャラになる。
「きみが俺を殴ってくれなければ、俺はきみと一緒に踊る資格さえないのだ」
セリヌンティウスはちょっと手加減してメロスを殴った。
そして、
「メロス、俺を殴れ」
彼も言った。
「同じくらい手加減して殴ってくれ。俺はお前が来ないことは分かっていたが、こんな痴態で踊るのは嫌だなぁなどと軟弱な思いが心をよぎった」
そうだ、じつは俺はマゾではなかったのだ。
知らなかった。
友情の果てに知った真実の自分だった。
「きみが俺を殴ってくれなければ、俺はきみと一緒に踊る資格さえないのだ」
メロスはちょっと手加減してセリヌンティウスを殴った。
「「ありがとう、友よ」」
がしっと抱き合う、その格好ゆえに禁断のハグよ。
そうして、二人は並んでコシヒカリに金色のタマタマを揺らせて踊り狂った。
もう踊る必要は無いはずなのに精一杯踊った。
セリヌンティウス、やっぱりお前はマゾだろう。
おぉ、神よ。
帝都の中央広場でうごめく、その猥褻っぷりときたら!
彼らが視線を向けるたび、場内からは黄色い悲鳴が飛び。
その股間からぶらさがったが如くに見える金色のタマタマがうち鳴らされるたび、場内から苦悶の声がわき上がった。
連合盟主にして、現在の城主でもあるアッキーは二人の様子に魅入られていたが、やがて静かに彼らに近づき、頬を染めてこう言った。
「どうやら友情とは、わたしが思っていたよりも不可解で、神秘的な謎に包まれた代物だったらしい」
そして言った。
「それはきっと、わたしが本当の友というものを知らなかったからだと思う」
そのとき、ステージの警備についていた側近ギルメンたちの胸に胸騒ぎが起こった。
「一つ頼みがある」
そして、次々とシルク装備を脱ぎ捨てていくアッキー。
次々と恐慌状態に陥る側近たち。「すわっ、大殿ご乱心!」「殿中でござる! 脱がないで下さいっ」
やがて、腰装備だけになった彼女は言った。
「どうか、わたしも仲間に入れてくれないか」
ワールド城主の乱心にパニックになった国民が騒ぐ中、今ここに結成された“わいせつ物陳列ダンスユニット”。
嗚呼、このワールドの未来はどこにあるのだろうか。

シルク装備は+9を経て金色に輝くという。
このときの逸話から、金色のシルク腰だけ装備はブルマと伝えられ、略して“ブル金”と畏怖されるようになった・・・
と、ブーツだけエルフ装備の裸エルフを“裸に靴下”と命名した古老がそう伝える今日この頃。
後世の者たちへ、メッセージを捧ぐ。
走れ。
逆走でも、迷走でも・・・走れ、メロスたち。





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