短編小説っぽいもの
七日間 --
本編
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キャラクター紹介コメント
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後書きコメント
『七日間』
〜プロローグ〜 ログナー・メイフェア、彼はギルド“unique!!”のギルマスだった。 ちなみに、ギルド名は“ユニーク”と読む。 現在では“変わっている”ことを好意的に表現するときに使われがちだが、元は“唯一の”“かけがえのない”という意味であったらしい。 一本角のユニコーンという生き物は有名だが、“ユニーク”+“ホーン”でユニコーンなのであろう。 さて、それはともかく・・・彼は総じて運の悪いナイトだった。 レベルが三桁になるまで宝石をソロで拾ったことが無かったし、LTの呪いの魔法師に飛ばされた先にはことごとくトラップがあった。 いや、ダンジョンのメイジの頃からそうだった気もする。 招待状を作ろうと思えば+1一枚で+4三枚に匹敵する宝石を必要としたし、二次羽の合成確率90%は当然のように失敗した。 10匹のユニリアはディノラントになりたくないと逃げ出し、彼がリーダーになったPTでは宝石のドロップ音は沈黙した。 ・・・最近は経験から学び、彼はPT順で最後に並ぶことにしている。 はなはだ非科学的だったが、彼の並びが後ろに行くほどドロップ確率は好転した。 だが、彼は負けない。 MUが大好きだからだ。 それに巷では不評なエモティ、ハッスルも彼は大好きだった。 ・・・そして、それが不幸の始まりでもあった。 ラッキー・エイムス。 ギルド“unique!!”のギルメンで、ギルマスのログナーとは一番仲が良かった。 そして彼は名前のとおり、非常に幸運なナイトだった。 混沌の宝石を見る前に祝福の宝石を自力ドロップし、カオス合成は一桁の成功率でS付きカオス武器に化けた。 それも幸運付きでOPまで付いていた。 ・・・彼はカオス合成を何度も行ったが、カオス武器にはEXと同じく必ずSがつくと最近まで思っていたくらいだ。 ディノやマントは100%の合成確率ではないかとこっそり思っていたし、霊魂の宝石もずっと100%だと思っていた・・・自分の経験から。 りんごくじでは林檎の女神に愛され、敵の攻撃は常軌を逸した確率でMissになった。 CCに行けば彼を狙う敵は爆風で落ちたし、BCの髑髏メイジは常に相手の敏エルをタゲった。 だが、彼はそれらを鼻にかけたことは無い。 そう、彼はとても“いいやつ”だったのだ。 彼は率先してギルマスとPTしたし、彼がPTに入るとそれなりに宝石もドロップした。 そして、彼もまたエモティ・ハッスルが大好きだった。 同時にひどく無邪気で、善良なミュティズンだった。 欠点を強いて言えば、ややチャットの誤爆や誤字が多いことだろうか。 ・・・そして、それが不幸の始まりでもあった。 〜初日〜 公式開催のギルドサッカーが行われたときのことだ。 ギルド“unique!!”もエントリーが通っていた。 ログナーはとても楽しみにしていたのだが、開催日は不運にも彼の公務員試験日だった。 前日には現地に行っておかねば間に合わない。 彼はがっかりしたが、あらかじめ分かっただけ良かったと自分を慰めた。 当日になってから急に出場できなくなったら不戦敗になり、みんなに迷惑がかかる。 むしろ幸運だったと思った。 だが・・・本当に幸運なら、そもそも彼は出場できただろう。 ギルド“unique!!”はラッキーがギルマスとなって、バトルサッカーに出場した。 そして、このときの彼の幸運は尋常ではなかった。 彼の放ったスキルで弾かれたボールはことごとく相手ゴールに飛び、相手の貫通はことごとくそれた。 敵Wizのヘルバーストは6秒溜めた上でMissしたし、相手の弾いたボールはラッキーの目の前に転がってきた。 技術は伴っていなかったが、それを問答無用でねじ伏せる不可視の力があるようだった。 そして、決勝・・・相手チームのギルマスが回線落ちし、ギルド“unique!!”が優勝した。 「優勝ギルド“unique!!”のギルマス、ラッキーさんです!」 進行役のゲームマスターに呼ばれ、ラッキーは幸せだった。 同時に、不運にも出場できなかったログナーのことを思い出し、彼のかわりに胸を張って表彰台に立った。 彼の前には出場選手たちが並び、横には進行役のGM暁さんがいる。 さらにその横にはギルド“unique!!”のギルメン達が並んでいた。 まさに、晴れ舞台と言えよう。 「ラッキーさん、おめでとうございます!」 祝辞が贈られる。 「今、どんなお気持ちですか?w」 そして、お約束のコメントを求められる。 ラッキーは不意に思った。 (本来、ここに立っているべきなのは僕じゃなく、ログナーじゃないか!) 彼は善良だった。 「ありがとうございます^^」 そして、 「でも、僕はギルマスの代理で・・・本当はギルマスのログナーがここに立っているはずだったんです」 と付け加えた。 みんなは「なんて謙虚なやつだろう」と思い、ギルド“unique!!”のギルメンは「ラッキーじゃなくギルマスが出てたら優勝できなかったよ」と思った。 「へぇー、人望のある素敵なギルマスさんなんですね^^」 と、GM暁さんは好印象を持った。 「ええ!!」 そして、ラッキーの数少ない欠点、誤爆が発動した。 「彼は僕が知っている中で、最高のナイス・ゲイです!!!」 それは単なる誤字だった。 “ガイ”と打っているつもりで“ゲイ”と打たれていただけだ。 そのときの観衆の反応を顔文字にすると、 誤字キターーー(゚∀゚)ーーー!!! だろうか。 だが、実際にはいくつかのチャットで「ww」と出ただけだった。 そして、それにより不幸が雪だるま式に転がり始めたのである。 このとき、みんな誤字であることは分かっていた。 当然だ。 自分のギルマスをゲイ呼ばわりするやつはそういない。 表彰の場ではなおさらだった。 が、ラッキーは自分の誤爆に気づいていなかった。 そして、「ww」を純粋に自分のナイス・ガイ発言への疑いと受け取った。 茶化した野次だと。 彼は無邪気だった。 彼は主張した。 「本当なんですよ!!!」 このときの観衆の反応を顔文字であらわすと、 Σ(゚Д゚;≡;゚д゚) だろうか。 半信半疑の、なんとも言いがたい空気が流れた。 そして、ここで進行役のGMが空気を読みそこなった。 いや、真に不幸だったのは“ゲイ誤字に気づき”、かつ“ほ、本当に?”的な空気には気づくのが遅れたことだろう。 「あはは、ラッキーさんはログナーさんが好きなんですねw」 茶化したつもりだった。 ラッキーは喜びいっぱいで答えた。 「ええ、大好きです!!!」 チャットには現れなかったが、場の空気は実に微妙なものとなった。 そして、遅ればせながら空気の変化に気づいたGM暁さんが発言した。 彼女は対応をミスしたのかも知れない。 ラッキーに向けられた空気をなんとかしようと、他のギルド“unique!!”のギルメンに振ってしまったのだ。 「他のギルメンさんもギルマスさんが大好きなんでしょうねー^^」 MU史上、“^^”がかつてないほどの凶悪な威圧をもった瞬間だった。 もちろん、ギルメン達は自分たちのギルマスが好きだった。 少なくとも、10分ほど前まではそう答えられただろう。 だが、今この場で答えることは・・・まさに、現代に蘇った“踏み絵”だった。 「あ・・・」 そうチャットでもらしたギルメンが一人いたが、他のギルメンたちも含めてそれ以降無言だった。 ラッキーは「みんな冷たいじゃないか、ひどいな」と思ったが、こんな晴れ舞台で注目されては「恥ずかしがるのも無理は無い」と思った。 観衆は「沈黙・・・や、やっぱり“そうなのか?”」と思いつつも、無言のギルメンに「恥ずかしがるのも無理は無い」と思った。 過程は違えど同じ結論に至ることもある、稀有な例といえよう。 GM暁さんは慌てて、フォローすべく話題を変えようとした。 が、彼女はここで最大の失敗をしてしまったと言えるかも知れない。 「ラッキーさんは、いつもログナーさんと何して遊んでるですか?^^」 狩り、チャット、ギルドの身内イベント・・・そういったことを彼女は想定していた。 そして、誤爆の自覚が無いラッキーは場の“ゲイ疑惑の空気”に全く思いもよらず、明るくこう言った。 「いつも二人でハッスルしてます!!!^^」 致命的だった。 ラッキーが優勝のためにハイテンションになっていたのは不幸なことだった。 「うおぉぉ、ログナー!! ハッスルハッスル!!!」 出場できなかった不幸なギルマスにハッスルを捧げる彼。 だが、ログナーがこの場にいなかったことは珍しく幸運だったと言えるだろう。 きっと場の空気に耐えられなかったに違いないからだ。 引退を決心したとしても不思議は無いだろう。 運が良かった。 もちろん、本当にログナーが幸運なら・・・そもそもこんなことにはならなかっただろうが。 〜二日目〜 ログナーは機嫌が良かった。 彼のギルド“unique!!”がバトルサッカーで優勝したからだ。 これも「俺が参加しなかったおかげだな」などとおかしな満足感を抱く彼は、既に自分の自覚している不運さに慣れてしまっていた。 「お、ログナー^^」 そうログナーにチャットを寄越してきたのはラッキーだった。 「優勝おめ^^」 自分のギルドなのに、不参加したギルマスがギルメンに祝辞を贈る。 そして、二人のお決まりの挨拶。 「ハッスル、ハッスル!!」 素晴らしい。 打ち合わせなど要らない、見事に唱和したハッスルだった。 「あ、ラッキー」 「ん? 何?」 「とりあえず、ギルドに入れてもらっていいかな?」 ログナーは今、無所属だった。 ギルメンが集まったときにならギルマス交代出来るのだが、今勝手にギルド解散してしまっては他のギルメンが困るだろう。 次のギルド集会まで、彼はギルメンで過ごすつもりだった。 「あ、そっか。OK^^」 ギルド要請。 承認。 ギルド加入。 そして、 「ハッスル、ハッスル!!」 ハモるたびに、彼らは友情を感じた。 「あれ?」 ログナーはGキーを押し、ギルメン・ウィンドゥを見て疑問を感じた。 「どしたの?」とラッキー。 「いや・・・なんかさ、ギルメンが減ってない?」 減っている。 「気のせいじゃない?」 減ってるってば。 だが、ラッキーはギルド・ウィンドゥも開かずに答えた。 「そっかな?w」 ログナーも流した。 この日は不運にも他にInしていたギルメンが次々と落ちてしまったので、二人で狩りをした。 こっそり、「なんか、俺から逃げ出すように落ちてくなぁ」とログナーは思ったが、考えすぎだと一笑に伏した。 そして、落ちるときにこんな会話が行われた。 「あれ?」 「どした?」 突然いぶかしがるラッキーに声をかけるログナー。 「いや・・・今、G押してみたんだけど」 「うん」 「なんか本当にギルメンの数減ってるね」 だからそう言ったではないか。 だが、ログナーは気分も害さず「ほら、やっぱりw」と返事をした。 二人は少し悩んだが、 「そういや、前にこういうバグが無かったっけ?」 「あー、あったあったw」 納得した。 そして、この日は落ちた。 もちろん、 「ハッスル、ハッスル!!」 と別れの挨拶も忘れない。 〜三日目〜 ログナーは少し気になることがあった。 いましがた、ロレンシアで会ったギルメンに「ハッスル、ハッスル!!」としたところ、気まずい空気が流れたのだ。 相手のWiz、バーナード・ハックマンはハッスル嫌いではなかったと記憶しているのだが・・・。 まるで、ハッスル嫌いエルフのギルメン、ヴィヴィアン・スウィートネスのような反応だった。 いや、それよりは少し戸惑うような・・・? 少し考えた後、 「ま、いっか」 彼は肩をすくめ、倉庫に向かった。 「やっぱりバハかなぁ?」 「ヒドラ部屋はベガがいないときついし、バハでしょ」 ちなみに、ベガというのは“unique!!”の数少ないエナエルである。 ロレンシア倉庫前で、ログナーとラッキーは狩りに行こうと話しているのだった。 いつものように、横にいる倉庫番バズは聞いているのか聞いていないのか分からない。 「じゃ、赤と青買ってくるねー」 ラッキーが薬売りエリフィのところに向かう。 「ナンパするなよw」 いや、NPCを口説いても返事はこない。 返ってくるのは周囲の奇異な目だけだろう。 二人はすぐ後で合流するというのに、 「はっする、ハッスル!!」 と唱和する。 ちなみに、前半の平仮名はラッキーの誤爆である。 と、ログナーは少し離れたところにギルメンがいるのに気づいた。 さっき、ハッスルで気まずい空気が流れたバーナードだ。 倉庫に来るのを少し迷うような感じで立ち止まっている。 「お、バーニィ^^」 ログナーは明るく声をかけた。 遠慮して、今回はハッスルを使わないでおく。 バーナードは少しの沈黙の後、 「こん^^;」 と返してきた。 ログナーは“^^”でなく“^^;”なのが少し気になったが、誤爆だろうと思った。 ラッキーもやりそうだなと思っただけだった。 そして、バーナードもPTに誘ってみようと思った。 今はギルメンだが、本来はギルマスである。 ギルマスはギルメンに心配りを忘れてはいけない。 「バーニィも一緒にするか?^^」 このときのバーナードの心境を顔文字にすると、 Σ(゚Д゚;≡;゚д゚) だろうか。 彼には“する”が“スル”にさえ見えた。 気分の問題だったが。 もちろん、ログナーは一緒にPTして狩りをと誘ってみたのだったが、バーナードは違う意味に取った。 「す、すすすスルなんて、とんでもない!」 大慌てで答え、逃げ出そうとする。 ログナーは少し気分を害したが、「ま、レベル差が大きいし、吸われるのが嫌なのも仕方が無いか」と思った。 実際、バーナードとはLvが50近く離れている。 が、彼はギルマスだ。 ギルメンとは交流し、かつ心配りを見せなければならない。 バーナードの背中に、彼は善意で爽やかに声をかけておいた。 「したくなったら、いつでも言えよ!!」 ナニをですか? 〜四日目〜 ゲイというのは、一部の女性に密やかな好奇心をかきたてるものらしい。 ましてや、MUでは完全にプラトニックだ。 ハッスルのエモティが過剰に生々しく、それで好奇心をそそられる女性はさらに減ったが、それでも残ったごく稀な女性にとっては逆にツボであるらしい。 ギルド“unique!!”ギルメンのエルフ、ユークリッド・ラヴァーフィールドもその一人だった。 「こん^^」 ユークリッドに明るく挨拶され、ログナーは上機嫌で「こん^^」と返した。 気のせいか、最近はギルメンとの交流が少ないようで寂しい気がしていたログナーは喜んだ。 「混^^」と返したのは横にいるラッキー。 もちろん、“混”は“こん”の誤爆である。 ユークリッドも彼の誤爆には慣れているので特に気にしない。 彼女は少し踏み込んでみることにした。 そろそろ好奇心が抑えられない。 「いつ見ても二人はいいカップルよねー^^」 ログナーは内心で一瞬「カップル?」と思ったが、お笑い芸人などの“コンビ”のことだろうと思った。 「ハッスル友だからw」 と返す。 彼的には、友情を表したつもりの表現だった。 だが、不幸なことにユークリッドの頭の中では変換され、昇華し、別な意味に受け取られた。 彼女は少し言いづらそうに、 「ね、ねぇ? 少し踏み込んだことを聞いてもいいかな?」 と切り出した。 さすがに彼女も直球では言いづらい。 一方、久しぶりのギルメンとの交流で上機嫌なログナーは全く気にせず「OK、OK^^」と返した。 「あ、あのさ・・・二人の関係では役割とか決まってるの?」 ログナーは一瞬考えた。 役割・・・PTの時の前衛後衛とかだろうか? 控えめな彼はあまり前に出るのが好みではなかったが、ここで「自分の好みはどっちかというと後ろから攻撃かな」と答えなかったのは幸運だったと言えよう。 ・・・本当に幸運なら、今のような状況にはなっていないだろうが。 「役割?」 そう返したのはラッキーだ。 その問い返しにもじもじしながら、「ほ、ほらイロイロあるじゃない」とユークリッド。 消え入りそうな小声で、 「そ、その・・・“攻め”とか“受け”とか」 地面とと二人を交互に見る彼女は赤面しているようだったが、二人は特別には気にしなかった。 少し変だなとは思ったが。 「あー、わかったわかったw」 そう返すログナーに安心するユークリッド。 好奇心は抑えられないが、彼女だって恥ずかしいものは恥ずかしい。 一方、ログナーはやっと得心していた。 (なんだ、お笑いコンビってことか) やはり、さっきの“カップル”は“コンビ”を言い間違えたのだろうと確信した。 (ボケとツッコミねw) 嗚呼・・・疑問は解けた、もう迷いは無い。 ログナーは何のためらいもなく爽やかに言った。 「やっぱ、俺がつっこむ方が多いかなw」 そして、ラッキーも無邪気だった。 「うんうんw僕は突っ込まれてばっかりだよねーww」 一方、ユークリッドは予想以上の大胆な発言に内心パニック半分の黄色い声をあげていた。 彼女の頭の中は今、百花繚乱だった。 〜五日目〜 ログナーは少し落ち込んでいた。 気のせいかと思っていたのだが、ギルメンたちがよそよそしいのだ。 いや、ギルメン同士で仲が悪いわけではない。 認めたくはなかったが・・・ログナーに冷たい、いや自分を避けているようなのだ。 何故、こんなことに? 彼には分からなかった。 自分が何かしてしまったのだろうか? それも分からない。 心当たりが全く無い。 当然だ。 彼は何も悪くは無い。 ・・・運以外は。 ちなみに、罪の自覚が全く無いラッキーだけは今までと同じようにログナーと付き合っていた。 元凶となった人間こそが最大の被害者ともっとも親しい・・・悲劇と言えよう。 〜六日目〜 ラッキーは少し悩んでいた。 最近、親友のログナーが落ち込んでいるのだ。 彼は心から気の毒に思い、やりきれない思いにかられた。 何故、こんなことに? 自分の胸に聞いてみるがいい。 一体、何があったのだろう? 自分の胸に聞いてみるがいい。 ラッキーはあくまで善良で、自覚が無いだけだった。 その日、ラッキーはログナーとの出会いを思い出していた。 あれはそう・・・MUトレの取引の待ち合わせでのことだった。 ロレンシアの酒場前。 人通りは少なく、待っていたのはラッキーと・・・もう一人、ナイトが離れたところに立っているだけだった。 彼は退屈していた。 少し早く来すぎたのだ。 どうしたものか? 深く考えずに、日頃から愛用していたハッスル・エモティを発動させて遊んでみる。 「?」 見間違いだろうか? もう一度、ハッスル。 「!!!!」 少し離れたところにいたナイトが同じようにハッスル・エモティしているではないか。 ラッキーはさらにハッスルした。 相手のナイトもハッスルした。 いつしか“/”を入れるのも忘れ、二人はチャットで「ハッスル、ハッスル!!」と連呼していた。 ラッキーは思った。 真の意味で、あのナイトと分かり合えたのだと。 まさに運命の邂逅だった。 言葉は要らなかった。 いつしか時を忘れ、無心にハッスルする二人の姿があった。 この日は結局、取引相手は来なかったが・・・彼はMU人生、最良の日だと思った。 もっとも、相手は来なかったのではなく、来たが“ハッスル”に狂う二人に声をかけずに立ち去っただけだったのだが。 〜七日目〜 この日、“unique!!”のギルド会議が行われた。 議題は“解散”、ないし“ギルマス交代”についてだった。 ロレンシアの片隅にある焚き火をギルメン達で囲んでいる。 ちなみに、ログナーは可哀相なほど落ち込んでいた。 「解散にしろ、ギルマス交代にしろ、俺は異存無いよ。全部みんなに任せる・・・」 そう呟いた後、肩を落として黙り込んでしまっている。 さすがにギルメン達も彼が気の毒に思ったが・・・“ゲイのギルド”という評価を背に受けて生きていくのも酷な話だった。 特に野良では致命的だ。 BCで待っている間も、沈黙の中で周囲にどんなPTチャットが行われているのかと不安になる。 ログナーだけでなく、ギルメン達も苦しんでいたのだ。 ギルメンの一人に、アルバトロス・ルカ・ミュンヘン三世というナイトがいた。 彼の名前はよく揶揄される対象になったが、アルバトロスの和訳がアホウドリなこと以外は気にしなかった。 平民で三世だっていいじゃないか? かのトム・クルーズだって、本名はトーマス・クルーズ・マポーザー三世だ。 いや、四世だったか。 そんなトリビアはともかく、彼は昨日レンタルしてきた映画のことを思い出していた。 映画の主人公は何も悪くはなく、教え子がTVインタビューで彼のことをことを「ゲイだ」と答えたために不幸のどん底に突き落とされるストーリーだった。 なんということだ・・・このギルド会議はまさにあの映画のワンシーンではないか? アルバトロスはミッション系の進路を進み続けており、珍しく熱心なクリスチャンだった。 彼はレンタル・ビデオという形で宣託を下された神に感謝した。 TUTAYAの名のもとに腹筋50回。 ついでに彼は体育会系だった。 (いや、腹筋は後だ) 彼は思った。 (今、やるべきことは・・・) 彼の頭の中には、ゲイ疑惑が理由で職を失おうとしている悲劇の主人公を救うため、聴衆が次々と「俺もゲイだ!」と言い出すシーンが再生されていた。 「ログナー、聞いて欲しいことがあるんだ」 突然、沈黙を破ったギルメンに視線が集中した。 「アルバ・・・?」 ログナーの声は暗い。 が、アルバトロスはそのために返って使命感に燃えていた。 腕組みをして「俺たち、ゲイ!」と立ち上がる三人の消防団員の姿が走馬灯のように脳裏をよぎった。 「とても大事な話だ」 アルバトロスは言った。 友よ、待っていろ・・・俺が助けてやる。 彼は友情のため尊厳を捨てるという、崇高かちょっと微妙な決心を固めていた。 口を開く。 「実は・・・俺はゲイなんだ!」 Σ(゚Д゚;≡;゚д゚) 他のギルメン達は驚いた。 アルバ、お前・・・? おかしいじゃないか。 先週、彼女が出来たとギルチャしていたのに。 そして、みなは理解した。 (ゲイのログナーのために・・・アルバ、お前) いや、ログナーは本当はゲイではないのだが。 一方、ログナーも驚いていた。 アルバ、お前・・・? なんてことだ、先週彼女と言っていたのは、本当は彼氏だったのか。 (でも、なんで・・・) そして、ログナーは理解した。 アルバトロスは自分をかばおうとしたのだと。 話をそらすことによって、少しでも自分を・・・何故、よりにもよってゲイのカミングアウトなのかは疑問だったが、ログナーは彼の友情と思いやりだけで胸がいっぱいだった。 ギルメンのヤン・ユン・ヤンにササが来た。 (ヤン、聞いたか?) 横に座ったアンディ・ドナヒューからだ。 (なぁ、俺たちも・・・) (おいおい、本気か?) (いや、俺もまだ迷うけど・・・) (けど?) (・・・俺の隣のユークリッドが止められないんだよ) (あ、まった。ベガからもササが) ログナーは迷っていた。 アルバトロスには感謝しているが、正直・・・ゲイのカミングアウトにどう答えればよいのか分からない。 ログナーはゲイに偏見は無い。 自分が恋愛対象にならなければ、友人としてなら問題無く付き合えると思う。 だが、人生にかかわる悩みではないか。 一人のギルマスが負うには、重すぎることだった。 と、そこへ新しい発言が。 「ログナー、聞いてくれ」 アンディだ。 ・・・ユークリッドのほうをちらちら見ているのが気になるが。 「ログナー」 「なんだ?」 アンディは覚悟を決めた。 ヒドラ部屋で意図的にG+を切らされてはたまらない。 「実は・・・俺もゲイなんだ!!」 Σ(゚Д゚;≡;゚д゚) 「・・・え?」 ログナーは絶句した。 そして、彼が気を取り直す前に次々とギルメン達が立ち上がった。 ヤンだ。 「俺もゲイさ!!」 「あ・・・お、俺もゲイ・・・かも」 と、これはバーナード。 いや、不安そうに言われても。 ログナーはどう答えて良いか分からない。 鋼鉄装備のナイトを中心に三人のナイトたちが立ち上がり、口を揃えて言った。 「俺たち、ゲイ!!」 ちなみに、右のヘンリー・ティーゲルはドラヘルだけ装備スタイルだったので、その説得力は並ではなかった。 (なんてことだ・・・) ログナーは思った。 我がギルドにここまでゲイが浸透していたとは。 ギルド名が“unique!!”とはいえ、ユニークすぎだ。 「お、お前たち・・・」 ログナーは少しずつ理解し始めた。 自分のギルマス更迭から話題を変えようとしているみんなの友情を感じ始めていた。 ・・・とりあえず、友情の部分は間違ってはいない。 「ログナー!」 ユークリッドだ。 「なんだ?」 「あたしもゲイなの!!」 Σ(゚Д゚;≡;゚д゚) ゲイってのはホモとは違うのか? ユークリッド、きみは女性・・・。 (はっ、そうか!) ネカマだったんだね、ユー。 それともレズビアンのカミングアウトかも・・・いや、どうでもいいことだ。 ログナーは論理を超越した友情に胸がいっぱいになっていた。 思わず涙ぐむ。 ログナーは・・・決心した。 さっき、自分が恋愛対象にならなければ、友人としてなら問題無く付き合える・・・そう思ったではないか。 その通りだ。 みんな、確かにゲイかも知れない。 正直、予想以上のゲイ率に驚きはした。 だが・・・みんな大切なギルメンじゃないか。 自分なんかのために、そんな秘密を次々暴露してくれた。 つらかっただろう。 苦しかっただろう。 どれほど勇気が要っただろう。 (それに比べれば・・・) ログナーは悩んでいた自分が恥ずかしくなった。 どんなことがあっても、守らなければならないものがある。 みんな大切なギルメンだ。 「みんな・・・」 ログナーは口を開いた。 そして、言った。 「これからも、俺にみんなのギルマスをやらせて欲しい」 結局、これだけの騒ぎを起こしながらラッキーの責任は問われることは無かった。 いや、ログナーは今でも自分がゲイだと思われているとは知らないし、ギルメン達がゲイだと思っている。 だが、そんなことは些細なことだ・・・大切なギルメン達じゃないか。 そう思えるようになっていた。 また、ギルメン達はログナーがゲイだと今でも思っている。 だが、そんなことは些細なことだ・・・大切なギルマスじゃないか。 そう思えるようになっていた。 もう野良も平気だ。 誰もラッキーが自覚の無い不幸な元凶であることを知らない。 今も、これからも。 やはり、彼は幸運な男なのだろう。
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