短編小説っぽいもの

インタヴュー・ウィズ・ハイブリット --  本編後書きコメント
 『インタヴュー・ウィズ・ハイブリット』


〜プロローグ〜


“あなたは何故、今のステにしたのですか?”
そう聞かれたなら。
回避ナイトは「最も早く、最も強い敵とソロで戦えるようになるために」と答えるかもしれない。
エナエルフは「最大のサポ効果を仲間に与えるために」と答えるかもしれない。
体力ナイトは「CC、あるいは城で活躍するために」、エナナイトは「仲間を死なせないようにSLを高めるため」、それから・・・
どの育成タイプであっても、特化は目的が容易に思いつく。
稀にそれが正解でない場合はあっても、大半は。
けれど、バランス型の育成タイプはどうなんだろうか?
彼ら、彼女らにだって、きっと目的なり理由なりがあるはずだと思う。
知りたいと思った。
なぜなら、まだ僕には答えが無いから。
冒頭の質問をされても、羽化でさえ遠い僕は答えを持っていないから。
だから、僕は聞いてみることにした。
レムリア・ワールドの最古参ギルドの一つで、廃集団としても有名・・・でありながら、他に類を見ない特徴を有する彼らに。

ギルド“ハイブリット”。
そのメンバーは五人しかいない。
彼らにとって、ギルドとパーティーは同じなのだという。
純然に過ぎた固定PT。
そして、五人全員が・・・バランス型。
欧米では“ハイブリット”とも呼ばれる、複合型の高レベル集団。

僕は、彼らにインタヴューを申し込んだ。



〜理由、ジョア・ドゥ・ヴィーヴルの場合〜


「飽きっぽいから、かな」
僕の質問に面食らったように戸惑い、しばらく考え込んだ後、ギルドマスターである魔剣士は言った。
少し困ったように。
そして、まだあどけなさの残る少年のような笑みを浮かべて続けた。
「あはは、大した理由なんかないんだよ」
その笑い声は軽やかな風のよう。
「期待させちゃったなら、申し訳なかったね」
「あ、いえ・・・」
確かに、拍子抜けした感はあった。
いきなりするには失礼な問いかけだった思うし、気分を害されても当然だとも思っていた。
なのに怒った様子も無い。
それに正直、バランス型ステの理由にも肩透かしを食らったような気分だった。
悪霊でタゲを集め、地獄で燃やし、BAで葬る。
PSで道を切り開く。
それらを有効に使いこなし、真の意味での魔法剣士の戦闘術を持った人物。
僕は勝手にそう思っていたのだ。
けれど、彼は違うと言う。
便利だからPSを放ち、威力が強いからBAで薙ぎ払い、気分が向いたら悪霊を撒き散らす。
特に深い理由も無く炎の柱で魚を焼き、竜巻でヒドラを回して楽しむのだと。
有効かも気にせず、それを使い分ける基準は・・・単に楽しいから。
格好良いから、ですらない。
僕は思った。
そんな・・・いい加減な。って。
「でもね」
そんな僕の心を見透かしたように、彼は言葉を続けた。
「考えてごらん?」
「え?」
何を・・・?
「そもそも、そんな大した理由なんか必要ないんだよ」
可笑しそうに僕を笑う彼。
それはまるで、何の意味も無いことに思い悩む子供を見るような。
くすくす、と。
愛情を込めた微笑。
両手を広げ、彼は言った。
まるで、今日は良い天気だねと言うような調子で。
「僕らはただ遊ぶため、そのためだけにこの世界に生まれたんだから」

彼の名はジョア・ドゥ・ヴィーブルという。
英語化したフランス語で、その意味は“生きる喜び”。



〜理由、レッジーナの場合〜


「世界を広げてくれたもの、ね」
あなたにとって、バラエルとは?
そう聞いた僕に対する、彼女・・・“ハイブリット”のバラエル、レッジーナの答え。
EXバルロックの鎌(EXOPは速度でなく、EXD&Lv20らしい!)を背負った、“ハイブリット”のAG係は言う。
「元々はEEだったのよ、あたし」
でも、誰かと一緒じゃないと狩りも出来ない。
彼女は少し寂しそうに薄い笑みを浮かべて、
「一人じゃ遊べないの」
それは特化の代償。
特化とは大きなメリットを手にするために、デメリットを背負うということでもある。
「そう。遊ぶ・・・ただ、それだけのことが」
昔を思い出しているのだろう、どこか遠くを見るようにして彼女は軽く嘆息した。
いわゆるEEはエナ特化。
火力も防御力も持たない彼女たちは、同時にPT特化でもある。
ソロであることを捨て、PTでの貢献度をより高く求めた育成タイプ。
仲間からは感謝され、冒険者が集まれば無くてはならない存在だという。
「ねぇ? エナエルって、まるで・・・」
彼女は、とある女優の名前を挙げた。
彼女のようだと思わない? と。
世界的に有名だった映画女優だ。
僕は知らなかったが、その女優はいつも人の目を意識しないではいられなかったらしい。
人の目を集めていただけでなく、依存の域まで人の目を重視し続けた。
だから、こう問われた。
“あなたは、誰もいないと消えてしまうのですか?”
「“本当のあなたは?”」
それはとても簡単そうで、危うい難題。
「人に貢献するって、素敵なことだと思うわ」
彼女は言う。
「仲間に感謝されるのはもっと素敵」
そう、それがエナエルだ。
「あたしはそんなエルフだった」
だったら、何故?
感謝されたはずだ。
エナエルだから。
ひとの役に立っていると、そんな満足感も得られた。
エナエルだから。
「誰かがINするのを待つしかなかった」
エナエルだから。
「誰かが見つかるまで叫ぶしかなかった」
エナエルだから。
「今思うとね、ひどく小さい狭い世界にいた気がする」
かつての世界が悪かったわけじゃない。
ただ、思っていたよりもこの世界は広かったのだと。
寂しかった自分は、ひどくあたたかな殻に包まれていた。
その優しく残酷な壁の向こうに、彼女は踏み出してみたのだ。
世界の裏側に放り出されることを選んだ・・・
知りながら、自ら毒林檎を噛んだ狡猾な白雪姫はどうなるのだろう?
それは賭けだ。
幸せを掴めるかどうか、そのために今までの自分を賭け金にした。
けれど、それだけのために毒林檎を口にする?
出来る? 目論見だけで。
いいや。
きっと、彼女はEEという過去が嫌いになっていたのだ。
だから、それらを捨てられた。
幸せを掴もうとした賭けだったのか、逃げ出すための一歩だったのか。
裏切りと紙一重の決断。
決してエナエルが不幸であると言う気は無い。
ただ、彼女にとっては優しくて、あたたかで、魅力的な・・・檻に見えてしまったというだけ。
と、急に彼女は陽光の中を飛び跳ねる少女のような表情を僕に向けた。
「一人で踏み出せるようになって、大きく広がったのよ。世界が」
目の前の笑顔のどこに、後悔を見つけることが出来るだろう?
「まるで・・・初めて+5のブーツをもらったときみたいに」
不意に僕は悟った。
彼女は今、幸せなのだと。

「あたしは運が良かったの」
バラエルになること=幸せになれることではないと言う。
「あたしは絶望する前に、楽しんでいられる間に・・・彼らを見つけられたから」
キャラクターのステじゃなく、その奥にいる人間と遊ぶことを選んでくれる仲間と出会えたから。



〜理由、ミランの場合〜


「ゲームで遊ぶの、好きだから」
彼女はろくに考えることもせずに、至極あっさりと答えた。
EX水晶の剣(良かった、EXOPは速度だ)を背負った、“ハイブリット”のヒール担当のバラエル、ミラン。
「わたし、自動鼠とかって絶対に理解できないわ!」
「自動鼠? ・・・あ、オートマウス?」
オートマウス。
それはプログラムが組み込まれたマウス。
自動で狩りをし、ドロップを拾い、補給までするという。
それどころか、誰かが近づくと接近行動を取るなどのフェイク行動まで行うものもある。
現在はまだチャット機能は組み込まれていないようだが、マクロ的に決まり文句をチャットする物も現れることだろう。
ただし、意思の疎通レベルのチャット・・・すなわち、会話は無理だが。
BOTと呼ばれるものが一番近いだろうか。
「わたしはエンブレムを買ってる。それも豊穣」
「はぁ・・・それは羨ましい」
僕は買っても修練、普段は徒歩だ。
移動コマンド不能は不便だが、タイムチケのようにINしている間だけ減るならともかく、リアル都合でIN出来なくても期限が切れると思うと僕には高い。
「機械に遊ばせるためにエンブレムを買ったわけじゃないもの。そうでしょ?」
まぁ、そうでしょうけど・・・
「でも、Lvは早く上がるでしょう?」
おかしい。
なんで僕はオートマウス派みたいなことを言ってるんだ?
話の流れとはおそろしい。
「わたしの知り合いが言ってたわ」
ちなみに敏特化ナイトで、どんな人か聞くと「エロ猫ね」と即答された。
「レベルはただの数字、アイテムだって電子記号に過ぎない。ゲームは楽しむこと以外に何の価値も無い、って」
「・・・でもほら、Lvが上がるのが楽しいとか」
それは別におかしいことじゃないと思う。
そんな僕の問いに、彼女は頷いて
「当然のように言うでしょ、“レベルを上げたければクエストへ”」
実は、今のMUでレベル上げといえば通常狩りを意味しない。
DSやBCといったクエストに行くことをいう。
「でもね」
目の前のエルフは巨大な水晶の剣を軽々と担いだままで、
「20分叫んで、20分待って、20分遊んで2ゲージ」
大げさに肩を竦めて見せ、
「それなら、わたしは一時間丸ごと遊んで1.5ゲージのほうがいいわ」

「わたしは人間できてないからねー」
最初の聖女のような外見の印象を粉砕するような邪悪な笑みを浮かべて、
「カワイイEEが必死に募集叫んでるときに、この・・・」
彼女の身長ほどもある巨大で透明な刀身を掲げ、
「この愛剣でモンスを撲殺するのが快感なの」
胸を張って言い放った。
「1サバのロレで叫んでる様子を想像しながらだと最高の気分ね」
彼女は歪んでいると思った。
「シルクEEとかのカワイイ子たちが着れない、たくさんの服をコスで楽しめるのもバラエルの魅力ねー」
彼女はとても歪んでいると思った。
見た目は綺麗で大人しそうな女性なのに。
「ちやほやされるために遊ぶのを我慢するなら、その間に弓撃って狩れるほうがずっと好み」
何があったんだろう。
いつか、ヒマがあったら彼女の過去を聞きたいと思う。
この世に未練が無くなった頃に。



〜理由、マンチェスターの場合〜


「きっかけは間違い、だな」
“ハイブリット”ギルドのナイト、マンチェスターは重々しく言った。
「はぁ・・・間違い、ですか」
「ああ、間違いだ」
「間違い・・・」
僕は少し考えた。
間違いでステを振ってしまうことはあると思う。
数ポイントなら。
今までの育成タイプを変更することを、間違いだったと言うこともあると思う。
力寄りバラナイトとか、敏寄りバラナイトとか。
でも、この人の場合はちょっと違うらしい。
「最初はな、体力ナイトを目指そうと思ってたんだよ」
ほぅほぅ。
「CCの実装前だが」
対人という概念が希薄だった時代に体力特化。
「・・・物好きですね」
失礼な感想だったか?
一瞬そう後悔しかけたが、彼は気にした様子も無く続けた。
「ところが、方針転換することになった。・・・なぁ、“必要は必然の母”って知ってるか?」
「は?」
「つまりだな、必要で仕方なくの結果ってことだ」
「はぁ、分かるような・・・」
自信無さげに答える僕。
「冒険してるうちに色々と思ったんだよ。あれ装備するのに力が欲しいとか、敏があれば速度がとか」
「あぁ、それは分かるかも」
良かった。
それなら分かる。
そんな安心しかけた僕に、
「で、気づいたらステが全部同じになってた」
は?
今なんと?
「全部・・・?」
「そうだ。力、敏、体力、エナ、全部同じ数字に」
前言撤回。
絶対に分からない・・・僕が言いたいセリフは一つだ。
なんで?
「ある時、気づいたんだな。“俺は今、凄い勢いで間違った方向に行っているっ”って」
間違ったら戻りましょう。
っていうか、まず止まって下さい・・・。
「あ、今気づいたぞ」
「はい?」
「ひょっとしたら、俺は欲張りなのかもしれん」
「は、はぁ」
話が見えないのですが・・・
「力ナイトの攻撃力と、回避ナイトの回避性能、エナナイトのSL効果・・・等々」
「おぉ」
「50Lvほど低いそれらのタイプと張り合う性能を持っているからな、俺は」
「・・・」
一次羽と二次羽より大きい差では?
しかも自称。
なんとなく100Lv分ほど劣っていてもおかしくない気がする。
「言ってみれば、バラナイトの極地だな。うむ。万能にして平凡、ここに真理を開眼したり」
平凡じゃ駄目なんじゃないでしょうか・・・
彼はニヤリと笑って、
「エナ魔よりマゾいぜ?」
自慢になりません・・・

「今は、そうだなぁ・・・俺のステを初めて聞いたときの相手の顔が楽しみだな」
「はぁ」
ピンと来ない僕。
「あれがたまらないんだ」
僕の様子に気づいたのだろう、
「たとえて言うとだな。受験戦争で不眠症になったとする」
「はい」
「あんまり頻繁に睡眠薬をもらいに行くもんだから、薬局のおばちゃんが言うわけだ。“友達にあげちゃダメよ”って」
なるほど。
それは確かに疑われるかもしれない。
「そこでな、にっこり笑って言うわけだよ。“大丈夫ですよ。ぼく、友達いませんから^^”」
・・・。
「想像してみろよ、そのときのおばちゃんの複雑な顔! くぅ、たまらないぜ」
そして、マンチェスターさんは僕の顔を見て言ったのだった。
「そう! その顔だよ!!」



〜理由、レアルの場合〜


「執着が無いから・・・かな」
かなりの時間を悩んだ後、“ハイブリット”ギルドのウィザードはそう答えた。
「かなり解釈の広い“執着”だがね」
「はぁ」
よく分からない。
「えぇっと・・・その装備、頭以外は+13なんでしょう?」
ヘラスのスフィに、EXスフィを合わせた黄金の・・・神々しい古代エジプトの王のような魔術師に聞く。
「仮面だけ成功しなくてね・・・もう何十個燃やしたことか」
軽く肩を竦める仕草。
「そこまで達成するっていうのは・・・ある意味、執着があったから出来ることでは?」
僕はそう思う。
けれど、彼はこともなげに
「執着があったら釜に入れられないよ」
即答。
確かにそういう言い方も出来るだろうけど・・・なんだか騙された気分だ。
彼は“まぁまぁ”とでもいう仕草をして見せ、話を続けた。
「私は手に入れていない欲しい装備にも執着が無い。少なくとも、手にした自分を想像したりしないんだ」
「・・・なぜ?」
欲しい装備を手にした自分を想像するのはワクワクすることだと僕は思うけど。
「例えば、オークションを想像してごらん。人はね、あまりに“欲しい”という気持ちが強いと、どうなると思う?」
「えぇっと・・・後悔してしまうような値段で落札してしまう?」
「うん、それもあるだろうね。でも、落札できるとは限らないだろう? 競争相手が石持ちだったり、あるいは単に自分の手持ちが足りない。そんなこともある」
「あぁ、それは確かに」
頷く。
「そういうとき、強すぎた“欲しい”はどうなると思う?」
「え?」
「まるで、自分が失った物のように思えてしまうんだよ・・・入札してただけの他人の装備なのに、ね」
「・・・」
手に入れるよりも早く、心が手にしてしまうのだと。
「一度も手にしたこともない装備なのに、まるで奪われたような気持ちになるんだ。裏切られたような、失望」
分かる、気がする。
「どう思う?」
「え?」
「こういうのを何て呼ぶか分かるかい?」
「あ・・・えぇっと」
口ごもった僕に向かって、彼はひどいことをあっさりと言ってのけた。
「一人芝居の茶番さ」
「・・・」
一人で勝手に踊る喪失感と失望、不必要で無駄な挫折の道化。
そう彼は歌うように口ずさむ。
「馬鹿馬鹿しいじゃないか、だって錯覚なんだよ? 傷つく必要の無いことに傷ついてしまう・・・強すぎた“欲しい”が」
「・・・それが、執着?」
「うん、私はそう思う」
でも・・・僕は思う。
“欲しい”はマイナスだけじゃないと。
エネルギーにもなるし、何より目指す目標があってこそプロセスに生きられるんじゃないだろうか?
彼の言った負の性質と紙一重だけれど、僕は“欲しい”を否定するのはどうかと思う・・・
と、笑い声で我に返った。
「難しく考え込んでいるね」
目の前で微笑む黄金の魔術師。
「そんなに突き詰めないでもいいんだよ。だって、私が言っていることは“誤魔化し”なんだから」
「・・・は?」
彼の言った言葉が理解できなかった。
「誤魔化し。言葉の魔術、詐欺、言い換え。どれでもお好きに呼んでくれたまえ」
「・・・僕をからかってるんですか」
「とんでもない!」彼は無害を示すようなジェスチャーをして見せ、
「私が思う、MUで生きるためのコツだよ」
黄金の魔術師はまるで儀式を行うように、魔王の名を冠する杖を掲げ
「いい加減に使うんだよ、誤魔化しを! 程よく楽しむためのコツはね・・・」
にんまり笑って、バサァッと広がる天使の翼。
「美味しい食事と同じ“腹八分目”さ!」
熱意を深追いせず、いい加減に自分を誤魔化し、楽しいを壊さずに逃げたまえ。
誤魔化しで楽しめるうちは誤魔化せばいいのさ、と。
そして、彼はどこか寂しげに言った。
誤魔化せなくなったら、消えるしかない。

「あぁ、バランスにした理由だったね?」
「あ、はい」
「私は延長線上にあるものに執着しすぎない。手に入れていないものに、ね」
彼は他人事のように話し始めた。
ステも同じ。
ヘルバを覚えた。
なら、それでいいんだ。
エナにこだわって極限を目指す執着が無い。
よく死ぬから体力を振った。
あまり死ななくなったら、それでいい。
CCで死なないほど振らないでも構わない。
「私はね、とりあえず手にすればそれでいいんだ」
適度な物を手にできれば、それからはそれにこだわらない。
彼は言う、“諦め”と紙一重のいい加減さは“楽しい”だと。
「この装備もね、ホイホイと釜に入れるだけ。その結果さ」
燃えても落ち込まないなら、適度な楽しみだよ。
それが続く石がある理由?
あっさりと答えが来た。
「それは私が廃だからだろうね」
彼は笑う。
「うん、そうだな・・・私が一つだけ執着するものがあるとすれば」
「すれば?」
「それはMU自体だな」
自分の持っている装備という過去のものに執着せず釜入れし、自分のステという過去のものに執着せずステを振る。
そのくせ、未来に手にするかもしれない装備にも執着しないから燃えても平気だし、ステだって後悔しないほど無責任。
よく言えば、諦め上手。
悪く言えば、熱意の足りない・・・いい加減な遊び人。
けれど、“いい加減”は“良い加減”。
そんな風に笑ってしまえる、この古代エジプト風の魔術師はロレンシアの大空を見上げ、呟いた。
「彼らと一緒にいるこの世界」
“彼ら”が誰を意味するのか、それは聞かないでも分かった。



〜エピローグ〜


「やぁ、もう全員から話を聞けたかい?」
その声に僕は振り向いた。
すぐ近くまで来ていた声の主は“羽なし”の魔剣士。
ギルド“ハイブリット”のギルドマスター、ジョア・ドゥ・ヴィーヴル。
そう。
言い忘れていたが、彼は羽を付けていない。
もっとも、“羽なし”であるがゆえに、彼は英雄なのだけれど。
「はい、ありがとうございました。皆さんのおかげで、僕も・・・」
と言いかけたところで、魔剣士が片手を上げて遮った。
「そう、良かった。けれど・・・」
「けれど?」
僕は聞き返す。
「けれど、もしきみがバランス型にすると言ったら」
「・・・言ったら?」
「ようこそ、なんて言わない。僕らは口を揃えて聞くよ。“なんで?”って」
それを聞いて、僕は正直少しショックだった。
「そんな・・・こんなに勧めておいて」
「勧めてやしないさ」
横から口を挟んだのは“バラナイト”マンチェスターだった。
その周りには、いつのまにか集まっていた“ハイブリット”の面々。
「あたしたちは、あたしたちのことを話しただけ」
「あくまで、決めるのはお前さ」
「きみじゃなきゃいけない」
口を揃えて言う。
なんだか突き放されているような気分だ。
彼らは口調こそ優しいのだけれど、まるで僕は群れからはぐれた羊じゃないか。
そんな、すねたような不満を感じている僕に向かって
「バランスにする必要なんて無いのさ」
「特化にする必要が無いようにね」
「この世界は必要でなんか作られてないんだから」
「ただ・・・」
「ただ?」
「きみは好きにしないといけない」
「自分で」
「そう、なぜなら・・・好きっていうのは、私事だから」
「わたくしごと?」
「そう」
「他の誰にも権利は無いし、他の誰にも責任を背負ってなんかもらえない」
それに、他人への強制力だって無いもの。
「好きっていうのは、そういうこと」
人は、好きになるとき・・・一人でなければいけない。
自分の足で立ち、自分の口でそう言えなければいけない。
僕の目の前の五人、自分が好きだと言える五人が
「MUはゲームだよ」
「さぁ、好きな自分になりたまえ」
僕に告げた。
「選ぶのは、きみだ」





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