短編小説っぽいもの
輝くもの全てが黄金とは限らない。けれど・・・
本編
・
後書きコメント
『輝くもの全てが黄金とは限らない。けれど・・・』
〜1〜 「しょうが、ないよね・・・」 ため息をつくように、リズはひとりごちた。 エリザベス、愛称リズはギルド“イングランド”のギルドマスター。 もうすぐレベル250になる二次羽の、セト止めの極エナEE。 (ダメダメ、落ち込んじゃ!) 沈み込みそうになる自分を叱咤し、鼓舞する。 今、彼女はイベントの黄金軍団エリアを背に帰還するところだった。 リズが発見したとき、ゴールドタルタロスの周りにはまだ誰もいなかった。 どうせすぐにでも他の二次羽たち、特に黄金狩りに張り付いたエキスパートたちが来るだろうけれども。 それでもこんなチャンスを見逃すことはない。 自分だって倒せるかも・・・そう思ってこそ、こうしてタルカン砂漠にやってきたのだから。 親衛部隊のゴールドアイアンホィールを潜り抜け、 「黄金なのか鉄なのか、はっきりなさいよ!」 Gタルタロスに接近し、Aをかけた貫通を撃ち込んだ。 なけなしの火力。 と、 (もう来ちゃった・・・?) 気配を感じて振り向くと、見えたのはPTだった。 (・・・一次羽?) よく見れば、羽の無い者も一人混じっていた。 勝てるかも。 正直に言おう、最初に思ったのはそんな思いだった。 このまま貫通を撃ち続けようと、そう悩んだ。 そして・・・。 結局、そのGタルタロスを倒したのは後から来たハイオンアプルの二次羽ナイトだった。 リズはあのPTのエルフに断ってAGを上掛け、応援にまわったのだ。 そのエルフはサポに徹するつもりだったのだろう。 弓を持ってきていなかったので、急いで弓も貸した。 セト止めの自分にも持てる弓なんて知れている。 値段も火力も。 どうせ、露店で買った程度の安物だったし。 それでも、実際に攻撃に参加しているという意識はとても大きい。 攻撃職が知ることはないだろうけれど、援護職が時に味わう“間”やジレンマ。 充実していると思いながらも時おり感じてしまう空白や、思い。 どんな安物の弓でも、どんな火力でも・・・それを埋めることが出来る。 そう思って取引窓を送った。 有無を言わせず矢も持たせた。 「ヒールだけは頑張ってねw」 PTゲージが見えないから。 リーダーだろう、それに気づいたナイトがG攻撃を離れ、こちらにPT要請を送りに近づいてきてくれた。 それは嬉しかった。 でも。 (攻撃しないと・・・取られちゃう!) 何度も味わってきた心配。 黄金狩りの常連たちがやってきてからは一瞬だった。 自分や、さっきのPTが見ている前で砕け散る黄金の魔物。 それをなす術も無く見ながら、 「しょうが、ないよね・・・」 呟く。言い聞かせるように。 本当にあっという間。 ・・・自分たちが馬鹿馬鹿しく思えるくらい。 駄目だ。 そう思っちゃ、駄目。 それは、自分で自分の価値を決めてしまうこと。 リズは思い出す。 あのまだまだ未熟なPTの面々が、笑って感想を言い合い、悔しがり、リベンジを誓う様子を。 少し気分があたたかくなった気がした。 ほんのちょっぴりだけれど。 「@リズ?」 ギルチャ。 「@え、あ、ごめん。なに?」 ギルメンのロザラムからだった。 「@どうだった?」 黄金、狩れた? リズは乾いた笑いで返事をした。 「@ううん、ダメだった。・・・ロジーは?」 「@タイタンげっつb」 その瞬間に感じるこの気持ちをなんと呼べば良いのだろう? いまだ名づけられざる醜い感情。 嫉妬? 違う。 仲間に? 違うったら。 こんなとき、彼女は自分を嫌悪する。 「@おめでと^^」 そう祝いながら。 少し暗くなる自分を感じ・・・その理由を考えて、また気分が沈んだ。 〜2〜 「わたし、イベントが終わるまで休眠しようかな」 そう呟いたのは無意識だった。 でも、口に出してから気づいた。 自分の本音だと。 「え・・・なんで?」 隣りにいたマギーが聞き返す。 マーガレット、彼女も同じ“イングランド”ギルメンのエルフ。 どちらかといえば力よりなバラエル。 「だって・・・」 どうせ黄金軍団が現れたって狩れやしない。 それに日本のMUはただでさえ夜間は異常な回数のCCで通常PT狩りが困難なのに、この上に黄金軍団のたびにPT離脱や解散。 これじゃ自分なんている場所が無い、と。 言えなかった。 口に出した途端、気分が軽くなるのは分かっていた。 でも、それはとても後ろ向きな軽さだとも分かってる。 まるで自分を軽く嘲笑うようにして得られる・・・慰め? そんなもの。 そう忌避する反面、それで今までMUを続けてこられたとも思う。 日本のMUは夜間CCを他国に合わせて減らすつもりはないらしい。 それはもう諦めだった。 けれど、黄金軍団イベントは終わりがある。 リズは傍らの友人の顔を見ながら、どう言えばいいだろうと逡巡した。 この思いを、どうやわらかく言葉に包むことが出来るだろう? 差し出す自分の手をも傷つけてしまうような尖った破片は、きっとこの優しい友の心も傷つけてしまうだろうから。 そんなリズを見ながら、マギーも気づいていた。 なぜならそれは・・・多かれ少なかれ、多くの者たちも感じていることだったから。 そして、今までずっと多くのときを一緒に過ごしてきた仲間だから。 〜3〜 二日後、リズは携帯に入ったメールを見て首をかしげた。 マギーからだった。 内容を見、また首をかしげる。 リズはこの二日、MUにINしていなかった。 そんな彼女に届いたメールには次のように書かれていた。 カモォ━━━━щ(゚Д゚щ)━━━━ン!!!! リズは少し迷い、この熱烈なラブコールに (ノω`*)ノ"イイヨォ 返事はすぐに返ってきた。 エエカラ( ~゚д゚)コイヤ!! そして、遅れてさらにメッセージが。 「いいから来なさい。きっと良いことがあるから」 当然わく疑問。 「良いこと?」 「今は半信半疑でいい。そのときになったら思い出すわよ。わたしが預言者だったのか、って」 彼女の優しさだとは分かっている。 誘ってくれる気遣いだと。 こんなとき、感じる思いは主に二つのどちらか。 胸の奥が少しあたたかくなり、心が少し動き出す場合。 そして、感謝しながらも疎ましく気分が重くなってしまう場合。 このときのことを思い返すたび、リズはこう思うのだ。 今回が前者だったのは、そう・・・きっと神さまの贈り物。 〜4〜 「おー、来た来た^^」 ロレンシアの焚き火、いつもの溜まり場に行くとギルメンたちが既に集まっていた。 「遅くね?w」 いきなりな出迎えを言ってくれたのはスタンレーだ。 「スタン・・・これでも急いで来たの!」 「迷った?w」 からかうようにラヴェル。 「ラヴまで・・・迷うわけないでしょ、いくらわたしでも」 呆れるリズ。 けれど、 「(;¬_¬)アヤシイ」 「・・・マギー」 この信頼で結ばれた友人を睨みつけてやる。 「あはは♪ さぁさぁ、じゃれあいはそこまで!」 ギルド“イングランド”のサブマス、エドワードが手を叩いて注目を集めた。 一人一人の顔を見渡し、 「それでは、これからイベントを始めます」 「イベント?」 いきなり呼び出されたリズが問い返す。 「そそ」 「聞いてないw」 「言ってないもんw」 にやにやしながらの返事が返ってくる。 「っつーか、リズここんとこ来てなかったしw」 ヘンリーが言う。 確かにその通りだ。 「オーケイ、いいわよ。ギルマスに内緒でギルドイベント」 「すねるなよ、リズw」 「そうそう。主役がそれじゃ思いやられるぜ」 それを聞き、リズが思わず聞き返した。 「は?」 主役? 「やれやれ。みんな、なんで僕の説明の前に次々言っちゃうかなぁ」 苦笑しているのはサブマスのエドワードだ。 「お前がだな、ちゃちゃっと言わんからだろう」 「それはないでしょう、松風さん」 それこそ拗ねたようにエドワード。 このサブマスにきついツッコミを入れたのは“イングランド”で三人いるDLの一人で、先代のギルドマスター。 今は隠居とか称してリズにギルマスを譲り、馬に乗って各地を放浪している。 ちなみに、松風というのは彼の馬の名前である。 いつのまにか誰も本人の名前で呼ばなくなってしまったのだが、本人含め誰も気にしていない。 「えぇっと・・・ちゃんと発表するから、みんな僕の言うことを聞くように」 咳払いをして、エドワード。 「あいw」 そして、彼はイベント名を発表した。 「名付けて、“我らがエリザベスVS黄金巨人”イベント!!」 「え」 「ダサイw」 「うるさいw」 「黄金巨人て」 「いいじゃん、別に」 「げ、さてはお前のネーミングか」 「なによ、文句ある?」 どうでもいいことに騒ぎ出すギルメンたちと、ようやく状況を把握し始めたリズを前に、エドワードが説明を始めた。 「ま、簡単に言うとね? リズが黄金軍団を倒すのをさ、みんなで協力しようってイベント」 おわかり? 〜5〜 「みんな・・・ありがと・・・」 と、リズは本心から言おうとしたのだが。 「よっしゃ、俺らは一番奥のポイントに張り込むな」 「待て待て。まずどの黄金を狙うんよ?」 「そりゃ決まってるだろ。Gタルタロしかない!」 「だなw」 「いあ、待て待て。Gタルは常連が厳しい・・・Gリザのほうが良くないか?」 「ふむ、じゃ並行してってことで」 「あいb」 「あ、金は発見したら包囲?」 「んー、独占はまずいからなぁ・・・オープンチャットで応援かな」 「威嚇?w」 「そうとも言うw」 「“EEの意地見せろー”とか、火力職じゃないことをアピールな」 「うんうん。パッと見じゃ分からないけど、気づいたら譲ってくれる人もいるしね」 「ま、横されてもイベだから仕方なし。祈ろうや」 「だの。善意に期待w」 「あ、それじゃ俺とヘンリーで組むわ」 「そういやプルは?」 「来てない。ってか、この企画にはきついべ」 みんな勝手に盛り上がり、誰もリズの発言など聞いていない。 「・・・」 感動の空回り? なんとなく取り残されたような気分になるリズ。 主役なのに! ちなみに、プルというのは“イングランド”DL三人の内一人で、プランタジネットの通称だ。 世にも珍しい裸DLで統率特化、基本的に鷹攻撃オンリーで育てている酔狂なキャラ。 ギルメンたちからは“ファンネル使い”などと愛されている彼女だが、裸装備だけに防御面に激しく脆いものがある。 今回の企画のような場合、取り巻きにやられる可能性があまりにも大きい。 「組み分けも決まりつつあるみたいだし、それじゃ発見したらギルチャってことで。いいかな?」 エドワードの締めに、ギルメンたちの雄叫びが応えた。 「・・・松っちゃんは行かないんすか?」 「松っちゃん、言うな! わしはダウンタウンのハゲかっ」 焚き火から動こうとしない松風に声をかけたギルメンに、彼が馬に乗ったままで怒鳴る。 「いいか、バッキー」 バッキンガム、通称バッキーに諭すように松風が言う。 「わしは先代のギルマス、いわば“親”のようなものだ」 「はぁ・・・まぁ、そうっすねー」 「“親”という字はなんと書く?」 「は?」 戸惑うバッキーに構わず、陶酔したように松風は語り続ける。 「“親”という字は、“木”の上に“立”って“見”ると書く」 「あ、それ『花の慶次』で・・・ぐわっ」 加減無しのFBの一撃で黙らせる。 「よいか、どこに子供の喧嘩に木から下りていく親がおるっ!!」 「い、いや、別に喧嘩じゃないし・・・ぐおぅっ」 今度はFS。 容赦が無い。 「わしはここで見ておる」 「見えないじゃないっすか・・・ぐほぉっ」 シャイニングセプターで直接殴られた。 なにげに一番痛い気がしてしまう。 「わしはここで聞いておる。さぁ、ゆけ!!」 それでも“見る”を“聞く”に直し、宣言する松風。 ギルチャを聞くのは分かるけど、“見”るじゃない以上、既に“親”という字は関係ないんじゃ・・・ とバッキーは思ったが、さすがに口には出さなかった。 これを学習という。 ただ、海に向かいながらバッキーは呟いた。 「行かないんなら、なんのために馬に乗ってきてたんだ・・・あの人」 〜6〜 「@リッチー。そろそろ時間だぞ、リッチー?」 「@待て。まだ準備中だ」 「@あ、そういやお前・・・装備、レンタルしたままじゃないのか?」 ギルメンの問いにリチャード、愛称リッチーは不敵に笑いながら答えた。 「@ふっふっふ。馬さえあれば行けるっ」 「@お前、馬持ってねーだろ」 冷静なツッコミ。 だが、ギルド“イングランド”DL最後の一人は怯まなかった。 「@俺はこんなこともあろうかと、うまたまを買い込んでおいたのだ!!」 DLの馬ダークホースを生成するアイテム、馬の魂。 略して、うまたま。 「@いくつよ?」 「@聞いて驚けっ、なんと四つだ!!」 「@おぉ、すげー」 「@マジかw」 「@買いすぎだろw」 「@余ったら売って大もうけよ、うはははは」 と高笑いしつつも。 リッチー、なにげに合成に自信が無いらしいのか、 「@これだけあればさすがに一つは成功するだろう」 「@今売るほど余るっつったじゃねーか」 「@もし二つ以上も成功したらだ!」 「@もしって・・・そこまで弱気なんか;;」 リッチーは吼えた。 「@ええい、うるさいっ。合成してすぐに追いつくから、首を洗って待っとけ!!」 「@首を洗って、って・・・」 お前は何をしに行くつもりだ。 一方、こちらはアトランスで。 「そろそろ、だな」 ヘンリーが呟く。 「うし。合図と同時に移動を始めるぞ・・・リズも用意はいいか?」 バッキーの問いに頷く。 結局、海には二部隊で張り込んでいる。 海2の手前から海3の左下にかけてをスタンとロジーが。 海3からヒドラ部屋にかけてにヘンリー、バッキー、そしてリズ。 タルカン砂漠のほうにはエドワード&マギー組と、ラヴェル&プルの元メイン、それに追いつけばリッチー。 木の上に立って見ているという松風と、レベルの低い数人を除いて配置は終了した。 「@0! 各自、移動開始っ」 エドワードの号令と共に、各チームが索敵を開始した。 「よし、行くぞ」 ヘンリーが先陣を切り、深海へと進む。 “我らがエリザベスVS黄金巨人”イベント(命名:マギーさん)は開始された。 〜7〜 「いないな・・・」 呟くエドワード。 「そうね。こっちじゃなかったのかも・・・」 マギーを相槌を打つのが早いか、 「@わりぃ、Gタル見つけたけど先越されたorz」 とギルチャが入る。 さすがに黄金狩り常連のチェックは厳しい。 「やっぱり、本命は海ね」 エドワードは頷き、励ますように言った。 「うん、それにまだまだ次もあるんだしね」 いけるよ。 一方、そのころノリアで。 「うおぉぉぉ、何故だぁっ」 リッチーが号泣していた。 カオス合成に失敗しました。 カオス合成に失敗しました。 カオス合成に失敗しました。 カオス合成に失敗しました。 リチャードの咆哮がノリアに響く。 「馬をくれ! 馬を! かわりに王国をっ・・・!!」 ところかわり、アトランス。 「悪には悪の報いが、罪には罪の報いが」 では、善には善の報いがあるのだろうか? バッキンガムの呟きを耳にし、 「ん、どうした?」 ヘンリーが問う。 「いや、なんか・・・リッチーの泣き声が聞こえた気がしてな」 「・・・ま、あいつ善行を積んではなさそうだしな」 そんなことを言い合う二人の横で、 「やっぱ、無理かな・・・だよね」 とリズが呟いた。 直後、がしっと両肩を掴まれる。 「勇気を出せっ、望みを失うな!」 励ますバッキー。 そんな二人に、 「走りながら言え!」 ヘンリーが冷静なツッコミを入れる。 「おぉぅ。すまんすまん」 慌てて移動を再開するバッキー。 と、後ろを振り向いて注意したのが悪かったらしい。 「ちぃっ」 ヘンリーがリザードキングの電撃に捕まった。 リザキンの電撃には引き摺りの効果がある。 思うように進めない。 「@こちら、ロジー&スタン組。こっちにはいない。金リザはそっちだと思われる。どーぞ」 ギルチャが入る。 「くっ・・・俺のことは構うな! 先に行けっ」 リザキンの稲妻に翻弄されながらも、熱いセリフを放つヘンリー。 「でも」 逡巡するリズの横から、バッキーが飛び出しながら叫ぶ。 「あぁ、そうさせてもらうぜ。だが、進む先はそいつの方向だがなっ!!」 リザキンに突っ込んでいく。 くぅ。 熱いぜ、バッキー。 ヘンリーに攻撃を集中していたリザキンに横からコンボを叩き込む。 と。 「うおぉぉっ!?」 が、突っ込みすぎたか。 数体のリザキンにタゲられ、バッキーも上下左右に引きずり回される。 こういうとき、ネックにEXを使っているのが裏目に出る。 それを見、ヘンリーが 「リズは先に行けっ、この先に金リザがいるはずだ!」 そして、自分は電撃に翻弄される仲間のほうに突っ込んでいく。 「馬鹿野郎! お前、なんで・・・」 そう怒鳴りつけるバッキーに、ヘンリーはにやりと笑って答えた。 「ふっ、俺にもお前の馬鹿が伝染ったのさ」 「・・・」 お前ら、極上だぜ。 〜8〜 「@@感動したっ!!」 突然、ギルチャに最大音量で声が響く。 「@ま、松風さんっ!?」 木の上に立ってみていると言ったのではなかったのか? いや、それ以前に連合を組んでいないのに連合チャットにする意味は!? そんなささやかな疑問を歯牙にもかけず、松風の連合チャットが響く。 「@@みんな、ヘンリーとバッキーの最期は聞いたな」 勝手に殺すな。 まだ死んではいない、はずだ。 「@@あいつらは、馬鹿だ」 断言する。 「@松風さん、それは・・・あんまりじゃw」 「@@だが、それがいい!!」 聞いていない。 「@@これこそ友情ではござらんか!」 誰に言っているのか。 「@@まったくの阿呆だっ。だが、それがいい!!」 完全に自分の世界に入っている。 と、我に返ったのか 「@@リズっ、座標は?」 「@え? あ、えぇっと・・・」 リズは自分の座標を告げる。 「@@よしっ、そこから右の壁沿いに下りて来い! ヒドラ部屋に続く曲がり角に金リザはいるっ!!」 断言。 「@このおっさんは・・・なんで分かるんすか」 ギルメンのツッコミに、 「@今、マギーの友人と一緒でな。わしの目の前に金リザがおるからだ」 「@マギーの?」 状況を聞くと、どうやらマギーは自分の知り合いにも情報協力を頼んでいたらしい。 今はクラレンスというナイトが、松風と共にゴールドリザードキングを捕獲状態にしてあるという。 「@・・・松っちゃん、来てくれたんですね!」 エドワードの喜びに「@松っちゃん、言うな!!」と叫び返す松風さん。 「@いいか、“親”という字は・・・」 「@いや、もうそれ聞いた」 などというツッコミに怯む松風ではない。 「@@だが、わしは親か?」 「@は?」 「@@違うっ。いいか、わしはお前らの友だ!!」 一時間前、“わしは先代のギルマス、いわば“親”のようなものだ”と言っていた本人がのたまう。 彼は過去を振り返らない男だった。 「@@友なれば・・・」 松風は頭の血管が切れるような興奮状態で叫んだ。 「@@わしはお前たちと同じ大地で槍を振るおうぞっ!!」 同時刻。 マギーにササが入った。 クラレンスだ。 「マギーっ、きみのボスを止めてくれ! アースクェイクが金リザにまで当たってる!!」 〜9〜 「・・・ありえない」 リズは・・・迷っていた。 時間が無い。 それなのに。 このまま時間切れで逃してしまったら、ギルメンのみんなにどう言えばいいのか。 だが、迷子の現実は変わらない。 (左沿いに移動したのにっ・・・) だが、松風の指示は左ではなく右だ。 方向音痴も重度になると左右も咄嗟に見失うものらしい。 「リズさん!!」 「え?」 聞き覚えのある声。 「・・・リッチモンド!? あなた、どうして」 向こうからやってくるのは羽無しのギルメン。 参加していなかったはずなのに。 「やっぱり迷ってたんですねw」 羽無しのナイトが笑う。 「そんな気がしたから、松風さんにサモンしてもらいました」 後にこの話を聞いたとき、マギーはこう叫んだという。 “なんでリズとPTしとかなかったのよ、あの爺様はっ!!” リズをサモン出来たのに。 全ては“親”という漢字のなせる業か。 「リズさん、こっちです! この先に」 「でもリッチモンド、ここはあなたには・・・」 言いかけた先から、羽なしナイトの足元に氷柱がそそりたった。 シルバーバルキリー。 凍りついた移動では、じきにリザキンらにも捕まってしまうだろう。 慌ててAGをかける。 「ありですw」 少年が笑う。 「さ、早く、行って」 急かす。 先に行けと。 黄金軍団には時間制限がある。 ときに誰からも発見されることのない黄金軍団が出るが、それらは一定時間で消えるのだ。 「でも、あなた」 「大丈夫! Gが、あるから」 平気です。 そう言う羽無しナイト。 でも、それは嘘だ。 細かく途切れ途切れなチャットは赤を飲んでいるからに違いない。 Gでも防ぎきれない被ダメ。 そして、それは同時に火力でも同じ危険を示唆する。 つまり・・・この少年の火力では、Aつきでも魔物を殲滅できないということ。 その前に確実にGが切れ、力尽きるだろう。 「早く!!」 〜10〜 “我らがエリザベスVS黄金巨人”イベント。 これでリズが撃破したのは・・・あのSバルとリザキンだけだった。 リッチモンドと共に駆けつけたときには、既に金リザはいなかった。 そして。 次の黄金軍団の時間は張り込みが空振りに終わり、黄金軍団イベントは終了した。 結局、リズが黄金軍団を倒すことは無かった。 「リズが休まずINしてくれてたら、倒せたかもしれなかったのに」 拗ねたように笑いながら、そんなことをいう友人にリズは笑って答えた。 「ううん、そんなこと」 どうでもいいの。 シェイクスピアの『ヴェニスの商人』にこんな言葉が出てくる。 “輝くもの全てが黄金とは限らない”。 そうかもしれない。 けれど・・・今のリズは知っている。 “黄金が全て、輝いているとは限らない”。 あのリザードキングは輝いていなかったけれど、彼女にとっては黄金だった。 シルバーバルキリーも銀なんかじゃなくて、黄金の価値があった。 そう思う。 だから、リズはギルチャでこう言えた。 「@みんな、ありがとう・・・今回の黄金軍団イベント、最高だった」 と。
←↓好印象を持って下さったら、是非♪(小説タイトルを記入して頂くと評価:☆に反映されます)