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** 小説 **

やさしい脅迫のしかた、教えます。 --  本編後書きコメント

   やさしい脅迫のしかた、教えます。


〜前編〜


「つまり・・・“脅迫行為”、ないし“ストーカー行為”における調査依頼ということですね?」
GM風が確認する。
「・・・はい。そうです」
そう答えたのはパルテナ装備のエルフだった。
彼女の前には風、暁、寧、禅の四人のゲームマスターがいる。
ここは帝国の中央にある舘の執務室であり、主にミュティズンからの対応を受けつける際に使われている部屋である。
そして、今日パルテナエルフが来たのは、彼女の所属するギルドに関係した事件のためだった。
「順番に質問していきますので、説明を兼ねて答えて頂けますか?」
「はい」
「では、その・・・ママンガーさん」
彼女の名前を口にするゲームマスターからは明らかに躊躇いが感じられた。
「あの・・・変な名前ですみません、このキャラはセカンドだから変な名前で」
「あ、いや」
「ファーストキャラの名前がモモンガーだったから」
なかなかユニークなセンスの持ち主らしい。
「これは好奇心から聞くのですが・・・他のキャラの名前はムムンガーやメメンガー?」
「あ、はい」
かすかに赤面しながら頷くパルテナエルフ。
「なるほど」
GMは納得したように言った後、何か付け加える必要性を感じたのだろう、
「・・・良い名前ですね」
と取って付けたように言った。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、どう致しまして」
どこかずれた感のある会話をしている二人に、中央にいたGM風が声をかけた。
「そろそろ本題に入ったほうがいいのじゃないかしら?」
「あ。あぁ、そうですね。では・・・」
やはり言いにくそうに口篭もるGM寧。
「あの・・・呼びにくければ“ママさん”でも」
「ママさん、ですか?」
「はい、ギルメンはそう呼んでますし・・・」
ママンガーの略でママさん。
確かに、彼女はギルメンからは愛情を込めて“ママさん”と呼ばれている。
それは彼女がサブマスターとして信頼されている証でもあった。
文字通り、彼女はギルド“Alice”の母親のような存在なのだ。
彼女自身はそれを少しくすぐったいような気持ちと共に、ささやかな誇りに思ってもいる。
そう、彼女にとってギルドというのは一際特別な存在だった。
もしギルドがなければ・・・彼女はこの世界から、とうにいなくなっていたに違いない。
だが、そんな彼女が今日“一文字の御使い”たちの執務室を訪ねたのも、そのギルドが理由だった。
慎ましやかなMUライフであったが、それでも楽しい日々を送っていた。
それなのに・・・
「あなたのギルドが脅迫を受けている、と?」
暗い気持ちになりかかっていたパルテナエルフは、GMの声で我に返る。
「・・・はい」
「具体的にはどういったことが?」
彼女は深いな記憶を思い返しながら、口を開いた。
「最初は何でもないことだったんです・・・ギルド集会の場所と時間が誤って伝わっていたりとか」
「ふむ。しかし、それは単なる伝達ミスなのではありませんか?」
「ええ、わたしたちもそう思ってました。誰かがうっかり間違ってしまったんだろう、って」
「そう考えるのがもっともだと思いますが」
「でも・・・」
「それだけでは終わらなかった?」
「はい」
彼女は説明を始めた。
根拠の無い疑いだと、気のせいだと思ったのだ。
ほんの小さな情報の行き違い。
身に憶えの無い周囲の噂、評判。
そこまでは、それなりに納得も出来た。
かなしいことだが・・・ギルド“Alice”の評判はあまり良くはない。
その原因はひとえにギルドマスター個人にあったが。
彼はいわゆる迷惑プレイヤーではなかったかもしれないが、自分勝手な悪癖があった。
決定を自分の中で勝手に下してしまい、それをそのまま行動してしまうのである。
ギルメンの加入はともかく、脱退や追放、果てはギルド解散。
知り合って一年ほどになるが、その間に片手では足りない回数のギルド解散と結成を繰り返していた。
しかも、ギルメンには無断で。
「インディさんというのが、あなたのギルドのギルマス?」
「はい。インディペンデンスというナイトです」
それを聞いて、GM禅が肩をすくめながら呟く。
「インディペンデンス・・・“独立”か。どっちかというと“孤立”って感もあるが」
「禅くん・・・誰が上手く言えって言ったのよ」
GM暁が呆れたようにつっこみを入れるが、そう言いながらも苦笑している風なのはご愛嬌か。
それを見ながら、パルテナエルフは独りごちる。
(否定は・・・できないわよね)
密かな溜め息。
身勝手で衝動的なギルマスの行動が反感を買うのは至極当然のことだった。
何も知らずにギルドが消えているのだから、当然ギルメンたちは当惑する。
中には激怒する者もいたが、これも当然のことだと思う。
彼女はそのたびに元ギルメンに謝り、出来る限りギルド存続に心を砕いた。
そのたびに磨り減っていくのは彼女自身だった。
連絡の取れなくなった元ギルメンたちの間を飛び回り、説明し、頭を下げ・・・
何度か鬱のような心境にもなった。
つらくないはずがない。
けれど、それでも守りたい思い出がギルドにはたくさんあった。
名前は変わっても、改変のたびに愛想を尽かしてギルメンが減っていっても・・・それは変わらなかった。
思い出は不変だ。
思い入れは消えない。
だが、それは善いものだったのか、彼女を縛る呪いだったのか。
彼女はギルドを守るため、どんどん自分を酷使していった。
いつしか、精神的にも体力的にもぼろぼろの状態にも慣れたようにさえ感じた。
「酷いですね・・・いっそ、あなたがギルドを作れば良かったのではありませんか?」
言って良いものか戸惑いつつも、GMが問いを投げかける。
「いえ、わたしはそんな器じゃありませんし、それに・・・インディも悪い人間じゃないんです」
「だが、良い人間でもない」
いつになく冷たい言葉を投げつけたのはGM禅だった。
無理からぬことだったが、かなり不愉快な気分になっているらしい。
沈黙の空気が部屋に流れる。
「ふぅ・・・本題に戻りましょうか。そんなギルマスのギルドだから、悪評や多少のデマは納得できると?」
「ええ、そう考えました」
少し答えにくそうにパルテナエルフ。
事実、彼女とてインディを恨まないではなかったのだ。
当然だろう。
彼は大切な思い出の結晶であるギルドの中核であると共に、その破壊者でもあったのだから。
ギルマスである彼がいないとギルドは成立しない。
だが、その彼がギルドを気まぐれに破壊してしまう。
再生のたびに注意はするが、懲りずに彼は繰り返すのだ。
だが、そんな彼を憎むことを彼女は自分に許さなかった。
それはとても哀しいことだ。
と同時に苦しいことでもあった。
彼女にとってのギルドは、良くも悪くもこのギルマスを含めてのものだったから。
結果、彼女のストレスは自身の内面に向かい・・・時には自己嫌悪を覚えることもあった。
ギルマスを恨む自分は嫌い。
ギルドのために傷つく、そんな自分も嫌い。
いや、それは構わない。
大切なギルドを守るためだもの・・・嫌いなわけ、ない。
本当に?
・・・分からない。
たかがゲームのことと他人には言われるだろう。
けれど、彼女にとっては大切なものだった。
彼女が愛したのはギルドという交流であり、それはキャラクターの奥にいるのが人間だからこそのものだ。
電子記号の思い出ではない。
正しいのかどうか分からないが・・・人間同士で共有した時間、そう彼女は感じている。
と、パルテナエルフの脳裏に二人の少年の姿が浮かんだ。
最近入ったばかりの新人ギルメンで、二人は彼女にとって大切な存在になっていた。
彼女のことをママと呼ぶ二人は、彼女にとって正に子供のようなもの。
MMOのビギナーで、無知であるがゆえの純真さと、楽しむということを知っている二人。
子供は遊ぶ天才、そう言ったのは誰だったろう?
楽しむということは、それ自体が才能なのだ。
違うと思うならば周囲を見回してみるがいい。
真に、本当の意味で心から“楽しんで”いる者がどれほどいるだろうか。
同じ字でも“楽しむ”と“楽をする”は全く違う。
楽しむということのなんと難しいことか。
いや、かつては簡単な・・・呼吸するように自然なことであったはずなのに。
だが、あの二人はこの世界を心から“楽しんで”いた。
見ていてそれが分かる。
それはとても幸せなことだと彼女は思う。
それによって、どれほど自分が救われていることか。
そう、彼ら二人がいるから、自分は今もこの世界にいられるのだ。
「ふむ。とても良い子なのでしょうね、二人は」
「ええ、それはもう!」
思わず彼女は力説してしまう。
T・ダムと、TD。
二人は彼女によく懐いているし、彼女のほうも二人をとても大切に思っている。
愛されていると感じることは、とても幸せなことであり・・・そして、それが“必要なこと”でもあることを、彼女は学ばされた。
その上、二人は変に汚れていない真っ直ぐな心を持っている。
先日も二人が彼女に荷物を預かってくれないかと頼みに来たことがあった。
何でも、倉庫キャラを作りたいのだと言う。
それで、狩りをするために持ち物欄を空けたいから預かって欲しいと言ってきたのだ。
二人は自分たちで拾った防具に愛着があるらしく、OPや幸運のついた物はほとんど全て取ってあるらしい。
それを笑い飛ばしたり、あるいは売れる物だけ教えることは簡単だ。
だが、そんな二人の行動はとても愛おしく思えた。
だから、今はまだそのままでいいと思って見守っている。
アイテムを預かった時も、彼女は倉庫IDの取り方を教えるか迷った。
彼女自身はタイムチケットで倉庫IDを持っている。
が、勝手な言いぐさだが・・・なんとなく、それを情緒に欠けると感じている自分があった。
二人は倉庫IDという概念を知らない。
もちろん、知っていれば彼女に頼まず、自分たちで倉庫IDにアイテムを押しこんだことだろう。
雑多で、無価値で・・・大切な品々を。
結局、彼女は大量のアイテムを預かりながら、倉庫IDのことは黙っていることにした。
少しの罪悪感を感じたが、頼られていると感じることは彼女にとってとても甘美なものでもあったから。
そして、今の自分にはそれは必要なことでもあった。
疲れきった自分を癒してくれるもの。
傷つき、疲弊した心の支え。
かわりに、彼女は外サポを申し出た。
露店が可能になるLv6まで、彼女がAGをかければあっという間だ。
パルテナ装備で極エナではないが、二次羽EEは伊達じゃない。
だが、それを二人は慌てて断った。
自分たちでLvを上げたいからと。
後日に同じ頼みをしてきたが、そのときも同じだった。
多少、不自然だと思うほど慌てた様子で答える二人に、彼女は素直に感動を覚えた。
この世界でエルフは加護の魔法を使う。
それはとても重要なものであり、ありがたいものだったが・・・であるがゆえに、その味を覚えることは諸刃でもあった。
慣れてしまうということ。
それは一種の堕落なのだろうか・・・
熟練したものほど、外サポを当然のように要求する傾向がある。
確かに楽だ。
ここにも“楽しい”と“楽な”の違いがある。
この世界に蔓延した病なのだろうか・・・人は喜びを知り、それに犯される。
それが人間のサガなのか。
かなり長い時をこの世界で過ごした彼女にとって、外サポを断る二人の返事はとても好ましく思えたのだった。
二人を送り出すときの、胸の奥が少しだけ温かく感じる感覚。
それは、他のギルメンたちをCCに送り出すときには感じられないものだった。
「なるほど。二人はあなたにとって本当に大切な存在なのですね」
そう言うGM寧の言葉も自然と柔らかい響きを持つ。
「そして、わたしたちにとっても大切な存在だわ」
この世界にとって。
そう付け加えたのはGM風だ。
その言葉をパルテナエルフは自分のことのように誇らしく思う。
だが、そんな気持ちを味わっていられるのもわずかな時間だけだった。
すぐに話題は不愉快な部分へとさしかかる。
「・・・脅迫状が来たんです」
「それはメールで、ということですね?」
「はい」
最初に受け取ったのはTDだった。
気味が悪いメールが来たと。
だが、それを聞いていたギルマスは笑い飛ばした。
彼にとっては、その程度のことはままあることだったから。
そして、惜しむらくは彼がそれから何も学べなかったことだろう。
ともあれ、その場はそれで流れた。
が、脅迫メールの犠牲者はTD一人では終わらなかった。
彼女には来なかったが、T・ダムや、他のギルメンの何人かにも届いたのだ。
ギルド会議の話題になったが、例によってギルマスは深刻には受け取らなかった。
そしてこれも例のことながら、頼りにされるのはサブマスである彼女なのだった。
だが、幸か不幸か、彼女自身は脅迫メールを受け取っていないのだ。
結局、TDとT・ダムのIDにアクセスして自分の目で確認することになった。
もちろん、厳密には共通アカウント使用ということで罰則の対象となってしまう行為だ。
この部分だけ、彼女は二人の操作する後ろから画面を見たのだと嘘をついてGMに報告した。
リアルの友人だと言えば、それを疑う理由はないはずだから。
そんなことより、もっと罰せられるべきは犯人のはずだ。
より大きな悪がいれば、小さい悪が許されるというわけではないけれども。
こんな事情でなければ二人の、メイン以外はナイトばかりがLv1で並んでいるキャラ選択画面を見て可笑しさを覚えたことだろう。
よっぽどナイトが好きなんだなと、少し呆れながら微笑ましく思ったかもしれない。
けれど、そんな状況ではなかった。
ログインし、メールボックスを開く。
そこにあったのは紛れもない脅迫メールだった。
捨てアカウントからのメールなのだろう、いかにも使い捨てのキャラからのメールだった。
「内容は憶えていますか?」
「はい」
少し堅い声で答え、その内容をGMたちに報告する。
「ふむ・・・確かに、脅迫メールのようですね」
そんなGMの呟きに、少しだけ腹立たしさを覚えた。
当たり前じゃない、と。
だからこそ、自分はここまでやって来たのだから。
そんな彼女の心情を察したのか、
「ショックだったでしょうね・・・お察しします」
と声をかけられる。
確かにショックだった。
脅迫メールを受け取ったと聞いていたが、実際に目にすると鳥肌が立つような感覚に襲われたのだ。
これが実感というものだろうか。
彼女の落ち込みを見て、TDとT・ダムの二人などは大いにうろたえ、なんとか彼女を慰めようとしたものだ。
そのときの二人の優しさと、そんな二人のいるギルドへの攻撃に感じた理不尽な思いをGMたちに告げる。
沈黙の後、GM風が問うた。
「その脅迫メールはそれからも続いたのですか?」
「いえ・・・幸い、それ以来はやんでくれてます」
それに頷くことで答えるGM風。
その仕草を見て、急に不安に駆られた。
「で、でもっ・・・これは立派な迷惑行為で、ハラスメントポリシーにも抵触すると思います」
力を込めて訴える。
今やんでいるからといって、これからも起こらないことだという保証は無い。
いや、それ以前に行われた脅迫という罪は無かったことにはならないはずだ。
当然、罰してもらわなければ。
そのために、彼女はここに来たのだから。
GMたちが囁きで何事か相談し、彼女に告げた。
「お呼びするまで、別室でお待ち頂けますか?」

「暁、しばらく留守にしてもいいかしら? それと禅くんには届けて欲しい頼みごとがあるんだけど・・・」
パルテナエルフが退出した後、GM風がそう言った。
それを聞くなり、愛車にまたがって走り出そうするGM禅。
「あ、禅くん?」
「はい?」
「・・・行くのは用件を言ってからね」
「・・・了解」
さすが体育会系というべきか、行動力はあるのだが・・・ときに慌てすぎるのが彼の難点だ。
GM暁のほうがGM風に訪ねた。
「留守にするのは構わないですけど・・・どちらに行かれるんですか?」
この場の最上位である古参GMは静かに答える。
「古い友人に頼みごとをしに、ね」



〜後編〜


数日後、件のパルテナエルフは憤慨しながら帝都へと続く山道を歩いていた。
あの日、再び彼女を部屋に呼び出したGMはこう言った。
「手続きがありますので、今から言う書類を整えてから、また来て頂けますか」
彼女は怒りを通り越して、唖然としてしまったものだ。
「申し訳ありませんが、我々が力を行使するには手続きが必要なのです」
こうも言った。
「一度書類が提出されれば、その申し立てを取り下げることは出来ません」
だから慎重に熟考の上、不備の無いように記入して下さいと。
彼女は怒るべきなのか、泣き出すべきなのかさえ分からなかったものだ。
書類提出後は申し立てを取り下げられない?
上等だ。
取り下げるくらいなら、始めから遥々と帝都の執務室まで出向くものか。
書類が必要?
傷ついた心をお役所仕事で処理されるのは苦痛なことだった。
と、書類を強く握り締めすぎていることに気づいて、慌ててクシャクシャになっていないか確かめる。
またつまらない理由で出直せと言われては堪らない。
そんなことを思うと、また怒りが沸いてきた。
思い出し怒りというやつだ。
“一文字の御使い”への悪態をつきながら、また歩き出そうとする。
と、そこで突然身体に衝撃を感じた。
「っ!?」
突き飛ばされはしたものの、ダメージを受けてはいないようだ。
魔物に襲われたのかと振り返る彼女の視線の先には・・・
「・・・ち、ちびギガ?」
そう。
まさに“ちびギガ”だった。
彼女の腰ほどしかない身長のギガンテスが二体、こちらを見ている。
「失礼ナ奴ガー!!」
「ソウダ、チビギガ、ジャナイガー!!」
「プチギガ、ガー!!」
プチギガは良くて、ちびギガはNGらしい。
きっと、彼らなりのこだわりがあるのだろう。
「マ、オオメニミテヤルガー」
大目に見てくれるらしい。
だからといって、特に嬉しくもなかったが。
「あ、あなたたち・・・裏GM!?」
鉄式ガ壱号、ガ弐号。
裏GM鴉の創り出したクリーチャーであるといわれている。
語尾に必ず“ガー”と付けるという、微妙に失敗作の匂いもするクリーチャーではあったが。
(裏GM・・・本当にいたんだ)
実際に目にするのは初めてだった。
裏GMとは陰で暗躍しているという、“一文字の御使い”たちの対極に位置する者たちの総称である。
「フッ、ソノトオリ、ガー!!」
「・・・ちっちゃいのね」
「Σ」
「ユ、ユルセンガー!!」
どうやらコンプレックスがあるらしい。
が、もう一体の相棒がそれを宥める。
「マァ、マツガー。オロカナ、ミュティズンダカラ、シカタナイガ」
決して頭の良さそうにないプチギガに愚かといわれるとは。
「言ってくれるわね」
このチンチクリン鎧。
「フン。キョウハクノ、ハンニンモ、ワカラナイ、アキレルガ」
「マッタクガー!!」
「なっ・・・」
彼女は驚いた。
知っている。
自分が何のために帝都に向かっているのか・・・いや、その口ぶりからは犯人まで?
「あなたたち、なんで知ってるの」
「オレタチ、テンサイ、ガー!!」
「ダカラ、トウゼン、ガー!!」
「・・・犯人も知っているの?」
まさか。
「モチロン、ガー!!」
彼女は考えた。
(・・・捕獲するか)
裏GM絡みとはいえ、目の前のちっこいのは何となく弱そうだ。
生け捕りに出来そうな気がする。
その上で、帝都にまで連れて行けば・・・
「マ、マテ!! オマエ、ヨクナイコト、カンガエテル、ガ?」
「あら、よく分かったわね」
じりじりと間合いを詰める。
「ド、ドウスルキガ!!」
「・・・GMの前で犯人をしゃべってもらうわ」
弓に矢をつがえる。
普段は使わないが、それでも矢は+2物の高級品だ。
「フッ。ショセン、タンサイボウ、ガー!!」
「忠告してあげる。言葉には気をつけたほうがいいわよ」
「・・・マ、マツガ!! ハンニンハ、オマエモ、シッテルハズガ・・・」
「は?」
思わず、つがえた矢を取り落としそうになった。
「わたしも犯人を・・・知ってる?」
「ソ、ソウガー!! アタマガワルクテ、キヅイテナイダケ、ガー!!」
発射。
こすっ。
放たれた矢は間抜けな音を立てて、プチギガの頭部に刺さった。
「オォォォ!?」
「ダ、ダイジョウブカガー!?」
じゅうぶん元気で大丈夫そうなリアクションをしているが。
「忠告を守らないからよ」
「ゴ、ゴメンナサイ、ガ…」
根は素直らしい。
「それより・・・犯人はわたしも知ってる人間なの?」
真っ先に浮かんだのは・・・インディだった。
ギルド“Alice”のギルマスであり、最大のトラブルメーカー。
彼なら何をしてもおかしくはなかった。
でも、理由は?
「インディがなんで・・・」
思わずもれた呟きに、
「ソイツジャ、ナイガー」
「え?」
違う?
「じゃ、じゃあ誰なのよ」
その問いに、器用にも肩をすくめて見せるプチギガ。
「ホントウニ、ワカラナイノカ、ガ?」
「そう言ってるでしょっ!?」
「ヤレヤレ、ガ」
「・・・撃つわよ」
「Σ」
何やら思うところがあったらしく、慌てて説明しだすプチギガ。
「ハンニンノ、ネライハ、ナニガ?」
「狙い?」
・・・そういえば考えなかった。
確かに、犯人は何か目的があってやっていることなのだ。
しばらく考えこんだ後、浮かんだ考えを口に出してみる。
「やっぱり・・・わたしたちのギルドをつぶすためとか」
つぶす!
わたしたちのギルドを?
自分で口に出した瞬間、その考えに恐怖を感じた。
改めて沸きあがる実感。
「ソノトオリガ」
「デハ、ソレハ、ナンノタメガ?」
「なんのためって・・・う、恨みとか?」
自慢にならないが、恨まれる覚えには事欠かない。
全てはギルマス個人のおかげだったが。
「チッ、チッ、チッ」
またもや器用に指を振って見せるプチギガ。
違うと言いたいらしい。
「じゃあ、何のためだっていうのよ」
「ギャク、ガ」
「逆?」
どういうことだ?
恨みの、逆?
戸惑う彼女に、プチギガたちは次々とヒントを出していく。
「デマ、ノ、デンタツ。デキタノハ、ダレガ?」
それは・・・本当に意図的であったなら、ギルメンだ。
「キョウハク、メールハ、ダレニトドイタ、ガ?」
ギルメンたち。
最初に届いたのは・・・
「イチバン、ギルドヲ、コワシタガッタノハ、ダレガ?」
それは・・・
「ギルドガ、ソンザイスルコトデ、イチバン、クルシンデイタノハ、ダレガ?」
・・・
「ヨソウイジョウニ、オマエガ、キズツイタノヲミテ、ヤメテシマッタ、ハンニンハ、ダレガ?」
嗚呼。
彼女は弓を取り落としたことにも気づかなかった。
急激に回転を始めた頭の中。
真実の足音に翻弄され・・・
そうだ。
彼女が鬱になるほど悩み、苦しんでいるのをいつも傍で見ていたのは誰だったか。
その原因がギルドであり、ギルドが無くなれば・・・そう思ってしまった犯人は。
無意識にもれる呟き。
「あの子たちだったのね・・・」
今から思えば、思い当たることはいくつかあったのだ。
持ち物を空にしたいと、そう言ってきた二人。
それは倉庫キャラを作るためと言っていたが・・・本当は、キャラを削除するためだったのだ。
倉庫IDを知っていたら、彼女に知られる危険は犯さなかっただろうに。
外サポを申し出た時、なぜあれほど慌てて断ってきたのか。
脅迫メールを確認しにアクセスしたとき、微かに感じた違和感。
今なら分かる。
そうだ・・・メイン以外は“全てLv1の”ナイトだった。
二人の言葉が本当なら、露店可能な倉庫キャラがいるはずだったのに。
荷物を空にし、削除されたキャラの枠に生まれ・・・そして、すぐに削除されたキャラ。
それこそ、脅迫メールだけ送って削除された“犯人”のキャラクター。
一度目は自分たちの間での自作自演だったが、ギルマスに笑い飛ばされ効果を上げなかった。
だから、もう一度・・・大規模にやることにした。
二度目の荷物預かりはそのためだったのだ。
だが、それによって二人が想像した以上に彼女は傷ついてしまった。
二人が慌てたのも当然だ。
守ろうとした相手を傷つけてしまったのだから。
慌てて犯行をやめた犯人。
それは・・・確かに、恨みと逆の感情による犯行だったことを示している。
と、ここでGM風の言葉が蘇った。
“一度書類が提出されれば、その申し立てを取り下げることは出来ません”
“だから慎重に熟考の上・・・”
(そうだ・・・)
書類は?
“出直さなければ提出してしまい、手遅れになるはずだった”書類・・・
「フッフッフッ、コレハ、イタダイタ、ガー!!」
見ると、プチギガの手にあるのは書類だった。
彼女の大切な二人を、取り返しのつかない目にあわせてしまうかもしれなかった書類。
「オレタチガ、ヒトダスケニ、クルトデモ、オモッタカガー!!」
「それ・・・どうする気?」
「フッ、ニルナリ、ヤクナリ、スキニサセテモラウガー!!」
「それ、GMには・・・」
「バカナコトヲ!! ウラGMノ、オレタチガ、GMニ、ワタスハズナイガ!!」
「ニドト、ヤツラノ、テニハ、ワタランガー!!」
あぁ・・・
「Σ」
思わずプチギガを抱きしめ、その鉄の頬にキスをした。
冷たいはずのその肌は、不思議とあたたかった。
「ありがと」
「・・・」
プチギガの顔がほんのりと上気しているように見えるのは気のせいだろうか。
彼女は立ちあがる。
そして、くるりときびすを返した。
「ドコニ、イクガ?」
「帰るのよ・・・ギルドに」
「コレカラ、ドウスルキ、ガ?」
少し沈黙した後、彼女は微笑んで言った。
「新しくギルドを作るわ」
微笑みは、不思議と力強さを感じさせた。



〜エピローグ〜


「あの馬鹿どもが・・・」
自分にもキスをと無言で催促するクリーチャーの片割れを見て、彼は吐き捨てた。
やはり失敗作だったか。
と、彼の後ろに現れたのは・・・GM風。
「頼みを聞いてくれて助かったわ」
「・・・ふん。別にお前の頼みで動いたわけじゃないさ」
鋼鉄装備を大鎌を背負った男は見向きもせずに答えた。
「お前らに届く書類を奪うのも裏GMらしい。気まぐれにそう思っただけだ」
「あら、そうなの?」
「ニヤリ」
「残念ね。・・・あの娘と同じように感謝しようと思ったのだけど」
同じように?
あのパルテナエルフが我が出来損ないにしたようにか?
「・・・」
「今、動揺したわね」
くすくすと微笑うGM風。
「・・・ニヤリ」
リアクションに困って誤魔化したように見えるその男は、裏GM鴉。
「それじゃ、わたしはもう行くわね」
「あぁ、気をつけてな」
「優しいのね。いつもそうなら、朧とも三人で仲良くできたかもしれないのに」
「・・・あいつの名前は出すな」
肩をすくめるGM風。
次の瞬間、その姿は文字通り風のように掻き消えた。
名残を惜しむように、しばらくその空間を眺めていた後・・・男は手元の昆虫に目をやった。
ギガは失敗作だった。
なら、代わりを創造するのも良かろう。
GM鴉は掌の上の生き物に話し掛けた。
「やぁ、ロレンシア・オオカブト君・・・大密林の王者になってみないかね?」
ぶるりと身体を振るわせる昆虫を見て、
「ニヤリ」





↑昔、公式の学園祭“奇跡祭”で企画採用されたときに、運営チームさんから頂いたSSです♪(*´艸`)






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