短編小説っぽいもの
どこどこ。 --
本編
『どこどこ。』
〜プロローグ〜 彼女は不機嫌だった。 かなり、不機嫌だった。 「・・・あー・・・だー・・・」 意味の分からない言葉がうめくようにもれているが、どうやら悪態らしい。 だが、疲労の色が強すぎて、苦しんでいるようにしか聞こえない。 彼女は不意に立ち止まり、太陽を見上げて「・・・滅びよ!」と睨みつけた後、またぐでぐでと歩き出した。 ソレス渓谷の自宅へ戻る途中である。 暑い。 いや、もはや熱い。 よどんだ空気がもはや固体になりかけているのではないか。 そう疑いたくなるほど不快であった。 重い。 まずカラダが重い。 動作が重い。 となると必然的に心も重くなる。 気が重い。 「帰るの、やめよっかな・・・」 弱音もこぼしたくなる。 ・・・えぇい、あたしゃ家に帰りたくないお父さんかっ。 不機嫌さは増していくばかりだ。 家ageとして最初にオープンしたソレス渓谷はイメージとは違った。 軽井沢の別荘じゃなかった。 ふぁっきん。 ユグは風光明媚らしい。 やっぱり海だ。 海はいい。 そうだ、海へ行こう。 意識は逃避し、つかの間の楽園へと心を運ぶ。 潮風。 蒼く透き通った海面。 どこまでも広がる真っ白なビーチ。 ひゃっほー。 と、腕を振り上げた姿勢で固まり、我に返る。 しばらくそのままで心を無にしていたが、延々とひろがる荒野を前には続かなかった。 あぁ、なんでソレスに家を買ってしまったんだろう。 あと一ヶ月待っていれば。 早まった。 直りかけた機嫌が、また悪くなる。 ぐでぐで、ぐだぐだ、とぼとぼ。 彼女の家が見えた頃には、やぶ睨みといってもいい半眼になっていた。 と、自宅の前に立っているコグが見えた。 男だ。 こぐお。 彼が依頼人で、家の前に立っているのは探偵事務所という看板のせいだろうという推理は、探偵でなくてもできた。 行列のできる探偵事務所、とある。 もし看板に自意識があれば、彼(彼女?)は家主に同情するだろう。 自分の前に行列ができたことは無い。 ともあれ、目の前のこぐおだ。 彼女はその生気の無い背中に声をかける。 「入れば?」 不意に後ろから声をかけられ、驚いた様子で振り返る。 が、目の前の女が誰かは一瞬で理解したらしい。 この世界、ワンクリックで名前やシップくらいは分かる。 なにやらもじもじしながら、 「え? あ・・・いいんですか?」 「なによ、お客さんじゃないの?」 やぶ睨みモードのまま、彼の横を通り抜けて家の扉を開けながら彼女が言う。 「あ、いや・・・はい、その、お客さん、です」 「ならどうぞ」 さっさと自分だけ入っていく。 その背中にこぐおが声をかけた。 「あ、あの!」 完全には振り返らず、上半身だけで「なによ」と言う。 いかにも機嫌が悪そうな態度であった。 少なくとも、客人をもてなす態度ではない。 「えぇっと・・・僕たち、初対面ですよね?」 「あたしたち、前にどこかで会った?」 「いえ」 「なら初対面でしょ! グダグダ言ってないで、入るの!? 入らないの!?」 怒鳴りつける。 「は、入りますっ」 慌てて駆け込み、それでもどうしても気になっている様子で 「あ、あの」おずおずと口を開く。 相手を壁の隅に追いやるほどの眼光で、ぎろっと睨んでやったら「ひぃ」と飛びのきやがった。 ふん、小物め。 彼女が鼻を鳴らす。 そして、来客に配慮する様子も無く、ごそごそと荷物をボックスにしまいこむ。 部屋の隅から蚊の鳴くような声が聞こえた。 「わ、分かってます・・・? 僕、幽霊なんですけど」 〜本編〜 幽霊青年コ・ギュオの依頼はこうだった。 自分の死体を捜して欲しい。 前にログインしたのが昔すぎて、どこで死んだか覚えていないらしい。 「なんで生き返っておかなかったのよ」 声の調子にはっきりと非難の色が出ているが、言っている内容は当然のことであった。 ギュオはどうにも面目ないという風で、 「さぁ・・・忙しかったんじゃないでしょうか」 などと頭を掻きながら言う。 「何かに急いでたとか、電話が鳴ってて・・・とか」 心当たりというより、思いつく可能性を並べている。 だがまぁ、実際はそんなところだろう。 「・・・しょうがないわね」 嘆息しながら彼女が言う。 「アホらしすぎて好みの依頼だわ」 「・・・それ、褒められてるんでしょうか・・・」 そんなわけはあるまい。 「いいわよ、引き受けたげる」 それを聞いて、いかにも居心地が悪そうだった幽霊青年ギュオの表情がぱぁっとなった。 「あ、ありがとうございますっ」 が、 「じゃ、推理しましょ」 「はい?」 あっさりと言われた言葉が理解できず、思わず聞き返す。 「分からないんでしょ、カラダ落ちてるとこ」 「お、落ちてるって・・・」 その言い方は、ちょっとショックだ。 「なによ」 まだまだやぶ睨みの半眼。 ギュオは当然、「いえ」と即答した。 その後、彼女の表情をうかがいながら切り出す。 「あのですね、リカさんは・・・」 「そっちで呼ぶな」 言いながら、ギュオの首を右手でぐわしっとしつつ、「くびるぞ」。 彼女、リカ・タンティアーゴは自分の名前が嫌いであった。 無論、リカの部分だ。 なんだ、この可憐な名前は。 お人形さんか? 名づけたときに時間旅行できるなら、モニタに向かう自分の背中に蹴りを入れる。 せめて、ルカとかなんとか付けようとして誤字ったと信じたい。 「た、たんてい、あご、さん・・・」 つぶれた蛙が喋ろうとしたらこんな感じになるだろう。 そう思われる声でギュオが言った。 いや、うめいた。 殺人未遂の右手を離し、もちろん謝りもせずに「探偵でいいよ」と彼女が言う。 「けほっ・・・た、探偵・・・さん?」 咳き込む幽霊って、どうなんだろうか。 「そ。タンティアーゴの略でタンティ、いっそ探偵のほうが分かりやすい綽名でしょ」 確かに。 だがそうなると、探偵という道を選んだのは綽名のせいかと不安になるが。 ギュオは気を取り直して、 「探偵さんは、ネクロマンサーなのですよね?」 彼女のシップ名はネクロマンサーとなっている。 「そうよ」 見て分かるでしょ、と言わんばかりに頷く。 ギュオが身を乗り出して提案する。 「ここは一つ、死体引き寄せの魔法でですね・・・」 言いかける彼に、あっさりと「問題が二つ」と指二本立てた右手を出す探偵さん。 「はい?」 きょとん、とした風でギュオが聞き返した。 長い耳がぴょこんと立つ。 そんな彼の目の前で、立てた指を一本にして 「一つ目、コープスミーティングの魔法は同エリアでしか使えない」 と説明していく。 「あんたのカラダがどこに落ちてるか分かんないと使えないの」 分かる? といった感じに首を傾ける彼女。 「あ、あのですね・・・大変恐縮で、本当に申し訳ないのですが」 「あ?」 彼女の機嫌は直ってきたようだが、それに関係なくガラが悪い。 元々なのだろう。 そんな彼女を前に、ギュオは怯えているのか少し震えた声で、なぜか赤面しながら 「僕と一緒にあちこちのエリアを旅してですね、総当りで魔法を・・・」 だが、今回も最後まで言い切ることはできなかった。 「二つ目」 目の前に立った指二本。 「はい?」 彼女は「問題の二つ目」と続けて、 「あたしはまだ使えない」 とのたまう。 「はい?」 聞き返すギュオのために、貼り付ける。 「死の魔法 <047.8/090.0>」 スキルを開いて、コピー&ペースト。 死体引き寄せ“コープスミーティング”はスキル値70の魔法である。 「あ。な、なるほど・・・でも僕急がないですから、使えるようになったらでいいので付き合ってもらえませんか?」 懸命に食い下がってくる。 他をあたってもよさそうなものだが。 「いつまでかかるか分かんないわよ」 彼女は他人事のように軽く、「あたし、30辺りからここまで上げるのに一年かかってるし」などと言う。 「・・・それはGTですか」 GT=ゲーム内時間で、 「RTに決まってるでしょ」 RT=リアル時間である。 「・・・なんでそんなに・・・」 ほとんどのスキルは、30から50程度なら一日でもいけそうなものだと思う。 まれに極めて逸脱した例外のスキルはあるが、死の魔法はあきらかにそういうものではない。 「あんた、死の魔法の種類って知ってる?」 「え?」 唐突に予想外の質問をされ、戸惑いながらも正直にギュオが答える。 「いえ、あまり詳しくは・・・死んでも生き返ったり、物理攻撃を跳ね返したりするのでしょう?」 やれやれと言わんばかりのため息をついてみせ、彼女は説明を始めた。 「リボワンやパニなんて最上級もいいとこよ。下のほうはね、そんないいものじゃないのよー」 「は、はぁ」 「相手を病気にしたりとかさ、死体をこっぱみじんにしたりとか」 彼女は心底イヤそうな顔で言う。 「ありえないでしょ」 まぁ、確かに・・・そう言われると、ちょっとどうかと思われる魔法群デスネ。ハイ。 「モラルってものがないわよ、モラルが」 「・・・モラルを説くネクロマンサーって・・・」 「あ? なによ?」 またもや半眼。 「い、いえ」 なんだろう、このハンパない迫力は。 「だいたいさ、あたし嫌いなのよね、死体とかって」 「・・・ネクロマンサーなのに・・・」 思わず彼女をクリックして確認してしまう。 だが、シップ名は間違いなくネクロマンサーだった。 なんだろう、この納得できない感は。 「しょーがないでしょ、最初に条件満たしちゃったんだもん」 彼女の方はといえば、もはや完全に開き直ってる感じの口調だ。 「いっとくけど、イビルナイトの条件も満たしてんのよ。先に満たしたほう優先だからシップになってないけどさ」 この世界、同程度の難易度のシップ条件が重なった場合は、先に条件を満たしたシップとなるのだ。 なので、シップ名が魔法系でもメインは格闘タイプだったり、酔狂のような名人釣り師が戦場の猛者だったりする可能性もなくはない。 のどかな農場主だと思ったら、実はソードダンスを繰り出す剣の達人だったりするのである。 気をつけろ。 隣りでトマトジュースを売ってる豪商は、実は“ラスレオの悪夢”と恐れられる爆発物のエキスパートかもしれない。 うかつに安い値段で価格競争を挑めば、旅人の露店など爆破されるかもしれないのだ。 くれぐれも気を使って商売しろ。 シャンプーの後でお菓子をおまけしてくれる美容師が、実は散髪テロリストのハゲリラ構成メンバーであっても不思議は無い。 いや、他意は決して無いたとえなので、ヘンに勘繰らないようにしてくれたまえよ。諸君たち。 うん。 あ。 今通り過ぎたバニー姿の姉ちゃんだって、実はダイアロスアイドルの看板に隠れたレディースかもしれないのである。 ・・・そう思うと、なんだか妙にリアルに感じたりもするが。 そして、目の前の隠れイビルナイトの彼女といえば 「刀剣とかもう80越えそうだもん、こっちのほうが向いてるんじゃないかしら」 などと自分の進路に悩みのあるお年頃らしい。 先生、あたしぃネクロマンサー志望だったんですけどぉ、イビルナイトに進路志望変えてもいいですかー? 待ちたまえ、リカくん。 今の景気や世の動向を考えると、正直なところ先生はイビルナイトはお勧めできないな。 そうだ、YouTubeで“ヘルナイトじゃ倒せない”をワード検索してみたまえ。 きみの進路の参考になるかもしれないよ。 よく考えて、また来週きなさい。 はぁーい。 そんな感じ。 いや落ち着け自分、目をさましナサーイ! 「あ、でもイビルナイト系も死の魔法が必須ですよね?」 「それ以上に死体回収がネックなのよね」 そういえば、死体回収なんてスキルも条件だった。 「・・・死体、嫌いですもんね」 「うん、無理」 素直に頷く彼女。 「ありえない。気持ち悪い」 そう連呼されちゃうと・・・ 「・・・あの、僕幽霊なんで・・・ちょっと傷つくんですけど・・・」 えぇっとですね、もう少し気を使ってもらってもいいですかね? 「あ。あたし幽霊はへーきだから」 あっさりとのたまう彼女。 「嫌いなのは死体」 なるほど。 確かに、死体と幽霊は別物だ。 「だからさ、あんたが嫌いっていうより、あんたのカラダが嫌いって感じ?」 ・・・。 「・・・なんかさっきより傷ついてるんですけど、僕」 「あんた飲めないわよね」 彼女はそう言って、自分にだけフレーバードティを淹れ、おもむろに正座から深々と頭を下げる。 「このたびはご愁傷さまでした」 「あ、これはどうもご丁寧に・・・痛み入ります」 なんとなく、流れ的にお受けしてしまう幽霊青年ギュオさん。 自分は喪主でなく故人のほうなのだが。 どこからかカコーンと、ししおどしの音まで聞こえた。 ・・・あれ、アセットとして実装されてただろうか? ヤマト風の家のアセットとして、知らない間に出ていたのかもしれない。 さっきのが幻聴でなければだが。 なんとなくこの空気にたえかねて、 「イビルナイトの条件満たしてるネクロマンサーっていうのは分かりましたけど、他はどんなスキル構成なんですか?」 などと聞いてみる。 「んー、そうねぇ」 彼女は顎に指をあて、思い出すように中空を見上げる。 実際にはスキルウィンドゥを呼び出しているのかもしれないけれど。 「素手とかキック高いわよ、90近く」 それは高すぎませんか。 「さっき言ってた刀剣でも80越えてないんでしたよね?」 隠れイビルナイトのネクロマンサーかと思ったが、再考の余地がありそうだ。 「あと生命も高いし、あちこち好奇心で飛び込んでるうちに落下耐性と自然回復も高くなっちゃったかな」 ・・・えぇっと? 「それって、荒くれ・・・」 「あぁ?」 半眼、ぎろっ。 「い、いえ! なんでもないです・・・」 スミマセンデシタ。 残るパフォーマンスを上げれば即チャンピオンなんかになるんじゃないかと不安になり、ガクガクブルブルなのですが。 ギュオが想像に怯えていると、 「死体回収、あたしの友達に頼む?」 「え」 はっと顔を上げる。 「引き寄せ使えそうなコいるけど・・・多分、だけどね」 心当たりがいるらしい。 客観的に考えて、死体引き寄せが使えるならば誰でもいいわけだ。 が、 「い、いえっ、そんな」 大慌てで手を振る幽霊青年。 「遠慮しなくてもいいわよ? まー最近会ってないけどさ」 若干、疎遠な関係になりつつあるのかもしれない。 人間関係、そういうものだ。 それを聞き、勢い込んでギュオが主張する。 「じゃあ無理ですよっ、ていうか悪いです! あんまりひとを巻き込むのは」 「あたしを巻き込むのはいいんかい」 あ、軽く半眼。 「・・・い、いやほら・・・探偵さん、探偵事務所やってるわけで、これはつまりお仕事なわけですよ!?」 と熱弁した後、ひっそりため息をついて「そうだよな、仕事なんだよな」などと何やら勝手に落ち込んでいる。 そんな彼の様子は気にしたようも無く、 「リーなんとかってコなんだけどね」 彼女が話し始めた。 って、 「なんとかって何ですか」 リーナ・ントカさん? 「いや覚えてないのよ」 「・・・友達なんですよね?」 そこはあっさりと言うところだろうか。 「いっつもリーって呼んでたし、あたし名前を覚えるの苦手なのよね」 そういう人はいるが・・・ 「探偵なのに・・・で、最近は会ってないって言ってましたよね」 「うん」 こっくりと頷く彼女。 「そうねぇ、最後に会ったときは・・・あ、あのときだ」 ポンと手を叩いて、 「あのコ、いつもみたいに黒い舞踏会マスクつけて赤い鎌持って、そんで」 「友達は選んだ方がいいですよ」 思わずツッコむ。 「だいじょーぶだって」 彼女は手のひらをパタパタしながら、 「あのコ、ちょっと変わった夢は持ってるけど、他はふつーだもん」 黒い舞踏会マスクに赤い鎌姿が? と内心思ったが、友達ということなので無難に 「ちなみに、どんな夢なんです?」 と聞いておく。 言葉にするとアレでも、実際に見ると案外似合ってるものなのかもしれないし。 うん、そうだ。 そうに違いない。 そうしよう。 だから、普通だ。 だが、彼女の答えはというと 「あー、魔界の女王になるとか言ってたわね」 ・・・やっぱり友達は選んだ方がいいのではないか、と思うが。 それは夢というか、野望というか、無謀というか。 「で、そのお友達は最後に会ったときも、夢に向かって頑張ってたわけですか」 頑張って叶う夢かは置いておくとして。 「うんうん」 なにやら満足そうに彼女が頷く。 「最後に会ったときはね、くれなんとかって小さい子供に血を持ってくるように言って・・・」 「友達は選んだ方がいいですよ」 思わずツッコミを入れずにいられなかったのだが、この的確な助言は彼女のお気に召さなかったようだった。 「なによ、あたしの友達に文句あんの?」 友人を侮辱されると怒るタイプであるらしい。 それはそれで美徳だとは思うのだが、ギュオのほうも決して侮辱したつもりではない。 ないのだが・・・どう言えばいいのだろう。 どう言っても、微妙に彼女の神経を逆なでする表現になってしまいそうだ。 答えに困っているギュオの様子に苛立ったのか、彼女が「噛むわよ」と端的な威嚇をした。 いや宣言か? なんにせよ、よくない兆候だ。 「牙スキル、狼変化とか得意なんだから」 と言う。 そういえば、牙スキルもイビルナイトの必要条件だ。 荒くれ者よりイビルナイトに近づいた彼女に安心していると、その当人が突然歌いだした。 「あたしの恋は狂犬病ー♪ うなるっ、ほえるっ、くるうっ♪」 握りこぶしつきの熱唱である。 「じょ、情熱的な歌ですね・・・」 音程のことをコメントせずに、ギュオは何とか無難な感じで切り抜けた。 それを聞き、 「でしょ」 彼女はふっふーんと胸を反り返らせる。 一瞬、正直な目で見そうになったが、身の安全に支障をきたす気がしたので思い止まった。 が、彼女は鋭かった。 「ねぇ」 う、またもや半眼。 「今あんた、哀れむような目で見てなかった」 「い、いえっ、そんな」 全力で首を振る。 真剣に命がかかっている気がしたので、付け加えて 「それに僕、つつましい女性も好きですっ」 彼女は凄く微妙な顔をしてから、 「・・・殴って、いい?」 「・・・はい」 (普通、ああいうときは一発だと思うな・・・) ギュオは声を出さずにうめいた。 拳聖乱舞って・・・どうなのさ? いや、彼女らしいけど。 全身あちこちが痛む。 が、文句を言えないのがつらいところだ。 触媒がないとヒールも使えないし、ポーションも使えやしない。 まぁ、そもそも自分はヒールなんて使えないのだけれども。 「ところで基本的なこと聞くけどさ」 「はい?」 なんでしょう、姐さん。 「あんた、シップ何なの?」 思わず構えたが、思いのほか拍子抜けな質問だったので、「あぁ、人間国宝です」と軽く答える。 が、彼女の方はまじまじと目を見開いて、 「・・・マジ?」 「な、なんですか、その反応は」 ウソなんてついていないのだが。 「いやなんていうか・・・人間国宝ってほら、なんか威厳ありそうな響きじゃない」 「そこで疑うような目で見ないで下さいよ!」 心外な。 それは遺憾だ。 はっきりキッパリ遺憾だ。 「まぁ仮にあんたが本当に人間国宝としてよ」 「だから本当に僕は人間国宝なんですってば!」 自分を人間国宝だと主張する人間国宝はあまり聞かないが。 「クリックすれば分かるでしょう!?」 人間国宝はシップの中でも最上位に難易度が高いので、他にどんなスキル構成でもシップは上書きされないはずだ。 というか、他のシップを取るスキルの余裕自体が無い。 「裸のオトコをクリックするってのーもねー」 あはは、と笑いながら彼女が言う。 「なんでそこだけ乙女なんですか」 クリックして下さいよ、さぁ! さぁ! さぁ! と詰め寄ろうと思ったが、霊魂は裸の状態なので、それはなんだかマズイ気がして思い止まる。 とってもマズイだろう、さすがに。 うん。 でもさ、と彼女は続けて 「そんなら割と楽に見つかるんじゃない? あんたのカラダ」 「え?」 ギュオは驚いて彼女の顔を見つめてしまう。 「だってほら、人間国宝なら移動範囲なんて限られてるでしょ」 その指摘はもっともなのだが・・・ ギュオは「あ、それはどうかな・・・」と呟いた。 「生産設備のあるネオクやビスク、あとはせいぜいムトゥーム墓地・・・」 彼女が指折り数える。 それを遮って、 「うろ覚えですけど僕、ギガス共闘とか行ってた記憶もありますし」 記憶を探りながらギュオが言う。 と、彼女がキレた。 「人間国宝がなんでそんなとこ行ってるのよ!」 「せ、責められる筋合いはないでしょうっ?」 ギュオの方も必死で言い返す。 「でもおかしいでしょっ、人間国宝が共闘行くどんな理由があるのよ!」 確かに。 「テレポのために神秘上げるのに知能や精神を・・・」 「もっと弱い敵でいいでしょ、弱い敵で!」 彼女は至極もっともなことを言ったつもりだったが、 「人間国宝の弱さを甘く見ないで下さいよっ?」 と、今度はギュオの方がキレた。 「野犬や大きなネズミに襲われても死ねるんです」 何故か胸を張って言う。 「逆に共闘とかのほうが安全なんですよ」 「ぬー・・・」 うなる彼女。 地の底から響くような声で、「なんだか納得したけど納得できない・・・」。 「それに、僕だって冒険はしたいんです」 「人間国宝は冒険心なんか捨てなさい」 あっさりと突っ込む彼女。 「なんてことを・・・だいたい、人間国宝ほど日常が冒険なシップは無いんですよ!? コケただけで死んだりするし!!」 「・・・」 「・・・」 長い沈黙の後、頭を下げたのは彼女の方だった。 「・・・・・・すみませんでした、スペランカーさま」 「うむ、くるしゅうないです」 いつまでも家の中でこんなやりとりをしていても仕方が無いので、 「とりあえず、非戦闘地帯の基本的なとこから回ってみよっか」 と彼女が提案する。 ギュオはあんなことを言っていたが、普通に考えて、生産設備のある基本拠点が最有力の行動範囲なのは間違いない。 案外、ヌブアルタの辺りで転落死しているというオチではなかろうか。 などとも思う。 ギュオのほうも反対する理由は無いようで、「そうですね。分かりました、行きましょう」とのこと。 かくして、二人はいそいそとアルターへ向かったのだが・・・ 「あ」 と彼女が声をあげ、両手をブンブンと振り回しながら「おーいっ」などと大声を出し始めた。 知り合いを見つけたらしい。 街中でされると少し気恥ずかしい行動だが、彼女らしくて好ましい気もする。 ともあれ、そのアピールに相手の方も気づいたようで、パンデモスの若い女が近づいてきた。 「サン、やっほー」 ギュオも何か挨拶せねばと思ったが、自分のことをどう言えばいいか迷って「あ、どうも」で止まってしまった。 やっぱり“依頼人”、だろうか。 などと悩んでいると、 「あ、こっちの幽霊くんはギュオって依頼人ね。で、こっちはサンフィレッツェ。よくスルトで会うんだー」 と彼女が勝手に紹介してしまった。 まぁ異論は無い紹介だったが。 間近で改めて顔を見てみると、相手のぱんこは物凄い美人だった。 ダンサー装備ということもあって、日焼けした肌にその造形はリオのカーニバルな国の人を思わせる。 髪型がやけにアグレッシブなのは気になったが、正直目のやり場に困る。 かといって、ここで焼肉食べ放題から精進料理とばかりに探偵女史の方をみるのも危険かもしれない。 さすが探偵といっていいのか、彼女は意外に鋭い。 特に自分のスタイルというか、直線美に関しては。 とまぁ、そんなゴージャスな美女であったが、サンフィレッツェは幽霊青年ギュオの方を見て眉をひそめた。 そして何やら考え込む。 しばらくして思い当たったらしく、まさに「げ」という感じの表情の後、 「ちょっと!」 と探偵女史の方に詰め寄った。 そして出た叫ぶような発言が、 「そっちのこぐおクンて、ひょっとして“ポックリさん”!?」 であった。 「・・・ま、まぁ確かに・・・ポックリ逝ってはいるわね」 「・・・ま、まぁ確かに・・・否定はできませんけど」 二人で向き合って、ごもごも。 だが、サンフィレッツェは「そうじゃなくて!」と、もどかしそうにして 「あれよ! ほら、タルパレのポックリ大明神」 はい? 「だ、大明神・・・?」 ギュオは唖然とし、 「なによ、それ」 と探偵女史の方も何だそれは状態である。 それを見、 「あー、あなた興味なさそうだもんね・・・こういうの」 とサンが苦笑する。 探偵女史はちょっとムッとしたようで、「なによ、知らないから教えて」と要求する口調も少し尖っている。 基本、彼女は短気だ。 「あのね、もう何ヶ月も前からかな・・・タルパレにね、魂抜けの死体が落ちてたのよ」 サンが説明を始めた。 「うん? 珍しくはないと思うけど」 必中魔法ダメージの特殊攻撃が増えて以来、タルタロッサパレスの難易度は上がっている。 「それ自体はね」と頷きながら、サンが続ける。 「タルパレって戦闘地帯なのに生産設備あるじゃない?」 「あー、あったねー」 タルタロッサたちが使っているのだろうか、何故か織物だかの生産設備があったように思う。 かなり特異なことだけれども。 「それの前でさ、人間国宝の死体が一つ」 思わず顔を見合わせる探偵女史と幽霊青年。 「しかもいつになっても回収もされずにそのまんま」 「・・・」 目を見合わせる二人。 これはひょっとして・・・いや、きっと・・・大当たり? 「でね、いつの間にかオブジェのように風景に溶け込んじゃって」 それを聞き、ギュオはなんだか複雑な表情をしている。 「ところが、いつからかある噂が広まり始めたのよ」 「噂?」 「うん」 そして、サンフィレッツェが噂なるもの例を挙げていく。 「曰く・・・あの死体にリザを三回かけてから狩りをするとドロップが良くなる」 「は?」 他にもね、と続ける。 噂は何通りもあるらしい。 「あの死体からドレインソウルするとアンチマクロが外れて、その上スキル上昇率が上がるとか」 「・・・」 「あ、そうそう」、ポンと手を叩き 「あの死体の前にペットを七回お座りさせると、成長率が・・・」 「上がらないですからねっ!?」 思わず叫ぶ本人。 サンフィレッツェの方は、 「そこはほら、縁起物っていうか、オカルトっていうか」 あははーと笑っている。 「ひとのカラダを都市伝説みたいに・・・」 あっけらかんとした物言いが遺憾です、と幽霊青年の憤り。 が、気分を害している彼を気にせず、サンフィレッツェは身を乗り出して 「いつしか、あの死体のことをみんなこう呼ぶようになったの・・・“ポックリさん”」 “みたい”でなく、もはや完全に都市伝説だ。 こうなるともう、ギュオはどう反応したものやらである。 まさか、自分のカラダがそんなことになっていようとは。 怒っていいものか、苦笑して笑い飛ばすべきか。 複雑な思いの本人をよそに、 「ひそかなブーム、かなりきてるわよー」 などと南国ダンサーのゴージャス美人は至って陽気である。 関係ないが、ひそかなブームっていう言い方はなんだかヘンだ。 ブームって、ひそかなものでもアリなのか? 「アルケィナなんかもこういうの好きなのかしらね、一枚噛もうとしてるって話よ?」 「はい?」 アルケィナといえば、ビスク国教のラルファク教を主軸とするギルドである。 「恋人同士で力を合わせてポックリさんの前まで辿り着き、交互に六回ずつリザをかければ・・・」 夢見るように手を組み、なにやら身体をくねらせてから 「二人は永遠に結ばれる」と熱烈に囁く南国美女。 と、急に表情を一変させて 「しかし、一回でもFizzれば・・・」 ぬっふっふ・・・と、なにやら暗い悦びに満ちた表情を見せるサンフィレッツェさん。 そして、何かを感じたのか、何も無いように思える中空を振り返って 「別れよっ!(くわっ」 何が見えたんですか、何が。 陽気なばいーん、サンフィレッツェさん。 趣味はカップルの破滅を祈願すること。 結構なご趣味です、はい。 探偵女史はといえば、 「Fizzらないスキル98まで努力させる手ね」 などと冷静なコメントである。 「仮にもビスクの主教に関係したギルドとして、そういうのはどうなんですか」 ギュオの方はちょっと泣きそうな顔になっている。 「どっかなぁ?」 「あ。でも噂じゃ、ミスト様もお忍びでポックリ詣でをしたって聞いたわよ」 大神官ミスト、彼女はアルケィナ及びビスクの重鎮中の重鎮である。 「・・・根も葉もない噂であることを祈ります」 ねぇ、とギュオに声をかける探偵女史。 「思いがけず、あんたのカラダの場所が分かったのは良いんだけど」 本当に棚から牡丹餅だ。 あ。 この世界の牡丹餅は、丸々と肥え太ったネズミを指します。 値下がり不人気はなはだしいペットですが、成長するとかなりの火力高性能だったり。 諺としての“棚から牡丹餅”とは、神棚の上でお供え物を盗み食いしていた犯人ネズミがぽてっと落ちてきて犯行発覚&逮捕という様に由来するのだとか。 思わぬ事実発覚と解決を意味する諺ですね。 はいそこ、メモしておくように。 テスト出ますよー。 年の瀬までに忘れないと留年する呪いが降りかかるといわれてますけど、先生、テストに配点50点で出しますからねー。 と、それはともかく。 「あんたさ、なんでタルパレなんかで生産しようとしたわけ?」 もっともな疑問である。 しかも人間国宝が・・・? ギュオは「う〜ん・・・」としばらく考え込んだ後、 「おそらく、ですけど」と前置きし。 「ギリギリの環境で、ギリギリの精神をもって・・・一世一代の最高傑作を作ろうとしたんじゃないですかね」 まじまじと目の前の幽霊青年にして人間国宝の顔を見てから、 「・・・バカ?」 心からの問いであった。 「なっ・・・心外です!」 激昂する人間国宝。現、幽霊。 「いいですか、芸術というのはですね」 彼が熱弁しようとするのをさえぎって、 「あー、いいからいいから」と探偵女史はつれない。 「せっかく分かったんだからさ、ちゃちゃっと行きましょ」 そして、タルタロッサパレス。 奥地にある生産設備。 その前に、死体があった。 二体の。 一つは言うまでもなく、人間国宝コ・ギュオである。 その横にあるもう一つの死体・・・名前は“ギュオへ”。 うっかりするとそういう名前かと思ってしまうが、“へ”は平仮名である。 そして、クリックするとエディット・メモ欄に「貸してる学ラン返せ」とあった。 「この人、このためにわざわざキャラ作ったのかしら」 探偵女史が呟く。 「なんだか執念を感じるわね」と苦笑する。 ここまで、決して平坦な道のりではない。 途中のエイシスケイプがレコ石によるテレポ制限があるのに加え、この奥地まで簡単に魔法で転移というわけにはいかない。 護衛無しでこれるような場所ではないのだが・・・。 「って、そんなことより」 気づく。 「あんた、学ランなんか借りてたの?」 このダイイング・メッセージともいえるような伝言メモを見る限り、そう解釈するしかない。 「・・・あ」 「ん?」 いきなり、ギュオ青年が「あぁぁぁぁっ!?」と叫ぶ。 何を思い出した、おい。 「・・・」と僅かな間をおいてから、探偵女史は前フリ無しでいきなり全力疾走しようとした。 「ちょ、どこ行くんですか!?」 がしっと掴む。 逃げ損ねた彼女は「いや、なんだか悪い予感がして」と言い、 「巻き込まれないうちに手をひいたほうが、って声が・・・」 「誰の声ですかっ、誰の!」 「囁くのよ、あたしのゴーストが」 「意味分からないです」 コアなネタはギュオ青年には通じなかったようだ。 いや、そんなことより。 「で、どうなのよ。学ラン」 肝心なことを聞く。 「えぇっと・・・まず、確かに借りてました」 やはり、このメモは間違いなく目の前の幽霊青年宛だったらしい。 「ふぅん。じゃ返しなさいよ」 当然のことであったが、ギュオは「それが・・・」と何やら煮え切らない。 「なによ、あんたずっとログインしてなかったんでしょ?」 そう聞いていたし、実際ギュオもそれには頷いている。 「探せばどっかに入ってるわよ。タイムボックスとか、わら銀とか」 この世界、どこに置いたか忘れるのはよくあることだ。 「リザポ使ったげるから、生き返ったら探してみなさい」 と言って、ごそごそと荷物からポーションを取り出す。 ドラゴンの心臓から作り出す、死者を蘇らせる秘薬だ。 「ま、待って!」 「なによ」 またもや半眼ぎみで、探偵女史が面倒臭そうに振り向く。 「学ランが今どこにあるかは分かってます」 「は? じゃあ・・・」 と言いかける彼女を遮って、 「泉の底です」 「・・・へ?」 「泉の底。精錬の泉・・・の、底・・・」 段々と小声になっていくギュオのセリフが脳に浸透するまで、少しの時間が必要だった。 理解したとたん、叫ぶ。 「・・・あんた、借り物を泉に入れたの!? ちょっと! 最悪よっ、それ・・・」 「し、仕方ないじゃないですか、完全に忘れてたんですよ!」 と抗弁するギュオに、 「自分の死体の場所忘れるほどログインしてなかったんだもんねぇ」 などと言いかけたが、 「じゃなくて! そんな理由で相手が納得するわけないでしょ!?」 ごもっとも。 普通に考えて、どちらに非があるかは明らか。 その上、情状酌量に充分とは到底思われない理由である。 ギュオは頭を抱えて、 「あぁぁ・・・ヘンだとは思ったんですよ、なんでマイペにこんなものがって」 などとうめいたが、 「なら泉に入れんな」と探偵女史は容赦ない。 いや当然のコメントだが。 ふと「ん?」と探偵女史は気づいた。 「ねぇ、ちょっと」 「あ、はい?」 「あんた、サルベージしなかったの?」 サルベージ。 精錬の泉に落として失敗しても、サルベージ課金すれば一定の確率でアイテムは返ってくる。 ちなみに、確率は課金額のコースごとに違う。 「博愛なら100%でしょ、100%」 かつては90%だったとも聞くが、今は最大課金すれば確実に返還される。 それでもかなり高いが。 「いやぁ・・・ずっとMoEから離れてたので、まぁいっか・・・なんて。てへ」 「テヘ、じゃないわよ! テヘじゃ!」 これはさすがに短気な彼女でなくても怒る。 が、ここで目の前の幽霊を叱りつけていても仕方が無い。 「・・・選択肢は二つね」 怒りを抑え、建設的に進めようとする。 指を立てながら、選択肢を呈示。 1:勝手に泉に落として、その上見捨てたことを正直に話して謝る 2:なんとか学ランを手に入れて、泉のことは隠し通す 「さぁ、どっち!?」 「2!!」 「即答かい」 思わず突っ込んだが、 「いや、2でしょ・・・これはもう・・・」 と言われると、 「ま、まぁ・・・あたしでも2かな」 「デスヨネ」 「う、うん・・・」 人間なんて、そんなものです。はい。 「でも高いわよー、学ラン」 探偵女史の「確かまだM単位の額じゃなかったかしら」の呟きに、 「そ、そんなに・・・?」 ギュオは今さら青ざめた表情で愕然としている。 遅い。 「うん、前の依頼人が持っててさ、自慢してたもの」 そういえば・・・「あ、その依頼人も霊魂の状態だったんだけどね」。 それを聞き、 「探偵さんって、幽霊専門の探偵なんですか?」 意外な隙間産業だと感心しかけたのだが、「違うわよっ!!」と言われてしまった。 潜在的顧客を開拓する良い視点だと思ったのに。 当の探偵女史としては、不本意な流れであったらしい。 「なのに口コミで勝手に・・・あんたも幽霊仲間から聞いたんじゃないの?」 いや、幽霊仲間って・・・。 「いえ僕は通りがかった探偵さんを見て、それで・・・そのときそれだけで・・・」 なにやら赤面しながら、もじもじと口の中で何か言っているが、よく聞き取れない。 よく聞き取れないものは無視する主義の彼女は、 「ま、根気良く安売りを探すとしても・・・まずは購入資金をなんとかしなきゃね」 と話を勝手に進めていく。 「あんた、いくらくらい持ってるの?」 うっかりしていたが、大切なことだ。 目標までの距離さえ分からないのでは難事に過ぎる。 ところが、幽霊青年は面目なさそうに 「銀行開けないので・・・」 との答え。 「・・・財産も分からんのかい」 この幽霊青年と話していると、なんだかツッコミが多い気がする。 第三者の公平な目から見れば、それはどっちもどっちな気もするけれど。 「しょうがないじゃないですかぁ、そういう仕様なんですよー」 ギュオは半分泣いている。 「・・・ま、頑張って」 そう言って身を翻そうとした彼女の裾をぐわしっと掴んで、 「探偵さんっ、お願いがあります!!」 命乞いに匹敵する勢いで迫る。 「・・・なによ」 「お金貸して下さい」 凶暴な衝動が膨れ上がりかけたが、彼女は鋼鉄の意思でそれを押さえ込んだ。 「・・・いくらくらい?」 もはや半眼のみならず、声音まではっきりと凶悪な色が出ている。 だが、そんな彼女にギュオ幽霊青年はまさに0円のスマイルを向け。 躊躇無く、 「有り金全部♪ ・・・ぐ、ぐぇっ・・・し、絞め技は・・・ちょ・・・ぎ、ギブ・・・」 結局、行列の出来る探偵事務所の新しい助手としてギュオは働くことになり。 蘇生させて死体が無くなると(学ランの貸主に)バレるということで、霊体のまま。 かくして、幽霊にして人間国宝の探偵助手と、なんちゃってネクロマンサーの探偵というコンビが結成されたのであった。 借金返済というか、貯金達成までの期限付きではあったが・・・学ランの値段と、探偵事務所の収支を考えると 「え、永久就職する気じゃないでしょうね・・・」 と言われるのも無理なく、一方で当の元・人間国宝にして現・幽霊探偵助手は 「永久就職なんて・・・いやん(ノω\)キャッ」などと、それなりに幸せそうであったという。 後に、かの名高きダイアロス学園殺人事件で裏番長ミシャグジーを追いつめるのだが、それはまた別のお話である。
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