短編小説っぽいもの
どっち!? --
本編
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後書きコメント
『どっち!?』
〜プロローグ〜 日本のMUには根強い命題がある。 それは不安であり、欲望でもある疑問。 強き者も弱き者も、拘る者も拘らない者も、望もうが望むまいが巻き込まれてしまう命題。 いや、質問というべきか? 確認というべきなのか? 曰く・・・ “これってEE? バラエル?” 〜1〜 「スージーさ〜ん・・・(ノ_・、)」 そう泣きついて来た小動物のような小柄なエルフに、 「出たわね、怪獣もどき」 とあっさりと切り捨てたのはスージーQ。 冷たい対応だが、これでなかなか人情派だったりする。 「あぅぅ、怪獣なんてひどいですよぉ。・゚・(*ノД`*)・゚・。」 「ねぇ、パム。あなたのフルネームって何だっけ?」 潤んだ目をこすりこすりしながら、 「・・・パメラ・ポメラですぅ」 スージーQは大きく頷き、 「怪獣認定」 「Σ(OωO;)」 衝撃を受けた様子のパメラはまた「ひどいぃぃ。・゚・(*ノД`*)・゚・。」と大泣きを始める。 まぁ、いわれもない非難中傷なのは確かだが。 ちなみに、姉の名前はモスラ・モスラなどという冗談みたいな名前らしい。 普段はMMの愛称で呼ばれているらしいが。 さもあらん。 「わかった、わかった・・・話聞いたげるから、ほらこっち」 何があったかは知らないが、きっとノリア倉庫前で話すようなことではないだろう。 スージーはさっさとキノコ椅子のほうへと向かう。 淑やかとは言えない足の運びだが、それでも女らしさを感じるから不思議だ。 きっと、その微妙な境界線を心得ているのだろう。 そんな彼女のあとを、トテトテと小動物のようにパメラが追う。 わずかな距離なのに遅れる足の遅さは、チートでも使っているのだろうかと思わせる。 そんなものがあれば、おそろしく無意味なチートツールということになるが。 この二人は連合“ざっくばらん、あっけらかん”所属の凸凹コンビ。 連合マスターは移動コマンド課金から半引退状態だが、連合所属ギルド“あっけらかん”のギルマスをしているのがスージーQだ。 ちなみに“ざっくばらん”のギルマスの方は、最近はもっぱら運営チームへの抗議デモで忙しいらしい。 1サバのロレンシアなどで 「いまだにクライウルフさえMUDAYの対象外なのは、修正パッチを入れることすら面倒な怠慢だ!!」 「新鮮なイベントの導入で、繰り返し使い回しのイベントから脱却せよ!!」 「クエスト開催時間を日本も減らし、通常PTに光を! 移動コマンド復活を!!」 などと叫んでいる姿が見られる。 そのうちアカウントを剥奪されるだろうと噂されているが、今のところは無事にIN出来ているようだ。 定期メンテナンスが終わるたびに、「まだ生きてるぜb」とメールが来る。 ・・・彼なりに楽しんでいるのかもしれない。 「で?」 「DE?」 キノコ椅子に座り、話を促したスージーにきょとんとした顔で復唱するパメラ。 スージーは軽くため息をつきながら、 「・・・ねぇ、パメラ。あなた、あたしに話があったのよね?」 「あ」 どれだけ体力がないのか、汗をハンカチでぬぐっていたパメラだったが 「そう! そうなんですっ(o;TωT)o"」 にぎった拳を無意味に動かしながらアピールする。 体力が致命的に無い割には、無駄な動きは多い。 「悩みがあるんです・・・」 「うんうん、そうみたいねー」 いつものことだ。 「で、今度はどうしたの?」 パメラはしょぼんと下を向いて、 「わたし、わからないんです・・・」 呟く。 「なにが?」 “わからない”? この子にわかることのほうが少ない気がするけれど・・・などと思うが、口には出さないでおく。 きっと、知識と知能に純粋無垢なだけなのだ。 人によっては“頭が悪い”と表現するだろうが。 だが、今回の疑問は(彼女にしては珍しく)ひどくまっとうなものだった。 パメラはおそるおそる顔を上げ、口を開いた。 「EEなのか、バラエルなのか・・・どっちなんだろう? って」 〜2〜 日本のMUでは、いまだに根強いEEorバラエル議論がある。 こういう声がある。 “我ら攻撃特化は限界までステを最適化し、石を惜しみなくつぎ込んでいる。だから、EEを名乗るならば同じことを要求する。” だが、スージーに言わせれば (知らんがな('A`) ) の一言で切り捨てられる。 自分の好みに育てるのは自由だ。 好きにすればいい。 自分に相応しい相手を選ぶのもいい。 好きにすればいい。 だが、“選ぶ”のではなく、なんであんたにEEと承認されにゃならんのだと。 “全てのEEに要求する”んじゃなく、“全てのEEから自分で付き合う相手を選べ”と。 スージーは呆れ半分に憤慨するわけだ。 (どんだけ王様なんだか・・・(゚Д゚)≡゚д゚)、カァー ペッ!! ) 実は結構、口が悪いスージーさん。 “サポ職は仲間への思いやりと献身が前提、その結果の代償は諦めるべきだ。” だが、スージーに言わせれば (うわー・・・“あなただけよ、きみだけさ”症候群) 謎の病名にされてしまう。 常に一緒に生きてくわけでもあるまいに、たかだか30分付き合うだけのやつがひとさまの人生に口出すなと。 (あたしがINしてる間、ずっとPTしてくれるんならいいけどねー) かつて、通常PTをはさめる時代だったらアリかなーとはスージーも思う。 だが、移動コマンド課金以来、ただでさえ少なかった通常PT狩りはさらに過疎化した。 ソロできる能力がなければ、クエスト以外は遊べないということになる。 スージーにしてみれば、いきずりの男に好みの価値観まで要求されてもなー的に感じてしまうのだった。 いきずりの相手程度になってしまう今のMUの現状では、少々無責任な欲張りではなかろうかと。 向こうが好みの相手を勝手に選んで、自分が選ばれないのなら別にいいのだが。 自分が女でないとまで言われるのは腹が立つ。 (なんでクエスト時間しか付き合いもしない相手の理想を叶えなきゃEEと呼ばれんのかいな) なんで好みの相手を選ぶだけでは我慢できず、EEという存在まで合格試験したがるのだろう? などと思った時期がスージーにもあった。 もっとも、今では (女は自分の好みであるべきな男、みたいなもんなんかねー) くらいに思っているが。 彼女も結構、男女の偏見があるようだ。 彼らは勝手に言う。 私は私の理想になります。 だから、あなたも私の理想になって下さい。 そんなことを当然のことのように真顔でタキシード着て言われたら? (うわ、バラの花束に吐きそう) そういう世界が好きな人間同士でやってくれるのは構わないんだけどね・・・ あいにく、世界ってのは (きみの理想でない女もいて、それでも女として生きて生活してるんだわ) 王子様、ごめんなさい。 あなたが付き合う女性を選ぶのはご自由に。 けれど、合わない女を“そなたは女ではない”なんて言ったら、即クーデターですわよ? “理想の女性を選んだ” ○ “私が選んだのは理想の女性だ” ○ “理想でない女は女じゃない” × ブッブー。 悪いけどね、世の中にゃ見た目がよろしくない女もいりゃあ、我侭な女もいるわけよ。 そりゃーもう欠点だらけ。 男も同じでしょうが。 認めなさいな。 あんたが鼻もひっかけない女もさ、女だってね。 あたしゃ良いオトコ選ぶけど、どんな魅力ない男でも男だと思ってるわよ。 選ばないだけで。 お役に立つエルフが欲しいなら、そういうのを選んで下さいな。 選ぶだけで我慢してね、王様。 なぁんて思ったところで、 (実際、それさえも違うのよねー) というのも・・・ 「コスプレみたいなものね」 「・・・ほぇ?」 いきなり突飛な発言をかましたスージーについていけず、パメラ。 「“EEか? バラエルか?”なんて言ったって、要はDS・BC募集で選ばれるかって問題でしょ?」 「え、え〜っと・・・ま、まぁそうかなぁ」 他ではあまり気にしたことはないかも。 というか、今のMUは通常PT狩り自体が無いし・・・。 「あのね、向こうはこっちが思ってるほどエナ値で決めてなんかないのよ」 「そ、そうなのっ?」 「実際はね」 EX風鎧Nの要求は力71、敏捷156。 風鎧13の要求は力83、敏捷190。 その差は46。 エナに振ったところで差はCU後の8レベル分に満たない。 「でもでもっ・・・300こえてからの8レベルなんて、すぅっごくかかるんだよぅ?」 「じゃ、あなた聞いたことある? 募集でLv確認してる叫びなんて」 「それは・・・あ、あんまり無いかなぁ」 「あんまり見かけないけど、EX13でも差は23レベル分」 「すっごく大きいように聞こえるけど・・・」 「じゃ、あなた・・・相手のエルフが300か323かなんて気にして選んでると思う?」 「ううん・・・」 スージーは軽くため息をつきながら、 「実際に彼ら“EEこだわり派”が選ぶのは330のEX風13じゃなくて、300のEX風Nよ」 賭けてもいいわよ? 「ご大層になんだかんだ言ったとこで、彼らは実際には“自分の言ったことすら気にしてない行動をしてる”の」 真実より見た目。 「彼らが気にする“EEか? バラエルか?”なんてね、コスプレみたいなものよ」 実際には空っぽの理想的な求道。 けれど、その本当は空っぽなことも多いこだわりは捨てられない大切な一線らしい。 なら。 「深刻に悩みなさんな」 「で、でも・・・」 「アホだなーと思いながら付き合ってあげりゃいいの。単純なおつむの子供みたいな攻撃職、かわいいじゃない」 「スージーさん・・・じつはすっごく性格悪い人・・・?」 おどおどしながらパム。 スージーは鼻で笑って、それには答えず 「あっちだって、実際に口に出して確かめられないんだもの」 実際にナースを口説きに行けもしないくせに、OLの彼女に見た目だけナースさせて満足って妥協みたいなものよ。 本当はどうあれ、あーゆー連中は自分が満足するかどうかだもの。 「だ、だって・・・そんなこと聞いたらすっごく叩かれるよぉ」 「でしょ。エナを聞くのは失礼なのが現実だとは分かってる」 けどね。 「自分の顔出してる表向きはそれが紳士的なと言いつつ、心が本当は紳士じゃないから気にするの」 紳士は匿名で迫害するのがたしなみでございます。 これもマナー、ごめんあそばせ。 「まー、気にすることないわよ。相手への理想の要求だけ高くて、極エナ死なすようなテク無しもいるからね」 と、ここでササに切り替えて 「うるさいだけで、夜ヘタクソなオトコみたいなもんか」 爆笑する。 スージーさん、あなたきっと裏表ありますね・・・まぁ、大半の人間そういうもんですが。 「ひょっとしてぇ、スージーさんって・・・オトコ嫌い??」 おずおずと質問したパムに、 「まさか! “EEこだわり派”はエルフだっているんだから」 とんでもないという風におどけて見せ、 「女の方だって、自分みたいなのじゃないと女じゃないなんて言う子いるからねー」 「あー、うー」 「自分をもっともっと認めて欲しい。だから、相対化。相手の地面が陥没化すれば、自分はさらに高くなる♪」 「あぅぅぅ、スージーさん歪んでるよぉ」 怯えたようにパム。 「言っとくけど、どっちでもいいのよ?」 「ほぇ?」 「あたしはガラじゃないけど、とことん尽くしたっていいんだもの」 そういう女も女だから。 そういうんじゃない女も女であるように。 「あなたはどっちがいいかってだけ」 コスプレで満足するような空っぽの男についてくも良し。 コスプレじゃ我慢できないとエナまで聞いてくるほどの本物と付き合うも良し。 選ぶのは自由。 自由なのは選ぶことだけだけれど。 空っぽの男を追放できないように、あちらも私たちを追放する権利は無い。 相手が好みを選ぶように、自分の好みと相談なさいな。 どんな相手に選ばれたくて、どこまで付き合った自分にするのか。 気負いなさんな。 あっちも実は結構、実際問題として空っぽなんだから。 もっと気楽にね。 「要はね、あなたの好み次第よ」 “EEなのか? バラエルなのか?” 実は、現実として既に空っぽになっているのかもしれない命題。 〜エピローグ〜 「スージー!!」 血相を変えてやってきたギルメンに、 「あら、どうしたの?」 露店を覗いたりしながら、スージーQ。 「パムだよ! いったい何言ったんだ?」 スージーは怪訝な顔をしながら、 「何かあったの?」 「彼女、独立しちまった」 あらあら。 「いいじゃない、別に。モメて出てったとかじゃないんでしょ?」 「あ、あぁ・・・それはそうだが。なんでも、作りたいギルドが出来たって」 「あら、それはむしろ祝ってあげるべきじゃない」 それはそうなんだが・・・としかめ面のギルメンにスージーが聞いた。 「でも、作りたいギルドって?」 「よく分からんが・・・奉仕で尽くす極EEギルドとか言ってたな」 ふぅん? まぁ、あの子には合ってるのかもしれないし。 自分の好みで決めるのが一番だ。 なりたい自分になれるように。 と、ふとなんとなく気になって 「ギルド名はなんてつけたのかしら?」 それを聞いた途端、ギルメンの表情が一変した。 とてつもなく不味い果物を頬張らされたみたいに。 そして、重い口を開いて・・・ 「ギルド“冥土喫茶”」 スージーQは無言で西の空を見ながら、ポツリと呟いた。 「・・・そっちの方向に逝ったか」 今日の夕日はやけに目にしみた。 スージーQはパメラにメールした。 「なむー」 返事がきた。 「なむありー」
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