短編小説っぽいもの
Welcome to this crazy time !! --
本編
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キャラクター紹介コメント
『Welcome to this crazy time !!』
〜プロローグ〜 「めんどくさいなぁ・・・」 ぶつぶつ言いたくなるのはCC2で瞬殺された直後だからだ。 他人のことを言えた義理じゃないけど、どうもDLの炎鎖を開始直後にっていうのは気に食わない。 “行け”のエモティは出ないように気をつけていても、二秒もたないなんてのは結構あるんじゃないだろうか? みんな。 だいたい、“ロード”といえば“公爵”とか“領主”とか、そういうお偉いさんのことだと思う。 っていうことは、“副社長”とか“支店長”とか“本部長”とか、そこらへんのおじさんみたいなものってことのはずだ。 戦争するときに後ろのほうでふんぞり返って腕組みしてるとかがスジっていうものじゃないだろうか? 本人が一人で乱戦に突っ込んで大暴れするなんて、いくらなんでも言語道断だと思うのだ。 お馬さんにでも乗って、ぬくぬくとお茶でも飲んでろと。 (ま、レベルが上がっちゃうよりはいいけどね) ため息を一つついて、自分を慰めてみる。 実際のところ、前のCCで上がった3ゲージを下げ忘れてたから、うっかりモンスを片付けすぎてたら危なかったわけで。 最初からCCキャラを作り直すことを思えば、今回は瞬殺されて良かっ・・・ 「なわきゃないって」 自分にツッコミ。 こんな馬鹿なことでも言ってないと、最近のMUはやってられないとも思う。 INするのはCCの前後だけ。 他のギルメンも同じだ。 どうせ普段INしたって、まともにPTできる人数の募集があるわけでもなし。 CC五分前にINして、CCが終わったら落ちる。 クエスト以外の時間なんて、昔に比べればゴーストタウンみたいなものだ。 だから仕方がない。 当然じゃない? むしろ、こうなるとうざったくなるのがCCキャラのゲージ処理だ。 サポを頼んで、楽しみもせずに一気に上げて作った、せっかくのCCキャラ。 制限レベルをうっかり越えようものなら泣くに泣けない。 (防具は全部脱いだし、AHアクセもOK) 準備完了。 てっとりばやく済ませてしまおう。 「上の出入り口は混んでたから、今日は左にしよっかな」 この時間、LTの広間と海岸、デビアス出入り口付近は急に混雑する。 同類さんだ。 どれも裸で、死ぬためだけに出てゆく。 レミングスのように、CC直後に起こる自殺シンドローム。 〜前編〜 「ねぇ、そんな格好でどこへ行く気だい?」 そう声をかけてきたのは、光ってもいないスケイル装備の羽ナイトだった。 緑に光る直前、スケイルは真っ黒な色になる。 背中にあるのはサタン羽で、武器はやっぱり光っていないグレサイ。 「は? あたし?」 「うん、そう。きみ」 「・・・っていうか、あんた誰?」 きっぱり見覚えがない相手だった。 リアルならナンパかと思うとこだけど、MUで初対面のこんな貧相なナイトに馴れ馴れしく声をかけられる覚えはない。 羽ナイトは芝居がかった仕草で、 「ぼくかい? ぼくは・・・悪魔さ!!」 「・・・」 「ちょ、ちょっとっ? ねぇ、きみ!」 無視無視。 時々いるのだ。 こういう、おつむがあったかくなった変なのが。 うかつに懐かれるとろくなことにならない。 目を合わさないように早足に・・・え? 「!?」 「無視することはないだろう?」 やれやれと言わんばかりのジェスチャー。 だが、問題はそこじゃない。 「あなた・・・さっきまで後ろに」 そう。 確かに後ろにいたはずなのだ。 MUの街中で走ることなんて出来ないから、物理的にあり得ない。 なのに、現に目の前に立ちふさがっている黒牛羽ナイト。 「ふっふっふー♪ これさっ」 と、貧相な黒いナイトの姿が一瞬消え、次の瞬間に少しずれたところに出現する。 「テレポっ?」 ここ、デビの中よね? 思わず見まわして確認する。 いや、それ以前に・・・ 「なんでナイトがテレポ・・・何なの、あんた?」 「さっき言ったじゃないか。悪魔だ、って」 「チート?」 「・・・最近の人間は“信じる”ってことを知らないんだからなぁ」 スケイルの角頭を振って、 「ぼくは悪魔だよ。あくま、AKUMA、サタンでデーモンでデビルで・・・お分かり?」 「お分かる」 わけがない。 だが、一つだけ分かったことがある。 こいつは普通のミュティズンじゃないってことだ。 チーターなのか、運営キャラなのかは分からないにしても。 「・・・で、何の用なわけ?」 愛想の無い口ぶりになったのは仕方が無いと思う。 ぶっちゃけ、このまま落ちたほうが良いのかもと思ってるくらいだ。 ゲージ処理は次のCCまでにすればいいわけだし。 「まず一つ目は、きみがこれから何をする気なのかってこと。自殺じゃないだろうね?」 「分かってるなら聞かなくていいでしょ」 何が言いたいんだか、この黒ナイトは。 「なら二つ目。ぼくはきみの自殺を止めに来た」 「・・・あぁ、そーゆー人なわけね」 やれやれ。 時々いるのだ。 こういう、「自殺までしてCCで稼いで何が楽しいんだ!」って連中が。 で、そういう主張をするだけならともかく、実力行使に出る馬鹿がいる。 マナーだモラルだと口にするくせに、横殴りしてでも自殺を止めようとするのだ。 本物の馬鹿じゃないかと思う。 妬み陰口なら見えないとこで好きに言えばいい。 はっきり言ってウザイことこの上ないし、会話にもならないヒステリー状態で行動してる連中だ。 でも、この怪しげナイトもその類だとしたら・・・ (落ちるか) 面倒になる前に。 変にまとわり付かれた挙句、それこそハックでもされたら堪らない。 「きみは日本人だろうから知らないだろうけどね、自殺すると天国に行けないんだよ?」 「・・・天国に行けなきゃ、どこに行くわけ?」 「もちろん地獄」 「あなた、何者だっけ?」 「・・・きみは記憶力がないのかい? ぼくはね、あ・く・ま、OK?」 キリスト教の教えなんて知らなくても、おかしいと思うとこがある。 「悪魔なら、地獄行きが増えたら嬉しいんじゃないの?」 そう。 普通、悪魔っていうと人間を誘惑するかなんかして、地獄に連れていくのが仕事なんじゃなかったっけ? 「嗚呼、それがそうじゃないのが今のご時世なのさ!」 また大げさに嘆く怪しげ黒ナイト。 おそらく、中の人はインカレとかで劇団にいたんじゃなかろうか。 「最近、MUでは自殺が急増してね」 「でしょうね。あたしもCCのたびにしてるし」 「おかげで地獄は超満員、これ以上来られたら困るんだよ」 あー・・・ 「で、自殺を止めに来たと?」 「そういうこと。そして、きみが記念すべき第一号なのさっ。ぼくのね♪」 困った。 真剣に困った。 こういう馬鹿設定でノリノリな変態は時々いるが、この怪しげナイトは中でも特別だ。 デビの街中で、そのうえナイトのくせにテレポするときた。 「ねぇ? 聞いていい?」 「ん。何でも聞きたまえ♪ ぼくに分かることなら答えるよ・・・不老不死にワンヒットキル、それに億万長者・・・」 「いや、そんなのじゃなく」 億万長者は気になるけど。 「あなた、なんでそんな貧相な格好してるわけ?」 「・・・ひ、貧相・・・」 おぉ、動揺しとる、動揺しとる。 少し傷ついたらしい。 意外に繊細な悪魔だ。 「悪魔ならさ、+13で揃えるとか、EXAA武器振り回すとか出来ないの?」 「あぁ、そういうことか!」 何やら嬉しげな自称・悪魔。 立ち直ったらしく、 「ふっふっふー♪ このスケイルの色とサタン羽、それにグレサイ・・・まさに漆黒の悪魔って感じだろう?」 やけに嬉しそうに話す。 どうやらご自慢の格好らしい。 ぶっちゃけ貧相な+5装備だが。 「あーあー、知ってる知ってる。マンガで読んだことあるわ」 たしか、沖縄出身のサムライが出てくる漫画だ。 「うん?」 「“黒=悪い”っていう馬鹿イメージでしょ、ようするに」 「・・・悪魔にはもう少し敬意を払ったほうが、きみのためだと思うな」 「自殺を止めようと説得して回ってる悪魔なんか怖くない」 きっぱりと言ってやる。 「・・・そりゃどうも」 どうやら気分を害したらしい。 悪魔のくせに器の小さい男だ。 出世しないタイプだな。 〜後編〜 「・・・で、いつまでついてくる気?」 自称悪魔の怪しげナイトは犬っころのようについてきた。 しかも、こいつがいるとモンスが寄ってこないのだ。 こっちから近づいていっても、モンスがタゲろうとする兆候が全くない。 すなわち、自殺不可。 こいつをダメ元でPKしてやろうかとも思ったが、カーソルが合わない。 ずるい、卑怯者。 「ねぇ、そろそろ諦めたらどうだい? もっと良い時間の過ごし方があると思うけどなぁ」 あんたこそマシな時間の使い方があるだろ、ゴルァ!! 何が楽しくて粘着してくるんだか・・・ 「もっと良い時間の過ごし方って、たとえば何よ?」 すると、じっと考え込む怪しげナイト。 考えてないんかい。 と、どうやら何か思いついたらしい。 嬉しげに顔を上げて、 「リアルで恋人作るとか♪」 その貧相な発想に乾杯。 んな簡単にホイホイ作れたらネトゲーなんて絶滅してるわよ! こういうことを言うやつに限ってフリーなんだ、間違いない。 「んじゃ、口説き文句を教えて」 「…は?」 「だぁから! あたしが彼氏作れるような口説き文句を教えてって言ってんの」 出来るもんならね、このストーカー黒牛ナイト。 「・・・」 何やら腕組みして考え込んでいる。 どうやら本当に考えてるらしい。 (こいつ・・・) 実は良いやつかもしれない。 変態だけど。 と、その変態が突然デビアスの方に走り出した。 「ちょっ・・・どこ行くのよ!?」 「酒場さ! すぐ戻る!!」 (・・・テレポすればいいのに) ひょっとしたら変態な上に馬鹿なのかもしれない。 だとしたら、かなり厳しい。 などと思っていたら戻ってきた。 「おかえり」 「たらいは」 「?」 「たっ、ただい、ま・・・」 どうやら息を切らしていたらしい。 「・・・」 「・・・」 「・・・もうだいじょうぶ?」 「あ、ありがとう」 いや、悪魔に感謝されても。 「じゃ、いくよ」 「はい?」 「いや、だから口説き文句」 そういえば、そんな話してたっけか。 「・・・どーぞ」 気合を入れているのか、何やら屈伸してる変態黒牛。 「いきます!」 「あい」 なにやらゴソゴソしたか後、ワインを取り出す。 これを買いに行っていたらしい。 それをグラスにつぎ、掲げる。 (こ、これは・・・まさか) 「あー」 お願い、あたしのためらいに気づいて。 だが、それは目の前の変態黒牛の能力を超えていた。 「きみの瞳に乾杯」 「・・・」 (・・・本当に言うとは思わなかった) 心なしか、デビアスの気温がさらに下がった気がする。 「・・・ど、どう?」 不安げな自称悪魔の黒牛。チーター疑惑あり。 「ごめんなさい、あたし・・・面食いなの」 「ガ━━━━━Σ(゚Д゚;)━━━━━ン!!」 ざまーみろ。 「おぉぉぅぅぅ」 予想以上にヘコんでいる。 「顔は、顔はぁ・・・うぅ、ひっぐ」 何か古傷に触れてしまったらしい。 えっぐえっぐ、と泣く自称悪魔さん。 (えぇっと・・・) 多少は気が咎めたが、かといって慰めてやる義理はないと思う。 「・・・」 「・・・」 「・・・」 「・・・まだ?」 「は?」 「いや、慰めてくれるのを待ってるんだけど・・・」 あたしは思った。 殺すか。 と、ふと疑問に思った。 「ねぇ」 「ん、なに?」 「人を傷つけるのって、悪いことよね?」 「もちろんさ! なのに、今きみはエーデルワイスのように清らかな僕の心を・・・」 そんなエーデルワイスは枯れてしまえ。 「傷つけた相手が悪魔でも?」 「とーぜんさ!!」 憤慨している自称悪魔の変態黒牛。 「ふーむ・・・」 「どうしたのさ?」 「ん・・・悪魔を傷つけても、やっぱ地獄に落ちるかなーと」 そんなあたしの疑問に、何やら驚いたような様子の悪魔(仮)。 「おやおや・・・驚いたね」 「なによ?」 「まだ気づいていなかったのかい?」 なにが? 悪魔を自称する漆黒装備のナイトは両手を広げ、「ご覧よ」といわんばかりに周囲に頭を巡らせて見せた。 「CCの時間しか人がいない、乾いた繰り返しの世界・・・」 爽やかな笑みが似合わないのだろう、彼は邪悪な笑みに唇を歪ませて言う。 宣告するように。 「ここが地獄さ」 そして、不器用なウィンクをしてみせた。
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