短編小説っぽいもの
あふあふ。 --
本編
『あふあふ。』
よぉ。 オレの名はエンペラー。 かっこいいだろ? マイのやつが付けてくれたんだ。 あぁ、そっか。 そうだ、初めに言っておかないとな・・・オレはレクスールハウンド。 性別は秘密、年も秘密だ。 で、飼い主様の名前はマイセン、オレはマイって呼んでるけどな。 もうどれくらいの付き合いになるだろう。 あいつと出逢った頃のオレはすっげーすさんでた。 やさぐれてた。 旅人とか、弱い奴を見つけては襲いかかってたんだ。 言っとくけど、動物の直感で相手を選んでるんじゃないぜ? ここだけの話だが、実は必ずシップ名をチェックしてた。 あれは重要な判断材料だな、うん。 所属ギルドで判断しちゃいけないってことだって知ってる。 そこらへん、オレの兄貴は甘かったんだよな。 「おい、お料理クラブがきやがったぜ」 そう言うが早いかシェルレランに襲いかかって、金バトハンで一発昇天した。 オレはそのとき、呆気にとられて一歩も動けなかったよ。 冒険者が表情一つ変えずに巨大棍棒を取り出して、ブンと振り回してさ、そしたらオレの兄貴がポーンって冗談みたいにすっ飛んでったんだ。 地面に落ちた兄貴は、それっきり二度と動かなかった。 何が起こったかオレの脳みそが理解したときには、その冒険者の姿は影も形もなかったよ。 それでオレは学んだ。 参考にするならシップ名だ、ってな。 なに? 野生の勘とかじゃなくてガッカリだ? おいおい、勝手なこと言うなよ。 オレらだって遊びでやってんじゃないんだ、命がかかってるんだぜ? そんな何となく感じた程度で命賭けれねぇよ。 ま、そんなわけでさ。 マイと出逢ったとき、オレはあいつのシップ名を確認したんだよ。 そしたらヘルパーだった。 包帯30のシップ名。 オレは思ったね、カモだって。 しかも、その青いハイキャス着た女の進行方向はオレの方だ。 即、襲いかかることにした。 グズグズしてたら通り過ぎちゃうからな。 逃げられるっていうか、通り過ぎる。 あれってどうなんだ? みんな、オレらがいる辺りって単なる通過点としか見てないだろ? オレらのこと、面倒な障害物程度にしか思ってなくね? あれ、すっげー悲しんだよな・・・切ないんだぞ、相手にしてもらえないっていうのは。 いや、だからって血も涙も無い冒険者が虐殺しにこられてもイヤだけどさ。 ともかく、オレは襲いかかった。 いやー、びびったね。 まさか一撃で殺っちまえるとは思ってなかったもん。 吹き上がる赤い滝を前に、マジかよって感じ。 ていうか、脆すぎだろ。 人間国宝かお前はってレベルの脆さだったな、あれは。 赤い滝が消えても、オレは目の前の倒れたヘルパーを眺めてた。 勝利の余韻にひたってたとかじゃないぜ? なんて言うかな、あっけなさ過ぎて呆然としてたに近い。 勝利することの空しさを感じたね、オレは。 今まで、何を求めて戦ってたんだろうって思っちまった。 どれくらいそうしてたんだろう。 ふとさ、気配を感じたんだよ。 あ、こいつの中身が戻ってきたなって分かった。 冒険者の連中ってさ、死んで終わりじゃないのな。 何度でも蘇ってくるんだぜ? ゾンビかよお前はって感じ。 なんていうかよ、生死のワビサビってもんがねぇよな。 死にました。 じゃあ生き返ろうか。 って・・・おいおい、軽すぎだろ! あれじゃ生命の大切さとか、そういうのが分かんないんじゃないか? あいつらきっと、生きるとか死ぬとか、そういうの他人事みたいに実感無い生き物なんじゃねぇかな。 兄貴を亡くしたときのオレの気持ちとか、それからのオレの気持ちとか、そういうのはきっと理解できない生き物なんじゃなかろうか。 あの頃のオレは、そんなことを思ったりしてた。 あ、脱線ごめん。 そうだ、気配を感じたって話の続きだった。 うっすらとヘルパーの霊体が見えて、自分の身体にかがむのが見えたんだ。 そのときもオレはまだ目の前でぼーっとしてたんだけど、なんか邪魔しちゃいけない気がして眺めてた。 そしたら、さっきまで死んでたヘルパーがむくっと起き上がってさ、自分に包帯巻き始めたんだよ。 その場でだよ? いや、まず逃げろよ! ツッコミを入れる代わりに、オレはガブっと噛みついてやった。 そしたらヘルパーは死んだ。 ・・・そりゃそうだよな。 やっぱりオレは空しくなって、ブラブラと散歩を始めた。 好きなんだよ、散歩。 他にすることもないけど。 オレたちの一日の大半は散歩で出来てる。 そう思うと、なんか風流な生き物だよな。 でもこの日は違ったんだ。 いつもならさ、風に舞い上がる落ち葉をみたら追っかけたくなるし、水溜りをみたらパシャパシャやりたくなる。 トンボ追っかけたり、アリンコの列をたどってったり。 そんな、いつもは楽しいことが全然楽しく感じられなかった。 オレはどうしちまったんだろう? 遠くの山を見ながら佇んでたら、突然何かに組み付かれた! 参ったね、油断してた。 油断しきってた。 まったく気づいてなかったんだ、背後から近寄られてることに。 野生の世界は厳しい。 たった一度の、ほんの少しの油断が命取りになる。 オレは死ぬのかって、そう思った。 それでも仕方ない、油断したオレが悪かったんだ。 でもさ、大人しく殺られてやることはないよな。 オレは組み付いてきた何かを振り払おうと大暴れした。 そしたら悲鳴が聞こえて、でもオレも必死だったからさ、そんなことには気づかないわけよ。 地面にごろごろ転がってたら、体勢が入れ替わったんだろうな。 目の前に人間の女の顔がドアップで見えて、オレは心の中で悲鳴をあげて固まっちまった。 いやびびんだろ、いきなり他種族の顔なんかが目の前に出たら。 うわって思ってたら、息を弾ませたそいつがオレの喉をわしゃわしゃやり始めたんだ。 状況を理解できずに目の前の顔を眺めてたら、それがさっきのヘルパーだってことに気づいた。 わしゃわしゃ。 何よ、これ。 心ならずもヘルパーの上に馬乗りになったまま、オレは首をわしゃわしゃされ続けた。 何がしたいんだ、こいつは。 体力が無いから息を切らしまくってたんだろうな、オレの下で激しく息を荒げながらヘルパーが 「き、きみ、野生のわんこなんでしょ」 なんて言う。 まぁ、わんこと言えばわんこだ。 「じゃあ、あたしと付き合おっか」 は? ていうか、なんで・・・じゃあ? 「付き合っちゃおう」 わしゃわしゃ。 まさか・・・これが噂に聞くテイマーか! 野生に生きるオレたちをペットとして攫っていくという、あの。 思ってたのと少し違うが。 想像してたのはもっとスマートなやり口・・・ 「おー、よしよし。こうしてあげると、わんこは喜ぶんですねぇ(byムツ〜)」 なんて言ったから、俺はとりあえずガブっと噛んでやった。 当然、ヘルパーは一発死した。 ・・・なんぞ、これ。 だが、今度は展開に変化があった。 赤い滝を吹き上げながら、ヘルパーが「ま、待ってなさいよっ」と言いやがったのだ。 いや、死んだら喋んなよ、おい。 なんつーか、こう・・・そこらへんはルールっていうかさぁ? 冒険者のやつらはほんと、やりたい放題だなと思うよ、まったく。 大自然のルールとか、諸行無常とか、そういうのは無いのかね諸君たち? まぁいいや。 赤い滝が止まっても、オレは言われた通りにそのままで待っていることにした。 従う義理はまったく無いんだが、こんなことは初めてだったから、すっかりペースを狂わされちまったっていうのかな。 たまには気まぐれもいいだろ? しばらくして、気配を感じた。 目を凝らすと、わりと近くまでヘルパーの霊体がきてるのがうっすら見えた。 が、そこから近づいてこない。 うろうろしてる。 ・・・。 大人しくそれを眺めてたら、霊体ヘルパーはおそるおそる近づいてきて、こともあろうに手をシッシッと振りやがった。 ひどっ!? 待ってろっていうから待ってたのに、なんだよその仕打ちは! なんだかひどく傷ついて、オレはあっちへ行くことにした。 少し離れた場所から眺めてたら、ヘルパーはかぁなぁり慎重な足取りで自分で身体に近づいて、それでもこっちをチラチラと見てやがるんだよ。 あぁ、もう! いいから死体回収しろよっ、待ってやるから! なんて世話のかかるやつなんだ・・・オレはもっと距離を取ってやり、待ってやった。 それを見たヘルパーは小さくガッツポーズをした後、いそいそと自分の身体にかがみこんで蘇生を始めた。 なんでオレはこんなやつを見守ってるんだ? そんなことを思いながら、ヘルパーの死体回収を眺める。 ・・・。 むくっ。 立った! ヘルパーが立った! ・・・なに、この喜び。 やばい、おかしいぞオレ。 オレが自分に戸惑っていると、節操無く生き返ったヘルパーがおそるおそる近づいてきた。 で、手を伸ばしながら何かブツブツ言ってやがるんだよ。 よく耳を澄ませたら、何て言ってるか分かった。 「こ、こわくない・・・こわくない・・・」 その言葉、お前にそっくり返してやりてぇよ!! 自分に言い聞かせている間はキツネリスと打ち解けられないだろう。 手が近づいてくる。 すっげー震えてんぞ、おい。 その指先が目の前まで来たから、オレは優しく少しだけカプッと噛んでやった。 って、おい! 甘噛みで即死かよ!? ・・・包帯巻いてなかったな、こいつ・・・。 誰か、このヘルパーにヘルプを呼んでやってくれ。 またもや目の前で吹き上がった赤い滝を見ながら、オレは観念した。 あばよ、野生の世界。 そしてごめんよ、兄貴。 オレは・・・この愛くるしいアホをほっておけない。 「あ、あたしはマイセン。マイって、呼んで」 やっとテイム成功したとき、日はとっぷりと暮れていて真っ暗、オレは彼女の表情を見ることができなかった。 声の響きから想像するだけだ。 ただ、多分・・・オレと同じような表情をしてたんじゃないかって、そう思う。 飼われる前から確信してたことだが、マイはテイマーとしてもヘッポコ性能な女だった。 まぁ、シップ名から包帯>調教なスキル構成なのは分かってたけどな。 そもそも、テイマーとしての知識も圧倒的に足りてなかった。 マイのFSメンから育成のオススメと教えられ、オレがパピーに連れてかれたのはタウント憶えたての頃だった。 ・・・Lv25くらいってことか。 ちなみに、マイは強化魔法やらなんやらなど取っていない。 それどころか、恐ろしいことに回復魔法すらなかった。 回復手段は包帯だけ。 もちろん、オレは一分ともたずに焼け死んだ。 だいたい瞬連DOTのブレス持ちに、3回攻撃を食らうと中断解除される包帯は無意味だ。 後で聞いたら、彼女は拗ねたように 「ブレスがこなかったらいけると思ったのよ」 と言った。 ブレスがこなかったら・・・いや、それパピー行く意味ないからね!? パピーが育成に向いている理由からして知らなかったらしい。 そんな飼い主様だったから、当然オレはよく死んだ。 いや、違うな。 よく生き、よく死んだ。 何度も何度も死んだけど、それ以上に「オレは生きてる!」って時間が一杯だったんだ。 オレは以前、こいつら冒険者は何度でも生き返るから、生命の大切さとかが分からない生き物なんじゃないかって思ってた。 けど、ちょっと違うかもと思うようになった。 こいつらが何度でも生き返るのは、まだまだ生き足らないって思うからじゃないだろうか。 こいつら、生きることが大好きすぎるんじゃねぇかって、オレは思うようになったんだ。 とんでもないやつらだ。 そして、オレもそんな世界で生きるようになっちまったんだ。 きっと、オレはもう野生には帰れないだろうと思う。 もう戻れないんだ、オレは。 心も、カラダも。 とことん変わっちまった。 例えば、そうだな・・・ペットになると腹が減るようになる。 野生だった頃にはそんなことなかったのに。 なんでだろう。 オレが思うに、生き物の身体と心は繋がってるんだ。 野生だった頃のオレは何も求めてなかったんだと思う。 あの頃のオレの心は何も必要としてなかった。 だから身体だって何も必要としなかったんだ。 けど、マイと暮らすようになって、オレはいつも一緒にいたいって思うようになった。 欲しいもの、生きるのに必要なものが出来ちまったんだ。 オレの心は求めることを知っちまった。 だから、オレの身体のほうもさ、求めるってことを知っちまったんじゃないかな。 ワケわかんねぇ? はは、そうかもな。 何言ってんだろうな、オレ。 パピーでオレが速攻で死んだ後、マイのFSメンの先輩テイマーが同行してくれた。 そいつは強化召喚回復なんでもござれの特化テイマーだった。 名前はフィエロだったかな、オレはいつもエロ野郎って呼んでるからうろ覚えだ。 FSのみんなからは好青年と誤解されてるようだが、オレには分かる。 あいつはマイに惚れてる。 下心があってマイに優しくするんだよ。 そうに決まってる。 だいたい、人間ってのは色情狂の集まりじゃないか。 オレたちみたいに恋の季節とか、そういう節度ってもんが無いんだぞ。 年中発情してさ、あいつらこそ去勢すべきだって! な、まずフィエロのやつを処置しちまうべきだ。 あいつは絶対、マイを狙ってる。 紳士なのは首から上だけだって! だからマイ、騙されるな。 あいつが他のみんなにも優しいのは、お前を口説こうとしてる役作りなんだよ。 芝居だ、芝居。 間違いない。 マイが入隊する前から人柄は変わってないなんて言ってたけどさ、みんなきっとあいつに頼まれてウソ言ってんだよ。 オレには分かる! そうに決まってる! だから礼なんか言うことないんだよ、あんなやつに。 嬉しそうに笑っちゃって、ちょっと頬を赤らめなんかしちゃったりとか、しっかりしろよマイ。 マイにはオレがいるじゃんか! そりゃオレのほうが足は多いけど、それでマイのことを格下なんて思ったりしてないぞ? 尻尾が無いのが残念とか、ちょこっと、すっごくチラッとだけ思ったことあるけど、でもそんなこと気にすんな! オレはずっと、ずぅっとマイと一緒にいてやるからさ。 な。 だからあんなやつは用無しなんだよ。 けっ、エロ野郎ざまーみろ。 ばーか、ばーか。 ・・・。 とまぁ、そんなエロ野郎でも一つだけ良くやったと言ってやってもいいことがある。 強化魔法やなんや、育成におけるBuffサポの重要性を実演してみせたことだ。 マイには驚きだったらしい。 ショックだったらしい。 あれ以来、マイも色んな魔法やら何やらを猛勉強し始めたんだ。 今じゃ押しも押されぬ立派なテイマーだけど、あの日がマイの・・・テイマーとしての原点の一つだったかもしれないな。 あのエロ野郎との育成狩りの後、オレと二人っきりになったマイは「今までごめんね」と言ったんだ。 オレを抱き締めながら、ちょっと泣いてたみたいだった。 ・・・くそぅ。 フィエロの野郎、やっぱり死ね。 とまぁ、オレとマイの愛の歴史を語ってきたわけだが、その1ページとして料理のことも話しておかなければならないだろう。 おい。 聞いてるか、お子様。 オレは隣りに立っているお子様に言ったが、いつものように返事は返ってきやがらないときたもんだ。 耳付き尻尾付きのお子様だが、最近マイが手に入れた新参ペットだ。 フィなんとかいう生き物らしいが、よく知らん。 分かっているのは、やたらめったら無愛想というか無反応というか無表情なのと、やたらめったら高額なペットだということだ。 少し前、マイは不思議な森で九尾なるブツを創ってきた。 オレも行ってみたかったんだけど、そこには入れないというので諦めたんだ。 まぁ、そういう場所があるらしいんだよ。 オレに言わせれば悪魔の森だけど。 あ、いや・・・これはオレの僻みだな、忘れてくれ。 うん。 で、そこで創った九尾っていうのが、やたらめったら高く売れたらしいんだな。 何本か創ったらしく、マイはあっという間に大金持ちになっちまった。 で、前から欲しかったらしい謎生物のお子様ペットと、護衛用にか凶悪な面構えのワイバーンを購入した。 おかげでオレは・・・って、いかんいかん。 また僻みになっちまう。 さらっと言っちまうと、最近のマイはすっかり新ペットのほうに夢中なんだ。 まぁ仕方ないよな。 マイのFSメンから聞いた情報だと、オレは“AF(笑)”とかいう成長型ペットなんだそうだ。 よく分からないが、そんな強くないらしい。 だが正直、そんなことは構わないんだ。 オレ、犬だしな。 わんわん。 普通、犬はドラゴンを倒したりしないもんだ。 犬ってそういう生き物じゃないし!? んで、ちょっと寂しいけど・・・やっぱ誰だって強い方がいいもんな。 最近はケイジから出ることも少なくなったけどさ、別に売り飛ばされようとしてるわけじゃなし。 だからな、オレは別に悔しくねーからな? おい、聞いてんのか、お子様。 お前を羨ましがってなんかねぇぞ、オレは! がうがう。 大体よ、お前が食ってるその・・・パクパクフード? ちょっと美味しそうだけど、いやいや、オレに言わせればそんなもんは大した食い物じゃないね! よし、お子様。 お前にオレとマイの愛の歴史、料理編を話してやろう。 なぁ、知ってるか? ローストオルヴァンミートは肉以外に塩が要るし、サイコロステーキにしたら醤油と大根おろしも要るんだ。 なんでオレがそんなこと知ってるかっていうとだな、えへへ・・・ マイはな、育成で倒した敵の肉をオレのために必ず料理してくれたのさ。 最初の頃はさもしい食生活だったな。 来る日も来る日もナマ目玉焼きでさ。 名前は目玉焼きだけど、卵で作る目玉焼きと違ってタンパク質とか足りてないんだよな、あれ。 材料なんか、ズバリ目玉だし。 でもさ、オレが倒せる敵が多くなるにつれ、マイが作ってくれる料理も増えていったんだ。 そういえば、最初は料理の腕もヘッポコだったなぁ、マイのやつ。 マイの作った“お握り”を見たとき、俺は熊肉も使ってないのに“ケモノのお握り”が出来たのかと思ったね。 どんな豪快な握り方だよって代物だったぞ、あのお握りは。 本人は「ソウル オブ ヤマトが無いからこうなったの」って言ってたけど、原因はそこじゃないと思う。 絶対。 ていうか、お握りの必要素材にソウル オブ ヤマトは無いはずだ。 彼女が料理長にランクアップしたら、オレはきっとシレーヌに警告するだろう。 こいつ、オリエンタル料理って言って、シンプルな日の丸弁当を出しかねない女ですよって。 あの豪快お握りはそれだけの説得力があったね、うん。 機嫌が良いとコロッケやらが丸ごと入ってる、ごっついお握り三個が愛妻弁当の話を思い出したよ。 神去村なあなあ・・・いや何でもない。 とにかく、マイの料理はオレとの愛の歴史なんだよ。 初めてヤングオルヴァンを倒したときとか、あれは感動したなぁ・・・塩切らしてて、料理できるまであちこち走り回ったけど。 でも、あのステーキは最高だった。 マイが料理してくれるまで、オレは空きっ腹を抱えて大人しく待ったよ。 ジュージュー美味そうな音を聞きながら、香りでだらだら涎たらしそうになりながら、オレは紳士に“待て”の姿勢を崩さなかったね。 いいか、料理ってのは愛情なんだよ。 料理なんてさ、食っちまうのはあっという間だろ? そのパクパクフードの名前の通り、パクパクっと終わっちまうよな。 でもその数分のために、何時間もかけて料理する。 愛だろ、愛。 これが愛でなくて何だろうさ。 え? どうよ。 料理の間、オレはキッチンの横で忠犬の如くお座りしてたのさ、何時間でもな! ・・・料理に失敗して、肉を採り直しに育成狩り再出発っていうことも多かったけどさ。 でもな、そういうときでも彼女は決してオレに出来合いの物を食わせたりしなかったんだぜ。 へへ。 オレが狩った肉を、マイが料理する。 それがオレたちのルールだったんだ。 ま、まぁよ・・・お腹が空き過ぎて、そこらの露店の肉でもいいから食べたいって言いかけたことはあったけどな。 たまぁにだぞ、たまに! すっごくたまにだった、うん。 お子様、お前・・・なんで疑うような目をするんだ。 とにかくさ、マイの料理の腕は、オレとの愛の歴史そのものと言っても過言じゃないわけよ。 バイソン肉なんかステーキ各種、メンチカツに肉じゃがスキヤキ、ハヤシライス・・・果てはパスタまで全部味わったペットはそうはいないね。 ・・・肉じゃがとスキヤキ食ったときは、ネギ入ってたせいで死にかけたけど・・・。 パクパクフード? はっ! 馬鹿言っちゃいけねぇな、お子様よ。 そんなもの・・・そんな・・・そ、そうか? じゃあ、一口だけ・・・って、おい! やめろ、オレを誘惑するなっ。 レッドスープ? あぁ、あれか・・・「指が要るの、今度の料理には」ってマイが言い出したときには、オレも警察に直行しようかと迷ったな。 指はおかしいだろ、指は。 絶対に料理に使うべきものじゃないよな・・・血や骨の破片も入れてグツグツ煮込むって、ほんと人間って生き物は・・・えぐいね。 マイのやつ、まだAFKか・・・。 露店AFKしてるマイの前でため息をつくオレ。 店の前にはオレと並んで、フィなんとかのお子様がいる。 ちなみにワイバーンはケイジの中だ。 ビスク木工広場っていうのか? 周りにはいくつか同じような露店があるが、どれもAFKで当面の話し相手はお子様しかいないっぽい。 ちぇっ。 なぁなぁ、お子様。 もっと愛想良く、子供らしい無邪気な感じとか出来ねぇ? 女は愛嬌だぞ、愛嬌。 ぬぅ。 聞いてるのか聞いてないのかの判断さえ至難の技だ。 やれやれ。 オレは嘆息し・・・ふと桟橋の方に目をやった。 ラスレオ大聖堂へと続く大桟橋だ。 あまり良い場所選びとは思えないが、青っぽい露店も一軒見える。 下の方に目を落とせば、ずっと手前、海へと繋がる水辺には釣り人が数人たむろしている。 釣りか。 ちょっとだけ、人間の二本の腕が羨ましくなる。 オレもしてみてぇなぁ、釣り。 魚を釣ったら、また前みたいにマイは料理してくれるだろうか・・・ そんなことを考えながら眺めていたら、釣り人たちが騒ぎ出した。 お? なんだなんだ? 一人が釣竿を投げ捨て、魔法を唱え出すのが見えた。 と、反対の端っこにいた釣り人が・・・げ! マジか。 そいつが釣り上げたのは魚人だった。 イクシオンウォーター。 通称、イッチョン。 釣り上げられたイッチョンは怒りに任せ、釣り人に飛びかかり・・・あっという間に赤い滝が吹き上がる。 戦闘職にとってはそこそこの敵だが、釣り人にとっては致命的な猛獣に等しい。 だが、一人が襲われている間に先ほど詠唱を始めていた魔法が発動し・・・あ? ちょ、おい!? ここでテレポかよっ! 走って逃げなかったあたり、ひょっとしたらレイジンガーだったのかもしれない。 だがまぁいずれにしろ、頼りにならなかったことおびただしいガッカリさんだ。 嫌な予感がするなぁ。 おい、お子様。 動くなよ。 マイがAFKのオレたちにイッチョンは荷が重・・・って、来たよ! 来ちゃったよ! マジか、くそぅ。 イッチョンが蟹股でノタノタとこっちに近づいてくる。 どうする? どうするっ? 見回してもビスクガードの姿は無く、目に入るものといえばAFK露店ばかりだ。 こんなときに限って、通りすがりの冒険者もいやしない。 選りにも選って、こっちへ一直線に近づいてくるイッチョン。 だが、やつが見てるのはオレじゃなかった。 その視線の先にいるのがマイであることに気づいた瞬間、オレはやつに飛びかかっていた。 テイマーを目指す諸氏にくれぐれも言っておきたい。 オレたちペットは、支援Buffのあるなしで強さが全然違うってことを。 桁違いってほどじゃあ、ない。 だが、その差が致命的になる戦闘っていうのがあるんだ。 そして、今がまさにそれだった。 ヤングオルヴァンも倒したこのオレだが、正直言って・・・勝てる気がまったくしねぇ・・・。 オレは飛びついて噛みつき、やつは両手を振り上げて襲いかかってくる。 命中率や回避率は拮抗しているんだろう、お互いに運次第といった当たり具合なのだが。 タフさが違った。 違い過ぎた。 そのことは数発のやりとりですぐに分かった。 だってよ・・・こいつ、当てても当てても全然ゲージが減ってないんだって! イッチョンのタフさは話に聞いていたが、これは洒落に・・・って、おい!? 視界の端で、お子様がイッチョンの背中に飛びかかるのが見えた。 馬鹿かっ、てめぇ!! オレはお子様を突き飛ばすように割り込み、遠吠えを上げて威嚇、注意をひきつける。 はぁはぁ・・・お子様、よぉく聞いとけ。 お前は戦闘に参加すんな。 絶対にだ。 いいな? お前、まだろくに育ってないだろ。 今の強さじゃ、あっという間に殺されっちまうぞ。 へっ、別にお前を心配してんじゃねーよ。 勘違いすんな・・・マイのためだ。 お前がうちに来たときさ、あいつ本当に嬉しそうだった。 あんな笑顔、オレはもう随分と見てなかったよ。 お前はなぁんにも気づかずにだけどさ、オレができねぇことをあっさりとやってのけちまったの。 へん、別にそんなショックでもなかったけどよ。 ん・・・ちょっとウソ。 いつからだろうな、ケイジから出すたびにオレに名前を付け直すのが少なくなってったのは。 ほら、今もレクスールハウンドのままだろ。 はっ、よせよ・・・お前に気を使われるなんて、オレは死にたくなっちまうぜ? そうだな、今はお前も名前そのまんまだ。 露店中だっただけだもんな。 でもよ、昔は狩りだけじゃなくって、いつだってオレに名前を付けてくれてたんだ。 エンペラーって。 あー、思い出すなぁ・・・パピーで速攻死んだときなんか、どう考えてもマイが悪いじゃんか? なのにオレの名前、“えんぺらー”とか平仮名に直しやがってさ。 ひどくね? ははっ。 でもさ、平仮名でも・・・いってぇっ!? 空気読まない魚人だなっ、おい。 あ、お子様、馬鹿。 駄目だ、お前は攻撃だけじゃねぇ、回復だのの支援も禁止! お前はまだ知らねぇんだろうが、この世界には回復ヘイトってもんがあってだな。 オレに回復魔法かけるだけでも・・・って言ってる端からかけんな!! 心配すんなって。 ほら、オレこないだ“ペロペロ”覚えたんだよ。 なっ? ほぉら、ペロペロ、体力ちょこっとだけど回復ー。 って、聞けよ! ちょ、しかもよく見たらお前これアンチドートじゃねぇか・・・おいこら、あ゙? ヒーリングまだ覚えてないんなら、背伸びせずに黙って見てろ。 は? 消毒? 化膿止めって・・・要らんわっ、そんなアンチドート! だぁっ、無表情のままで破傷風の恐ろしさを朗読すんな!! いいから、今回だけはオレに任せとけよ。 お前の気持ちは分かる。 だがそれはとっとけ。 いつか、お前がもっと成長してから使え。 いや、持ち続けろ。 そうすりゃ・・・マイが喜ぶ。 たくさん笑うよ。 お前がきたときみたいに。 ふん、まぁ見てろって。 いくぜ、イッチョン。 こっからは・・・漢の世界ってやつだ。 でも逃げ回るけどな、オレ。 いや、しょうがねぇだろ。 真正面からやりあったって勝ち目は、まず無い。 それが現実だ。 ならどうするよ? とりあえず・・・こいつをマイから引き離す。 オレが使えるアドバンテージは何だといったら、やっぱりタウントだろう。 まず距離を取る。 殴られない程度の距離をあけて、タウントで引きずり回すんだ。 ここで誰かが通りがかるまで引きずり回すのも手だけどさ、オレだって途中で死んじまうかもしれない。 それを考えると、このままどんどんマイから離れるのが重要だろう。 あー・・・くそっ、オレってこんな弱かったか? マイを守るためだってのに、どんどん離れてくのがすげー・・・なんか・・・って、弱気になんなオレ! だいたいよ、オレが死んだってマイはもう・・・きゃうんっ!? こ、こいつ、魔法まで使えんのかよ! やばい、無理だ。 引きずり回すだけで何とかなると思ったが、甘かった。 そんな長くはもたない。 けどよ、こいつのフリーズでつまんねーこと考えてヘコみかけてたのに目が醒めたぜ。 希望が無くなったら、次に出てくるカードは覚悟ってやつさ。 オレは全力で距離を取りながら、こいつがはぐれない程度のスパンでタウントをかまし続ける。 そうして移動する。 目標地点はあの大聖堂への桟橋だ。 中央アルタ前にいけば誰かいそうなもんだが、露店が多すぎる。 冒険者がいなかった場合、大惨事になりかねない。 駄目だ、マイにどんな迷惑がかかるか分かりやしない。 だから、ここは他力本願はきっぱり捨て、最短ルートで桟橋までこいつを引っ張り込む。 オレの命が尽きる前に。 期待はしてなかったが、桟橋に来るまでの壁沿いに冒険者はいなかった。 だが、思ったよりオレの方もHPを削られずにここまで来れた。 これならいける。 助かるぞ、オレ。 桟橋の奥の奥まで行って、そっからオレは飛び降りるんだ。 目標を見失ったイッチョンは彷徨い出すかもしれんが、大聖堂前に露店はNPCだけだろう。 奥の方から飛び込めば、上手くいけば大聖堂前で固まってくれるかもしれない。 後はそこへやってくるだろう冒険者に任す。 オレはタウントの遠吠えを繰り返しながら、桟橋を奥へ奥へと駆け続ける。 ・・・。 嗚呼。 ちっくしょう、マジかよ。 そういや、いたよな。 オレ、さっき下で思ったじゃんか。 桟橋の上、場所選びが良いとは思えない青っぽい露店が一軒って・・・あの露店、AFKじゃないって可能性は無いかな。 無いよな。 あぁ、もう。 ・・・。 ・・・仕方ない、死んでもらおう。 オレは頑張った。 オレなりにすっげー頑張った。 いいだろ? 仕方ないじゃんか、AFK一人くらい犠牲にしたって。 そんなこと考えながら、オレは桟橋の奥まで走って、立ち止まった。 そして、AFK露店を見て呟く。 ウソだろ・・・勘弁しろよ・・・。 そのAFK露店は青いハイキャスを着てた。 最悪なことに、オレと出逢った頃のマイと同じ髪型と顔型で・・・そんで同じ青いハイキャス。 ありえねぇだろ。 神さま、あんたサイテーだよ。 オレがここで残ったって、結果は同じさ。 オレが死んだ後、この露店も殺される。 つまりさ、オレが逃げても戦っても、どのみちこいつは殺されちゃうんだよ。 ほんと、最悪だよ。 サイテー、サイアクの日。 それがこのオレ、エンペラー最後の日ってわけだ。 馬鹿だと思うけど・・・今のオレにはもう、他に無いからさ。 うん。 オレはもう要らない子かもしれないけど、残った思い出だけは裏切れねぇよ。 じゃあな、マイ。 オレは吠える。 オレは襲いかかる。 そして、オレは死ぬ。 AFKから戻ったマイセンは眉をひそめた。 看板というわけではないが、一人露店だと寂しいので出しておいたペットの1匹のHPゲージが0になっている。 「やだ、なんで?」 FSチャットだったため、呟きに仲間が反応してくる。 「どったの、マイセン?」 「サンシャインでもされたか?w」 まれに、買取露店で予想を遥かに凌駕する品物を放り込まれることがある。 通称、親方サンシャインと呼ばれている。 が、今回のマイセンは売り露店なので当然そんなはずはない。 ついでに言えば、売り物もほとんど売れていない。 「ううん、そうじゃないの。うちの子が・・・死んでるみたいなの」 「mjd?」 「マイセン、露店してたんでしょ? まさか戦闘地帯で?」 「違うわよ。ビスク中央のもっこす広場・・・」 木工の生産設備がある関係で、木工師の愛すべき称号もっこすの広場と呼ばれることが多い場所だ。 アニマルケイジや弓などを売っている露店が多いが、まれに公式イベントで黒い研究員が配置される広場としても有名である。 「ふぅむ。戦闘ログを見てみたら分かるかもしれないね」 「戦闘ログ?」 ピンとこなかったらしく、フィエロに聞き返すマイセン。 「そこだと稀にイッチョンが暴れることがあるから・・・大抵は釣り人が責任を持って倒してくれるんだけどね」 「で、でも、それならAFKしてたあたしも死んでそうじゃない? フィニュの方は元気にいるし・・・」 と言いながらも、マイセンは戦闘ログを呼び出した。 「あ・・・ほんとだわ。あの子、いっちょんと戦ったみたい」 愕然としてログに見入る。 「へぇ? マイセンが無事だってことは勝ったんだ?」 「さっき死んでるっつってなかったけ」 「あ、そか」 仲間たちの会話を聞きながら、ログを追っていく。 なんで? あの子・・・ 「イッチョンは何気に強いからね・・・HPは300か400はあったんじゃないかな」 そんな。 無理だ。 あの子、その半分もHP無いのに。 マイセンの目に入ってくるログ情報は、フィエロの言うイッチョンのHPを聞くと絶望的に過ぎるものだった。 夢中でログをスクロールさせていく。 その最後は唐突に切れていた。 なんで! 「あの子はイッチョンを倒してない」 ログを見る限り、最後の方に至ってはまともにダメージも与えられずにタウントばかりが目立つ。 「でもマイセン無事だったんだろ? フィニュも」 「んだ」 「なんでよ?w」 なんで、なんで・・・ 「あ、通りすがりの誰かが倒してくれたんじゃね?」 「それだ」 「でも・・・」 でも、ログのどこにも誰かがイッチョンと戦っている様子は無いのだ。 「ログ、最後の方どうなってる?」 「わかんない。無いのよ、途中で切れてて・・・」 「途中でてw」 「うぅん・・・ログに記録される範囲から外れただけじゃないかな。近くに、ペットの、その・・・倒れてないかい?」 少し言葉を選びかねた様子のフィエロに言われ、マイセンは周囲を見回した。 だが、視界に入る限り、どこにも彼女のペットの姿は無い。 「いない・・・なんで!」 「そう言われてもw」 笑える気分ではなかった。 何故だろう、彼女はとても不吉な、何か取り返しのつかないことをしてしまったような気分に襲われていた。 ただ、ペットが死んだだけなのに? あの子は死んでる。 けれど、誰かがイッチョンを倒してくれたんじゃない。 それなら近くにあの子だっているはず。 なのにどこにも見えない。 これじゃまるで・・・まるで・・・あの子が、ここから引き離・・・ そう考えて、彼女は首を振る。 ありえない。 ペットの行動の仕様上、ありえない想像だった。 でも・・・ 「いない・・・ねぇフィエロ、どうしたらいい? あの子の場所、どうやったら・・・」 「そんなコマンドがあった気はするけれど・・・すまない、憶えてない」 「あー、なんか方角だけ分かるとかじゃなかったっけか」 「てかさ、SB引き寄せでいいんじゃね?」 「デスペナあるけど・・・マイセンのペットのレベルくらいならそれで良い気もw」 「一番高いのでもワイだっけ?」 だが、彼女はイヤだ、と思った。 理由は、無い。 無いけれど、それじゃ駄目な気がした。 確認しなければいけないことが、自分で知らなければいけないことがある気がした。 だってあの子は・・・そんなはず、無いと分かっていても。 「そうだ、この子にサポさせれば・・・」 傍らのフィニュに気づいた。 「?」といった具合に、小首をかしげてこちらを見上げてくる。 「あ、フィニュ?」 マイセンは“かかれ”を命じる。 「動かない・・・なんで?」 なんで、なんで! 「・・・死体をタゲにサポってできたっけか?」 動け、動いて。 「いや・・・多分、無理だったと思う」 動きなさい、動くのよ。 「うん、支援対象が死んだたら戻ってきた気するもんな」 マイセンは叩きつけるように叫んだ。 「いいから・・・動きなさいよっ!!」 フィニュがびくっとしたように身体を震わせ、彼女を見上げた。 ・・・もちろん、たまたまであったろう。 決まっている。 そんなはずはなかった。 だが・・・ 「無茶言うなよw」 「落ちつけ、落ちつくんだ」 仲間たちの声など聞こえていなかった。 マイセンの目が見開かれ、そして彼女が叫ぶ。 「動いた!!」 彼女は自分が泣いていることに気づいていない。 泣きながら笑ったことにも気づいていない。 「ぶw」 「まじっすか」 「・・・不具合の多い日だね」 そんな仲間たちの反応など、もうどうでもよかった。 ただ、必死にフィニュの後を追う。 「動いた! 動いた!」 そう叫びながら。 フィニュの移動速度にやきもきする。 彼女はせきたてる。 早く、早く。 急いで、急いで。 声に出していたなら、仲間たちはこう言うだろう。 いや、今さら急いでもw そうかもしれない。 自分が目にするあの子は、もう生きて、ない。 けれど! 「この子についていけばいる・・・エンペラーがいる・・・」 無意識の呟き。 「エンペラー?」 「死んでるペット?」 「ワイじゃないだろうし、フィニュも生きてるってことは・・・あー、なんか犬いたっけ?」 「あれかw」 そうよ。 彼女は怒る。 それよ。 彼女は毒づく。 なんか、いた。 彼女は自嘲する。 その程度の扱いの子。 彼女は泣きそうになる。 そんな扱いをしていた子。 彼女は・・・彼女は・・・ あたしは、いつの間に・・・ 「へー、あの犬に名前あったんだ?w いっつもデフォルト名だったから・・・」 呼吸が止まった。 身勝手な感情が身体を突き抜けた。 その衝動のままに、彼女は怒鳴り声を叩きつけた。 「あるに・・・決まってるでしょっ!!」 彼女の顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。
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