短編小説っぽいもの
日常を侵食する非日常 --
本編
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キャラクター紹介コメント
『日常を侵食する非日常』
〜プロローグ〜 「ジャムちゃん、今日の狩りにナイトを一人追加してもいい?」 矢を買いに行きかけたわたしを呼び止めたのはマリエルさんだった。 彼女はとても綺麗なエナエルフさん。 お淑やかで、落ちついていて・・・でも凛々しい彼女と一緒にいるのがわたしは好きだ。 回避エルフのわたしには無い魅力ばかりをもっているマリエルさん。 彼女の隣りにいると、ほんのわずかな妬ましい羨望とともに、わたしまで誇らしいような気分になる。 まるで姉のような存在。 「あ、いいですよ^^」 マリエルさんの連れてくる人なら安心。 そう思っていた。 でも、それは間違いだった。 〜前編〜 「初めまして、とんこつポタージュです」 そう挨拶してきたのはハイオン&アプルナスのナイトさんだった。 (うわー、トカゲ装備さんだ) しかも、輝きからして+9ALL? よく見るとギルドも超有名ギルド、城主にもなってたんじゃないだろうか。 さすがはマリエルさん・・・こんなゴージャスなナイトさんと知り合いなんて。 「はじめまして♪ 今日はよろしくおねがいします^^」 とにこやかに挨拶したものの、平々凡々な装備のわたしとしては気後れしていたり。 誤魔化すようにマリエルさんに質問してみる。 「マリエルさんのお友達なんですか?」 「彼、わたしのリアルのお得意さまなの」 (マリエルさん、社会人だったんだ・・・) 彼女に憧れる大学二回生としては、二年後にはわたしもマリエルさんみたいな・・・などと思ったり。 が、そんなわたしの清らかな微笑ましい空想は、とんこつさんのセリフで木っ端微塵に粉砕された。 マリエルさんに向かって、とんこつさんが 「準備終わりました、マリエ女王様」 なんですとっ!? (い、今なんて・・・?) と、いつもと同じ声音で、それなのにわたしの知らないマリエルさんが言った。 「女王様はおやめなさい」 そして、なんでもないように続けた。 「マリエ様でいいわ」 (Σ) 「はい、マリエ様」 (え? え?) 「これからは気をつけなさい」 「はい、申し訳ありません。マリエ様」 このとき・・・ 自分の日常を侵食する非日常を感じ、わたしは恐怖した。 〜中編〜 8月28日。 それは、わたしの憧れるエルフさんの中の人がSM女王様だと分かった日。 職業に貴賎無しとは言うけれど。 まさか、SMクラブ勤務だったとは。 それもS。 ・・・Mだったら良いってわけじゃないけれど。 (Mのマリエルさん・・・?) あ、鼻血が。 Σはっ。 違うっ、わたしまでヘンに・・・落ちつけ。 落ちつけ、わたし。 自分を見失うんじゃない。 すーはー、すーはー。 うし。 モー。 (ダメだ・・・わたし、動揺しまくってる・・・) 憧れだったのだ。 しっとりと落ちついた、でも頼り甲斐のある姉のような人だった。 そう思っていたのに。 “お姉様”と“女王様”じゃ大違いだ。 (マリエルさんが・・・わたしの、わたしだけのお姉様?) あ、また鼻血が。 「ジャムちゃん、大丈夫? 顔色が良くないわよ?」 いえ、大丈夫です。 ただの貧血です。 「ここ、暑いものね」 そう言いながら、髪をかきあげるマリエルさんは相変わらず絵になっていて。 一時、ここが砂漠だということを忘れそうになる。 わたしと話すとき、マリエルさんはいつもと同じだ。 それはとんこつさんにも言えることで、わたしに話しかけてくる彼は普通のナイトさんに見える。 なのに、とんこつさんとマリエルさんの間の会話は違う。 それがわたしを動揺させる。 PTを組むときも・・・ 「それじゃあ・・・とんこつさん、頭お願いできますか?^^」 そんなわたしの無邪気な提案に、 「私如きがそんな、畏れ多いことは・・・」 とんこつさん、こっちを向いて下さい。 なぜ、提案したわたしじゃなくてマリエルさんのほうを向いてるんですか。 しかもプルプルしてるし。 でも、戦闘前の武者震いだと信じてます、わたし。 「じゃあ、わたしが頭をしてもいいかしら?」 はい、マリエ女王様。 そんなこんなでPTを組み、三人で狩りにきたのはタルカン。 目的地はデスビ部屋だ。 気合いを入れないと危険な狩り場。 落ちつかなくては。 さっきから(*´Д`*)ハァハァ聞こえるのは錯覚に違いない。 そうだ、そうに決まってる。 そうですよね、とんこつさん。 鎧兜、暑そうですもん・・・だから息が荒いだけですよね。 「とんこつさん、もうすぐデスビ部屋ですけど・・・大丈夫ですか?」 「は、はい、マリエ様・・・ハァハァ」 いえ、聞いたのはわたしです。 だからこっちを向いて下さい。 マリエルさんのほうを向いている時のとんこつさんは、そこはかとなく息が荒い。 わたしと話すときは普通なのに。 そのギャップが一層わたしを怯えさせる。 「あ」 タルカン砂漠の奥にある細道。 この先にあるのは通称・デスビ部屋。 デスビームナイトが棲まう、砂漠の魔物たちの巣窟。 先頭を切って進もうとしたマゾナイトとんこつさんを、静かにマリエルさんが呼び止めた。 「お待ちなさい」 「はい、マリエ様」 素直なとんこつさん。 「脱ぎなさい」 なんですとっ!? (ま、ままままマリエルさんっ!?) 今からデスビ部屋に行くんですよね? 狩りですよね? 危険ですよね? パニック状態のわたしをよそに、従順に防具を脱いでいく(元)ハイオンナイトとんこつさん。 「羽もよ」 (Σ) なんという勇者だっ!! まずいです。 いくらなんでも危険です。 マリエルさん、とんこつさんを殺す気ですか? たぶん良い人なのに・・・ま、マゾなだけで・・・ 〜後編〜 わたしを待っていたのは地獄絵図だった。 数え切れないほどの砂漠の魔物たち。 荒れ狂う炎の渦。 その中を・・・羽無し防具無しで逃げ惑うナイトとんこつさん、レベル273。 いや、逃げることは許されなかった。 「わかっているわね?」 「は、はい、マリエ様」 「お逝きなさい」 とんこつさんは星になった。 流星だ。 一筋の流れ星だ。 しょせん墜ちる運命にあるがゆえに、一際大きく輝く生命のあがきだ。 そういえばルパンも言ってました。 男には自分の世界がある。 たとえるなら、空を駆ける一筋の流れ星。 そうなんですね。 これが男の、漢の生き様なんですね。 わたし、理解は出来ないけど応援しますっ。 もののけ姫も言ってました。 生きろ。 そうです、とんこつさん。 生きて・・・生きてください。 そんなわたしの祈りと別に、わたしの知らないマリエルさんの声が響く。 「とんこつポタージュなんてお似合いの名前ねっ、このブタ!!」 ひどいです。 それはあんまりです、マリエルさん。 すごくすごく頑張ってるじゃないですか、とんこつさん。 (あ。とんこつさんのゲージが赤く・・・) とんこつさんが死にそうです。 マリエルさん、ヒールを・・・ 「おまえにあたくしのHはもったいないわっ、赤をお拾い!!」 そんなっ。 っていうか、ヒールをHと略すのはおやめ下さい。今日この場だけでも。 哀れな・・・文字通り死に物狂いで赤を拾い集める元ハイオンナイトさん。 もうわたし、涙で前が見えません。 「あら・・・あたくしの赤を何も言わずに拾うなんて、まだ自覚が無いようね?」 鬼ですか。 「なんとかおっしゃい!!」 落ち着いて下さい、チャット死します。 とんこつさん、まず赤を飲んで・・・ 「ありがとうございます、マリエ様qqq」 久しぶりに見ましたよっ、qqq死! っていうか、“マリエ様qqq”を声に出すとノリノリなリズムなこと発見トリビア。 GoGoGoみたいで。 とんこつさんは戻ってきた。 異世界の英雄ガトーのように帰ってきた。 その瞳は、愛してやまない主君を守ろうとする決意に燃え、闘志を失っていない。 いや、訂正。 その瞳は、愛してやまない女王様に尽くそうとする本能に萌え、理性を失っている。 違うっ。 こんなの、わたしの求めていた冒険じゃない。 違う新世界。 演じたかった違う一面、感じたかった違う世界。 それで始めたMMO。 でも、求めていたのはこんな新しい世界じゃない。 断じて違・・・ 「あら、あたくしにタゲが一つ・・・これはどういうことかしら?」 どれだけのモンスがいると思っているんですか。 だが、そんな常識的な意見はこの場に通じない。 「も、申し訳ありませんっ」 すっ飛んでくるとんこつさん。 密集した群れから、マリエルさんをタゲっている一匹を正確に捉えてタゲを奪う。 この人、ひょっとしてめちゃくちゃ上手いんじゃないだろうか。 ま、マゾだけど・・・ (いいえ、違うわ!!) わたしは逃げた。 真実から逃げた。 とんこつさんはマゾじゃないし、凄い上級プレイヤーさんなのだ。 歴戦の猛者なのだ。 そう、マリエルさんだって憧れのEEさんだ。 そんな素晴らしい人たちが死力を尽くし、世界を脅かす魔物たちを討伐しているのだ。 わたしは今、その場に立ち会っているのだ。 そうに違いない。 動揺するな。 惑わされるな。 むしろ誇りに思わなければ・・・ あぁっ、とんこつさんのノックバックの呻き声が!? (Σしかも、マリエルさん・・・それを見てぞくぞくしてるっ?) い、いやぁぁぁぁぁぁ・゜・(ノД`)・゜・ 〜エピローグ〜 「ジャムちゃん・・・ジャムちゃんっ」 「Σはっ!?」 「あ、起きた? 大丈夫?」 わたしを覗き込んでいるのは、心配そうな顔をしたマリエルさんだった。 「ま、マリエルさん」 「嫌な夢でも見たの・・・ひどい顔色よ?」 ゆ、夢・・・? 「あ、そうそう。ジャムちゃん?」 「あ、はい?」 「今日の狩りだけど・・・」 どくん。 心臓が跳ね上がった。 「ナイトを一人・・・」 い、いやぁぁぁぁぁぁ・゜・(ノД`)・゜・
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