『ダイアロス考古学。(PresentAge2000年後にて)』 |
【PresentAge から3000年後の浮遊都市バハにおける“魔王の時代”の1000年前。 すなわち、PresentAge より2000年後。 著名学者らによる“ダイアロス島の考古学”の座談会が催された。 以下は、そのやりとりを翻訳記録したものである。】 「やぁやぁ、皆さん。ようこそ、“ダイアロス考古学座談会”へ」 「こんな場に呼んで頂けて、本当に光栄です」 「いやまったくだよ。是非、実りの良いものにしたいものだね」 「賛成ですわ。特に今は“ダイアロス考古学”こそが旬ですもの」 「あぁ、去年発見された“バハへの手紙”だね? あれは世紀の大発見だよ」 「あれによって、Present1世紀には既にダイアロス島に文明があったことが証明されました」 「うむ。これまでPresent7〜8世紀までは原始的な生活を送っていたという定説を覆す大発見だった」 「ですが、一部には信憑性を疑う意見もありますよね」 「なんといっても“三千年後への手紙”だからなぁ。今よりまだ一千年も未来へのメッセージということになる」 「今年がちょうどPresent21世紀に当たりますからね」 「いやしかしだよ。あれを物語として見たとしても、それなりに高度な文化があった証拠にはなるはずだ」 「同感ですわ。バハという未来都市と魔王の叙事詩と見れば、Present1世紀にはすでに文学があったことになります」 「文化こそ文明だよ。荒唐無稽な物語ではあるが、少なくとも彼らは文字を使っていた」 「これまで猿と変わらない生活形態とも思われていた、伝説のエルガ人らに文化があったことが証明されたわけだ」 「同時代にいたといわれるビスク原人らも同等の文化レベルがあった可能性が高くなりましたね」 「それに“バハへの手紙”発見以降、貴重な発掘が相次いでいます」 「“めるまが”や“ぶろぐ”か。あれらも同時代のものと見られるからね」 「大部分は失われていますが、残った部分を解読するだけでも大きな手がかりになりますわ」 「さようさよう。先月、私の大学の研究チームが発掘した“めるまが”にも興味深いものがあってね」 「ほぅ?」 「まだ一般には公開されていない情報ですな。是非、聞きたい!」 「まず、それには“ドン”という単語が確認された」 「“ドン”? ・・・島外のどこかで使われている呼称じゃありませんでしたっけ」 「あぁ、知ってるぞ! 確か、“首領”や“父長”を意味する言葉だったはずだ」 「さよう。つまり、Present1世紀にはすでにファミリー的な集まりが形成されていた可能性が出てきた」 「これまで言われてきた、猿山のボス猿のようなものとは違うのですか?」 「うむむ、その可能性も完全には捨て切れないが・・・まぁしばらく聞いてくれたまえよ」 「あぁ、これは失敬。どうぞ、続けて下さい」 「うむ。この“ドン”という表記に続いて、“ドコドン”という文字も確認されておるのだ」 「確か、“ドン・コルネオーネ”などという形で人名に繋がるのが自然ですよね?」 「ドン・ドコドン・・・なんだか音みたいだな。本当に人の名前なんだろうか」 「うむ、私も同じ疑問を持ってね。これらが登場する部分を重点的に解読してみたのだが」 「どうでした?」 「どうやら、この“ドコドン”なる“ドン”は多くの場合に蛇と共に姿を見せたようなのだよ」 「蛇、ですか」 「うむ。それも真っ白な大蛇らしい」 「真っ白な・・・なんだか祟りがありそうですわね」 「おいおい、そんな非科学的な」 「いやいや、そうとばかりは言えんよ。なにせ彼らはPresent1世紀の原人たちなのだからね」 「あぁ、そうでした。呪術者が支配階級という古代文明は数多くあります」 「うむ。それにこの白い大蛇だが、どうやら集まる民衆を空に浮かべ、次々と丸呑みにしていったらしいのだよ」 「おそろしい・・・生贄の儀式でしょうか?」 「うむ。きっとこの白い大蛇を神と崇め、未開の土着宗教にしばしば見られる“血の祭祀”を行っていたのだろう」 「我々のような文明人からすると愚かしいというか・・・おどろおどろしいものを感じますねぇ」 「そうだろう。だが、この原始的な宗教である点がだね、一つの論拠にもなるのだよ。“ドン”“ドコドン”の」 「というと?」 「今、我が大学の研究チームでは二つの派に別れておるのだ。すなわち、“人名”派と“音”派の」 「ドン・ドコドン・・・響きからすると、どちらとも言えないものがありますねぇ」 「ここで思い出してくれたまえ。かの白い大蛇を祭る原始的宗教を」 「あぁ! つまり、あれは“音”・・・たとえば太鼓のようなものだと?」 「そうなんだよ! “ドンドコドン”、まさにネイティブ部族らの宗教にお決まりの太鼓の音じゃないかね」 「確かに」 「まったくもってその通りですわ」 「つまり、彼らは白い大蛇をドンドコドンという太鼓で迎えたのだろう」 「なるほど、納得です」 「ちなみに、この白い大蛇だが。戯れに姿をみせては、ダイアロス島を闊歩していたようなのだ」 「戯れに? 何か目的などは無かったのですか?」 「うむ。神というより、手のつけられない野生動物だったのかもしれんな」 「あぁ、強くて手を出せない災いを信仰対象とする傾向は珍しくありませんものね」 「この白い大蛇は普段は酒を奉じられては眠りにつき、気まぐれに姿をみせるということを繰り返していたようだ」 「そして、民衆を空に浮かべ、次々と丸呑みにしていった・・・」 「人を空に浮かべるという部分は、大蛇に宙高く咥えられている様子をあらわしているんじゃないかな」 「そう考えるのが自然でしょうね」 「いつやってくるか分からないんじゃ、物騒で仕方がありませんねぇ」 「信仰の対象になるのもむべなるかな、だな」 「台風やイナゴの群れといった災害のようなものだったのだろうね、この白い大蛇は」 「うむ。だが、この白い大蛇はかなりの信仰を集めていたようなのだよ」 「そうなんですか?」 「うむ。おそらく、彼らは喜んでその身を捧げたのではあるまいか」 「暴虐な神ほど、強い力ゆえに信仰を集めるというケースも珍しくはありませんものね」 「その通り。他にもだね、エルアンなる地に信者が攻め寄せ、虐殺を行った逸話もみられるのだ」 「宗教戦争ですか! 肥大化した宗教のお決まりのパターンですね」 「文献『Kill'em ALL Lizardman』の記録によると、なんでも“鱗”を捧げたようなんだな」 「鱗? ・・・エルアンの民には鱗があったのでしょうか?」 「魚から哺乳類への進化か・・・それはどうだろうな。むしろ、代表的な装飾品とかじゃないか?」 「あるいは鎧などの一部かもしれませんよ。そういう鎧を見たことがあります」 「だとすると、エルアンは古代にしてはかなり進んだ軍事力を持っていた可能性があるね」 「それを虐殺したのなら、こちらはそれを上回る軍事力を有していたことになりますよ」 「う〜ん、やはりこの時代の人々は野蛮で粗野な傾向が強かったのだろうね」 「うむ。まだ解読中だが、“D159706”“E131191”“P121305”という部分があるのだが」 「その数字は・・・」 「うむ、どうやら蛇神に捧げた鱗の数と思われるんだな」 「“E”“D”“P”というのは・・・ひょっとしたら、主だった部族の略語かもしれませんね」 「なるほど。競って白い大蛇への忠誠を示したわけだ」 「もし数字が人数をそのまま示しているなら、凄まじい規模の虐殺が行われたことになりますよね」 「うむ。宗教がからんだ争いというのは歯止めが利かんものだ」 「理性や感情より上位に信仰心がありますからね」 「そういう見方をしてしまうと、宗教は文化レベルの劣った証左の一つとも・・・」 「しーっ! そんな発言をすると面倒なことになりますよ。気をつけないと」 「そうですよ。宗教ってのはまさに理性や感情を押さえ込んでしまう面がありますからね」 「何事も行き過ぎれば・・・だね」 「あぁ、脱線してしまったな。いや申し訳ない」 「いえいえ」 「そういえば、その白い大蛇に名前などはあるのですか?」 「神として祭られているなら、何か名前くらいありまそうですよね」 「うむ。どうやら、この白い大蛇は“ババー”というらしい」 「ババー、ですか?」 「うむ。民衆の一人が白い大蛇を指差して、“ババー”と叫ぶ描写があったのだよ」 「なるほど」 「あの・・・言いにくいのですけれど、それは“ババァ”ではありません?」 「ババァ? あ、つまりその、ある程度の年齢を召した女性に対するスラングというか・・・」 「ええ。かくいう私も甥っ子に言われたんですのよ、“ババァ”って。もう口汚いったら・・・どんな躾けをしてるのか」 「は、はぁ」 「そりゃ私ももう若くはありませんもの。おばさん、くらい言われても仕方がありませんわ」 「あ、いや、それは・・・」 「でも! そう言われた子には優しくは出来ませんわよねぇ・・・そう思いません?」 「そ、そうですね・・・いや、まったく道理です。ハイ」 「いやいやいや、待ちたまえ!」 「はい?」 「思い出してくれよ? この白い大蛇は仮にも神として祭られているということを忘れてはいかん」 「あぁ、そうでした!」 「となると、スラングとしての“ババァ”という可能性は無いね」 「同感だな。ありえないよ」 「間違いないですね」 「うむ。どうなることかと思ったが・・・つまりだ、この白い大蛇は“ババー”か“バーバ”なる名前だったようなのだな」 「気に入らない名前を信者に呼ばせる神もいないでしょうから、案外気に入っていた名前かもしれませんよ」 「う〜ん、そうかもしれないなぁ」 「私個人は好きになれませんけれど、好みは人それぞれですものねぇ」 「しかし・・・“ババー”か!」 「ババー」 「ババー」 「「ババー!」」 「おいおいやめてくれよ! なんだか可笑しくてたまらなくなってきちまうじゃないか」 「なんだろうね、この愉快な気持ちは」 「背徳的というか、畏れ多い楽しみ・・・って感じだな!」 「ババー・・・あぁ、まずい。つい口に出してしまうよ」 ドンドコドン・・・ 「ん? 何か聞こえなかったか」 「うん? 気がつかなかったが・・・気のせいだろう」 ・・・ドンドコドン・・・ 「いや気のせいじゃない! ほら、耳をすませてごらんよ」 「・・・」 ドンドコドン・・・ドンドコドン・・・ 「あ〜・・・なんだか、その・・・」 「太鼓の音みたい?」 「ふむ? 今夜は近くでお祭りでもあったんだったかな・・・」 「太鼓の音といえば・・・」 「・・・」 「同じことを考えたみたいだな。どうだろう、一斉に口に出してみようじゃないか」 「やですわ、もう。まるで子供みたいに」 「そういうキミだって同じことを考えたんじゃないかね?」 「ノーコメント!」 「ほらほら、さぁいくよ・・・いっせい、のーで!」 「「「「ババー!!」」」」 「わーはっはっは! やっぱり皆そう思ったか」 「いやいや、これはもうお約束ですよ」 「くっくっく。このタイミングで太鼓の音は、ねぇ?」 「はーはっはっは」 ドンドコドン・・・ 「おや、誰かきたようですよ」 「あ、本当だ。僕が出ましょうか?」 「うん、頼めるかな。もっとも今夜はせっかくの座談会だから、客人でも丁重に帰ってもらうことになるけどね」 「了解。じゃ、ちょっと失礼しますよ」 ・・・ドンドコドン・・・ 「はーい、はいはい。今出ますよっと」 ドンドコドン・・・ 「おや、これはキモノを着たお嬢さん・・・何か御用、うわ何をするやm(ry」 ・・・ドンドコドン・・・ドンドコドン・・・ 「・・・遅いな」 「誰か知り合いだったんでしょうかね」 「私も見てきましょうか?」 「あ、待った! 戻ってきたようだよ、ほらドアが・・・あぁ!?」 ドンドコドン・・・ 「やれやれ、遅かったじゃないか! 待ちくたびれて振り向く元気もないよ」 「きょ・・・教授・・・う、うし・・・」 「うむ? 牛? 牛がどうかしたのかね」 ドンドコドン・・・ドンドコドン・・・ 「ほら、早く部屋に入って席に着きなさい」 「・・・う、うし・・・うし・・・ろ・・・」 「うむ? なんだキミまで化け物でも見たような顔で。私の後ろに何が・・・」 ・・・ドンドコドン・・・ドンドコドン・・・ドンドコドン・・・ 「アーッ!!」 ドンドコドン・・・ドンドコドン・・・ドンドコドン・・・ドンドコドン・・・ |