** アイスクィーン **
《アイスクィーン》
え? アイスクィーンは可哀相な村娘だった、ですって? おやまぁ。 そうですね・・・今では、そう言う人のほうが多いのでしょうねぇ。 ええ、もちろんですよ。 伝説はいつだって歪曲されたもの・・・ たとえ、真実のかけらは紛れているにしてもね。 そう、彼女に関しては・・・確かに、とても可哀相な女性でしたよ。 けれど、村娘なんかじゃなかった。 彼女は、強く・・・そして、どこか脆い“冒険者”の一人だったのです。 -------------------------- それは、デビアスにとある一人の女の子が生まれた夜のことでした。 新しい命の産声が響いた夜。 そう、誰からも祝福されるべき夜のはずだったのに・・・ どこからともなく、その小屋の中に歌うような声が聞こえてきたのです。 綺麗は汚い、汚いは綺麗・・・ きれいはきたない、きたないはきれい・・・ それは暗く、ひどく不安にさせる歌声でした。 まるで、冥界の霧の奥から聞こえてくるような。 そして、一つの人影が母子の枕元に立ったのです。 ウィッチクィーン・・・魔界の女王エレシュキカルと契約した魔女の女王でした。 彼女はこう告げました。 この子の名前は、ヒトリボッチよ・・・ 魔女はクスクスと微笑い、怯える産婆の影の中に消えていきました。 まるで雪が解けるように。 闇に融けるように。 後に残された母親が傍らの我が子を見たとき、彼女は息を飲みました。 娘の耳は・・・まぎれもない、エルフのものだったのです。 チェンジリング。 取替え子。 悪戯好きの妖精のせいとも、邪悪な魔女のせいともいわれる忌み子。 人間の両親から生まれた・・・妖精の子供。 母親は娘に名付けました。 レベッカ。 そして、言ったのです。 「レベッカ・・・願い事を言いなさい。そして、叶えなさい」 彼女は強く願いました。 「私のかわいい娘・・・魔女の呪いなんかに負けてはダメよ」 かわいそうな雪の娘。 おまえは何ひとつ、悪いことなどしていないというのに。 そのとき、デビアスの夜空を見上げた者がいたとしたら・・・ 漆黒の幕に覆われた天空から、不安になるほど美しい月が見下ろしていたことに気づいたでしょう。 それは凄絶なほど冷麗でありながら、ひどく欠けた月でした。 まるで、魔女の微笑いを映したような三日月・・・この世で最も不吉な貌が天空から哄う、そんな夜の出来事。 彼女はデビアスで、人間の両親を持つエルフの娘として育ちました。 子供はときとして冷酷なもの。 彼女は鬼っ子でした。 いつも仲間外れにされ、ヒトリボッチでした。 レベッカが独りで泣きながら眠りつく夜、空には必ず三日月が輝いていました。 まるで・・・あの魔女が見下ろしているように。 やがて、レベッカは冒険者の道を歩み始めました。 嗚呼、なんという発見! 今まで憧れ続けていたものが手に出来ると分かった瞬間の喜びを、一体どう表現したら良いでしょう? 仲間、友達・・・ それはずっと、自分が一度だってもらったことのない、まるで他人宛ての贈り物のようだったというのに。 血が出るほど喉をかきむしり、ずっとずっと渇いていた心に零れ落ちた一滴。 その夜、デビアスの小屋の中で彼女は泣きました。 泣きながら眠りについたのです。 嬉しくて嬉しくて、このまま死んでもいいと思いました。 月よ、落ちてこい。 あたしを呪う三日月よ・・・今、あたしの上に落ちてこい。 今この幸せの中なら、あたしの時計は壊れてもいい。 時よ、眠りにつけ・・・ レベッカは魔法を学びました。 癒しの魔法だけでなく、攻撃を倍化させ、守護の魔法で仲間に貢献しました。 とても優れた冒険者で、いくつもの魔物退治を成し遂げたものです。 いえ、もっと正確に言うなら・・・魔物退治に明け暮れていたと言っても良いでしょう。 来る日も来る日も冒険に出て、魔物を狩っていたのです。 けれど。 そんな活発な表と裏腹に、彼女の心はひどく弱かったのです。 本当は、いつだって孤独を恐れ続けていたといっても良いかもしれません。 彼女はいつも仲間に囲まれながら、そのくせ孤独を意識して怯えていました。 毎日繰り返される新しい出会い。 それは彼女にとって宝物を集めるようなものでした。 もっと、もっと・・・ もっともっともっともっと。 いつしか、レベッカは天空の不死鳥をも墜とす熟練者たちの高みに上がっていました。 そして、彼女を待っていたのは非情な現実でした。 いつのまにか辿り着いてしまった高み。 そこには多くのエルフがあふれていました。 永い寿命を持つが故に、あまりにも多くの熟練者のエルフたちが仲間に巡り合えずにいたのです。 誰か、あたしと一緒に旅を・・・誰か・・・ それは、子供の頃から大切にしてきた宝物を、あたためてきた夢を取り上げられるようなもの。 幾度、街角で名乗りをあげて断られ続けたでしょう? そのたびに、手に出来なかった仲間達の中に見えたエルフを彼女は見つめました。 あたしの夢をあなたの足の下に。 そっと踏んでほしい・・・あたしの大切な夢だから。 いつのまにか、呼吸は時を刻む時計の音と同じになってしまった。 ある夜、彼女は三日月を見上げて呟きました。 あたしの名前は・・・ヒトリボッチ・・・ そのときでした。 どこからか禍々しい風が吹き、レベッカの前に懐かしい人影が現れたのです。 魔女の女王、ウィッチクィーン。 魔女は言いました。 「おまえの望みを叶えてあげよう」 ひどく優しい微笑みを浮かべて。 けれど、レベッカは絶望していました。 「いいえ、あたしはもう何も要らないわ・・・願いがあるとすれば、あたしの全てを奪ってほしいということ。過去も現在も、未来も」 魔女が杖を一振りすると、レベッカは夢の中にいました。 周りには魔物たちがあふれていました。 魔女の口からもれた言葉は、とうに他界した母の声でした。 「レベッカ。絶望を信じるよりも、絶望を疑いなさい・・・叶うはずがないと思った絶望を」 母親が決して浮かべなかったような微笑に唇を歪ませて。 疑いなさい。 疑え、疑え疑え。 疑心暗鬼になって疑え。 本当に叶わないのか? と・・・ レベッカは周囲を見まわしました。 どこを向いても、魔物たちだけ。 たくさんの魔物。 どちらを向いても、魔物の・・・魔物の仲間たちだけ。 一匹の魔物が進み出てきて、言いました。 「わたしはあなたの番犬になりましょう」 周りの魔物たちが唱和します。 「ようこそ、われわれの女王!」 「雪のように凍えた魂の娘よ!」 と。 そして、最初の魔物が言ったのです。 「孤独さえ寄せつけない、わたしはそんな番犬となりましょう」 ・・・彼女の答えは決まっていました。 魔将ミアヌスがレベッカを求めたのではありません。 彼女の方が・・・ そして、彼女が選んだのはデビアスでした。 かつて、彼女が生まれ・・・そして何よりも、夢が手に出来ることを知った頃の喜びの地。 あの頃に狩りたてた魔物たちに囲まれて、今やレベッカは独りではなくなりました。 今も、雪解けの水溜りに映った顔を覗き込んで、彼女は涙を流すのです。 零れ落ちた涙が水面を揺らし、凍りついた表情が崩れたように見える・・・そんな毎日。 雪に包まれた世界で、彼女は慟哭する。 けれど、雪が嘆きを綿のように吸い込むから・・・誰一人として彼女が泣いていることに気づかない。 アイスクィーン。 彼女の名はレベッカ。 そして、あるいは・・・ヒトリボッチ。 1. アイスクイーン 2. レベル(52) 体力(4000) 最小攻撃力(155) 最大攻撃力(165) 防御力(90) 防御成功率(76) 3. デビアスの美しい村娘レベッカが、その美しさと気丈さ故に、冥王クンドンの部下である猛将ミヌアスの目にとまる。 度重なる求婚を断り続けた彼女は、ついにミヌアスの怒りに触れ、永遠に死ぬことができない呪いを受けて雪原をさまようようになった。 頭上に輝くティアラが彼女の意識を操作し、氷の魔法で攻撃を行う。 自分の呪いを打ち破り、死の安らぎを与えてくれる者を、デビアスの北東部でひっそりと待ちつづけている。 〜MU公式サイトより抜粋〜 ※作中の引用や参考 シェイクスピア『マクベス』 加納朋子『ガラスの麒麟』 ボンボヤージュ『ちびっこギャラリー』
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